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ヤンキーVS魔法少女  作者: 平良野アロウ
第一章 一次・二次予選編
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第9話 墓場にて想う

 拳凰とカニミソとの戦いから、一ヶ月が経った。

 拳凰は相も変わらず魔法少女バトルへの乱入を続けていた。加門公園は勿論、様々な試合会場に赴いてはその場にいる魔法少女を全て倒して帰っていった。

 妖精界での「乱入男」人気は衰えを見せず、放送局は拳凰の乱入しそうな試合を予測した上でその放送権を勝ち取るために躍起になっていた。

 妖精騎士団は拳凰の存在に手を焼いていたが、命令がある以上手出しができずもどかしい思いをする日々を送っていた。

 そんな中、ホーレンソーは多忙な仕事の合間を縫って密かに調査していた拳凰の情報を、人間界の自宅で纏めていた。

(最強寺拳凰、年齢的には高校二年生だが一回留年しているため一年生。好戦的な性格をしており、強敵との戦いを何よりも好む。凄まじい身体能力と戦闘センスの持ち主であり、中学時代から喧嘩は負け無し。家族構成は叔母と従姉妹との三人暮らし。両親は四年前に事故で他界しており、現在は叔母に引き取られている。従姉妹の白藤花梨は魔法少女バトルの参加者であり、治癒の魔法を使用。魔法少女との戦闘で負傷した最強寺の傷は彼女が治療している……)

 調査記録を机の上に並べ、ホーレンソーは溜息をつく。

(色々と調べはしたが、やはり彼が結界内に侵入できる理由はわからない。強いて何かあるとするならば、やはり従姉妹の白藤花梨が魔法少女である点が関与してる可能性は高いが……)

 ホーレンソーは椅子に深くもたれかかり、目を瞑って天井を見上げた。ただでさえ仕事の疲れが溜まっている状態で拳凰の調査までするのは、普段から鍛えているホーレンソーでも骨の折れることであった。

 そもそも妖精騎士の仕事は激務である。会場の整備や試合の立会い、試合内容の記録等は勿論のこと、担当する各魔法少女の自宅に赴いての仕事も沢山ある。

 妖精騎士団は妖精界の治安を守ることも重要な仕事であり、定期交代で常に二人は妖精界に残る必要がある。現在は魚座(ピスケス)のムニエルと蠍座(スコーピオン)のハバネロが妖精界に戻っており、魚座と蠍座の魔法少女は他の十人が分け合って担当している。その上、拳凰出現のトラブルが起こった結果蟹座(キャンサー)のカニミソが拳凰討伐に失敗して行方を眩まし、挙句の果てに牡牛座(タウラス)のビフテキまでもが突然調べ事があると言って妖精界に帰ってしまった。現在の妖精騎士団は、言うなれば十二人分の仕事を八人で回している状態なのである。

(明日もやらなければならないことが沢山ある。今日はもう寝るか)

 時刻は深夜零時を回っていた。ホーレンソーは一先ず考えるのをやめ、頭と体を休ませることにした。


 同刻、拳凰は魔法少女との戦いを終えて帰宅していた。今日も快勝、さほど苦戦することもなく二人を倒してきた。

「おう、帰ったぞ」

「おかえりケン兄。今日は遅かったね」

 眠たい目を擦りながら、花梨が出迎える。

 今日は遠い会場に行っていたため、拳凰の帰りはいつにも増して遅くなっていた。

「チビ助お前まだ起きてたのか」

「しょうがないでしょ、ケン兄がケガして帰ってきたら治してあげなきゃいけないんだから」

「そうか。でも今日は殆ど無傷で勝ってきたぜ。明日は朝早いんだ、お前はさっさと寝ろ」

「うん……そうする。おやすみケン兄」

「おう」


 翌朝。梅雨時には珍しい快晴。拳凰と花梨、亜希子の三人は、朝から出かけていた。行き先は郊外の墓地である。

 黒いスーツに身を包み、いつに無く神妙な表情で亜希子の車から降りる拳凰。その後から花梨と亜希子も車を降りた。

 三人は二つ並んだ墓の前に来ると、お供えをした後手を合わせる。

「親父、お袋、それと和義伯父さん、今年も来たぜ」

 二つの墓のうち片方は、拳凰の両親のもの。もう片方は花梨の父親のものである。今日はこの三人の命日であった。

「あなた、花梨が中学生になったのよ」

「ねえお父さん、制服、似合うかな?」

 セーラー服を見せるようにポーズをとり、墓石に話しかける花梨。

「親父、お袋、俺また背伸びたぜ。遂に百九十超えたんだ。まだ親父には及ばねえけどな」

 拳凰の父、(とおる)は、日本に帰化した外国人である。拳凰の金髪と翠の目はこの父親から遺伝したものだ。最強寺という変な苗字を名乗ったのは、外国人故の妙なセンスによるものだと拳凰は考えている。

 徹は海外に行くことの多い職に就いていたため、普段から家にいないことが多かった。その代わり帰ってきた際には海外の様々なお土産をくれ、目一杯遊んでくれた。強く優しく、拳凰にとって自慢の父であった。

 母の美緒(みお)は日本人である。八つ年上の徹と高校生の時に出会い、卒業後まもなく拳凰を産んだという。外国人の夫に加え十代での出産とあって世間からは偏見の目で見られがちであったが、それでもめげず夫が家にいない間も立派に拳凰を育てた強き母である。

 亜希子の夫で花梨の父である和義は、美緒の兄に当たる。職人気質の料理人で、拳凰もよくご馳走になっていた。


 丁度四年前の今日は、徹がドイツから帰国する日であった。和義の運転する車で美緒が空港に迎えに行き、中学一年生だった拳凰は家で一人留守番することになっていた。

 久しぶりに会える父。拳凰は話したいことが山ほどあった。中学でもクラスで一番背が高いこと、体力測定で全種目一位だったこと、下級生を苛める上級生をやっつけたこと……一体何から話そうかと、胸を躍らせながら父の帰りを待っていた。

 しかし、父が家に帰ってくることはなかった。空港で徹を乗せた帰り道、和義の車が事故に遭い、乗っていた三人は帰らぬ人となったのだ。

(親父……)

 拳凰はレンズの割れた眼鏡をポケットから取り出す。それはいつも徹が掛けていた形見の品であった。拳凰が以前なんとなくこの眼鏡を掛けてみた際に初めて知ったことなのだが、実はこのレンズには度が入っていない。単なるファッションとして掛けていたものだったようである。


 戦っている時とはまるで別人のように、穏やかな表情をする拳凰。花梨はその姿に、昔の拳凰の面影を垣間見ていた。

 背が低く周囲からからかわれがちな花梨を、いつも守ってくれる従兄弟のお兄さん。そんな拳凰に、花梨は幼い頃からずっと憧れていたのだ。

 小学生時代の拳凰は、さながら強きを挫き弱きを助ける正義のヒーローだった。力仕事が得意で、困っている人には手を差し伸べる優しさ。そして弱いもの苛めを許さず、上級生や大人が相手でも構わず立ち向かう勇気の持ち主。当時から問題児扱いはされておりその存在をよく思わない者も多かったが、花梨に限らず多くの生徒から慕われていた。

 だが両親を亡くしてから、拳凰は変わってしまった。小学生の頃から大人と喧嘩して普通に勝つくらいに強かったが、少なくとも自分のためだけに暴力を振るうような人間ではなかった。それが自分から他の不良に喧嘩を吹っ掛けるようになり、強敵との戦いと更なる強さの追求に固執するようになってしまったのだ。

 花梨にとって拳凰が色んな人から嫌われていくのはとても辛く、危険なことばかりするのには心配が絶えなかった。

 そして今では魔法少女とも戦うようになり、これまでにないような大怪我をして帰ってくるようになった。自分が治癒の魔法を使えなかったらと思うと、恐ろしくて仕方が無かった。

(徹叔父さん、美緒叔母さん、どうかケン兄を守ってあげてください……)

 花梨は拳凰の両親の墓に祈った。

 墓周りの手入れを終えた後、三人は墓地を後にした。

 帰り道の途中、車はコンビニに立ち寄った。

「私、アイス買ってくるね」

「俺の分も頼むわ」

 車を降り、コンビニに入る花梨。

「いらっしゃいませカニー」

 朱色の髪の店員が、花梨に挨拶をした。花梨は自分と拳凰の分のアイスを買うと、すぐに車に戻る。

「ありがとうございましたカニー」

 花梨は拳凰にアイスを渡し、シートベルトを締める。ふと、先程の店員の顔に既視感があることに花梨は気付いた。

(あれ? さっきの店員さん、どこかで……気のせいかな?)

 花梨が店を出て行った後、カニミソは店長から叱られていた。

「だから語尾にカニ付けるのやめろっつってんだろ!」

「申し訳ありませんカニ! よっぽど集中してないとつい語尾に付いちゃうんだカニ!」

 涙目になって謝るカニミソ。その姿にはかつて拳凰をあと一歩まで追い詰めた妖精騎士の威厳が、最早どこにも無かった。


 アルバイトを追え、帰宅したカニミソは布団の上に倒れ伏す。

(どうしてこんなことになってしまったんだカニ……)

 拳凰に敗れフェアリーフォンを奪われたカニミソは、貧乏生活を余儀なくされていた。以前は高級マンションに住んでいたカニミソであったが、家賃の問題で現在は安アパートに引っ越していたのである。

 人間界にいる間、妖精騎士団は妖精界から振り込まれた給料をフェアリーフォンを通して引き出している。給料は妖精界の通貨で振り込まれるが、滞在している国の通貨に自動で両替される機能がフェアリーフォンには備わっている。しかしこのシステムは、フェアリーフォンが手元に無ければ給料を引き出すことができないという問題も抱えていた。

 人間界での生活費を稼ぐため、カニミソはコンビニでのアルバイトを始めていた。忙しさや難しさでいえば、魔法少女バトル中の妖精騎士の仕事の方が圧倒的に上であった。しかし妖精騎士としての誇りを持って働くことができるため、カニミソにとってそれは苦痛ではなかった。名門貴族の生まれであるカニミソにとって、コンビニでの下働きは非常に辛いものだったのだ。

 カニミソの腹が、大きく鳴った。妖精界にいた頃は、いつも屋敷の一流料理人が食事を作ってくれていた。人間界に来てからも、高給に物を言わせて高いレストランに通っていた。それが今ではあまりにも金が無く、食べるものさえ困窮している状態にある。

 ふと、以前ハンバーグから聞いた話がカニミソの脳裏をよぎった。三ヶ月ほど前、ハンバーグは仕事をサボってパチンコで荒稼ぎをしていたことがあった。そこで店員からイカサマを疑われヤクザの事務所に連れて行かれたところ、逆にヤクザを全員病院送りにしたという。カニミソはチンピラのしょうもない武勇伝だと聞き流していたが、そのパチンコを利用すれば今の少ない金を増やせるのではないか。そんな考えが浮かんでしまったのだ。

(いかんカニ! 誇り高き妖精騎士であるこの俺が賭博に手を染めるなど、あってはならないカニ!)

 騎士としての誇りと、困窮した生活を改善できる可能性を天秤に掛けた葛藤。

(そもそも、フェアリーフォンさえ取り返せばいいだけの話じゃないカニ!)

 フェアリーフォンを失ったことによるデメリットは、決して給料を下ろせないことだけではない。当然仲間との連絡をとることはできないし、妖精騎士団の人間界拠点にワープするためにもフェアリーフォンが必要である。仲間とコンタクトをとる手段を絶たれ、援助を頼むこともできない八方塞。勿論試合会場や魔法少女の自宅にワープすることもできず、妖精騎士としての務めを果たすこともできない。最早今のカニミソは、騎士の誇りだ何だと口で言っているだけの貧乏フリーターでしかないのである。

(このままでは父上に会わす顔が無いカニ! おのれ最強寺拳凰……必ずやお前を倒しフェアリーフォンを取り返してみせるカニ!)

 カニミソは立ち上がり、僅かな小銭を握り締める。

(腹が減っては戦はできぬカニ! とりあえずおにぎりでも買ってくるカニ!)

 家を出て、最寄のコンビニへと足を進める。

 道行く途中、カニミソは路地裏から数人の男達の話し声を聞いた。

「そうなんですよ尾部津さん! 最強寺拳凰が修行から帰ってきまして……」

「あいつがいない間は天国だったのに、今はもういつ襲われるか怖くて仕方が無いッスよ」

「俺なんてこの間いきなりぶん殴られて一週間入院したんスよ! ただ喝上げしてただけなのに……」

 最強寺拳凰という名前を、カニミソは聞き逃さなかった。

「そっ、そこの君達、今最強寺拳凰って言わなかったカニ!?」

 カニミソは慌てて路地裏に駆け込んだ。

「あ? 何だこのホストは?」

 柄の悪い男達が、一斉にカニミソの方を見る。その一番奥でふんぞり返っているのは、般若のように恐ろしい顔をした屈強な大男。

「このお方を何方(どなた)と思ってやがる! かつて最強寺拳凰と互角に戦った伝説の男、尾部津(おぶつ)屑道(くずみち)さんだぞ!」

 手下の一人がそう紹介すると、尾部津は並びの悪い歯を見せてニヤリと笑った。

(最強寺拳凰と互角!? こいつは……使えるカニ!)

 突然の出会い。カニミソの心に、光明が差した。



<キャラクター紹介>

名前:白藤(しらふじ)亜希子(あきこ)

性別:女

年齢:37

身長:150

髪色:黒

星座:山羊座

趣味:カラオケ


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