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「私と駄菓子屋の店主」シリーズ

私は感情が見える駄菓子屋のロリコンイケメン店主が好き

作者: 平子 奈都亜

『12歳以下の女の子必見! 本日駄菓子全種無料!!』


 そんな貼り紙が、駄菓子屋の引き戸に貼られているのを見て、学校帰りで疲れていた私は更に顔をしかめた。

 中からは、女の子たちの楽しそうな声が聞こえる。数もそれなりにいるようだ。


 私は一つため息をついてから、引き戸をガラッと豪快に開ける。物凄い音がして、数10人の女の子たちは驚きの顔を私に向けた。


 私はそれを無視して俯きながら、着物を着ているこの店の店主に近づく。店主は駄菓子が並んでいる棚の奥、3畳ほどのスペースに座布団を敷いて座っていた。クルクルに跳ねた黒髪、全く拭いていない事が容易にわかる黒縁眼鏡。そんな店主の表情はニヤけている。まさか、こんなにもたくさんの女の子が来るとは思わなかったのだろう。

 店主のだらしがない顔に平手打ちを食らわせたくなる衝動を何とか抑え、私はその前に立った。

 店主はハッとして瞬きを繰り返す。そして、眉間に皺を寄せながら口を開いた。


「お前……また来たのか。ほらほら、どけよ。俺は女の子たちのピュアで楽しそうな感情を見てぇんだ。お前みたいな邪心しかない奴の感情を視界に入れてる暇なんかねぇ」


 店主は不機嫌そうな顔で言い、私を邪魔者のように扱う。

 この店に初めて来た時は、こうではなかった。ちゃんと、私の事を見てくれた。高校2年生なんてもうロリをとうに過ぎ去っているのに。

 私は、下唇を噛んで拳を固めた。震える身体、目には涙が溜まっていく。


 いつからか私に対する店主の態度は変わった。いつから変わったのか、もう覚えていない。戻れるなら、あの頃に、まだ店主が私の話をきちんと聞いてくれていたあの頃に戻りたい。

壊れかけていた私の心を救ってくれた店主。私にとってのヒーロー。そんな店主を、私は好きになっていた。


 でも。その気持ちは、感情は。邪心らしい。

 邪心、よこしまな心。よこしま、正しくない事。

 正しくない心。

 そうだよね。私みたいなネガティブで不器用で良い所なんて一つもない、そんな女に好かれたって嬉しくないに決まってる。

 遂に堪え切れなくなって、涙が頬を伝った。店主はそれを見て目を見開く。

 私は逃げるように店を出た。


 どうやら、私の初恋は最悪の結末で終わりを迎えるようで。

 泣いた。涙が枯れるまで。ずっと、ずっと。

 もう、駄菓子屋なんかに行かない。あんな店主の事なんて忘れるんだ。

 しかし、浮かび上がる優しい笑顔。私のために怒ってくれた時の顔。私の話を聞いて泣いてくれた時もあった。慰めてくれて、頭を撫でてくれて。


「ひぅ……っ、あぁっ……あぁああぁああっ……!!」


 そう簡単に忘れられない。全部、全部大切な思い出。初めて私にも味方がいるとわかったのに、それを忘れるなんてできなかった。


「好きっ……好きだよぉ……っ!」


 どうせ届かない。届かない事はわかりきっている。それでも、もう一度私を見て欲しかった。

 店主の事が好きだと店主自身の目で見て、わかってもらいたかった。



 翌日、学校帰り。

 足が勝手に駄菓子屋へと向く。行きたくない、もう会いたくない。その気持ちとは裏腹に、足は止まる事を知らない。

 駄菓子屋に、着いていた。


「……嘘」


 昨日とは違う貼り紙が、引き戸ではなくシャッターに貼られている。

 ただ一言。


『本日をもって閉店します』


 何故。急過ぎる。待って、そんな……やだ。

 行かないで。

 私は膝から崩れ落ちる。涙が静かに流れた。

 その時、肩に手を置かれる。


「ほら。邪心だらけの男に惚れても良い事ねぇだろ」


 私は声にビクッと反応して、振り向いた。

 そこには、呆れたような顔をした店主が立っていた。



 裏口から入れてもらった私は、店主がいつも座っている座布団に正座をして出されたお茶を飲む。店主は駄菓子を食べながら、私を見ていた。

 私は目をキョロキョロ動かしながら、湯呑みを置いた。

 すると、店主が口を開く。


「今まで、悪かった」

「……えっ?」


 いきなり謝った店主に、私は耳を疑った。首を傾げれば、店主はいつにも増してクルクルでボサボサな髪を掻く。そして、全てを語ってくれた。


 店主に見えない感情はない。どんな感情だって、一目でわかる。だからこそ、私が店主に抱いていた思いにもすぐに気づいた。

 気づいたからこそ、遠ざけようとしたらしい。

 理由は簡単。店主がロリコンだから、ではなく。駄菓子屋を営んでいる男の収入なんて高が知れている。しかも、店主は人の感情が見えてしまうからこそ、大勢の人がいる所では入ってくる感情が多過ぎて働けない。だからこそ、比較的やって来る客が少ないであろう駄菓子屋を始めた。

 そんな男を好きになっても、私が報われない。今は良くても、将来必ず後悔する。そんな思いは、させたくなかった。

 ロリを大勢集めたのだって、私にキモがられるためだったとか。いくら好きでも、10人以上はキツイらしい。


 私は、キュッと結んでいた唇をゆっくりと動かした。


「……。ちなみに、今の私の感情は見えますか?」


 そう聞けば、店主は私をジッと見た後、すぐに目を逸らす。


「……良いのか。俺なんかで」

「貴方だから、良いんです」


 私は笑顔でそう言った。

 私のヒーローさん、これからもよろしくお願いしますね。


これも勢いで書いてしまいました…笑

ここまで読んでくださってありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかキュンキュン来ました。 この店主さん、いい! 着物ってところとか。でも身だしなみは悪いってところとか。 この店主さんのように、不思議な力って言うほどでもないですけど、すごく繊細で、過…
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