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3話 ピュトンの秘密

ピュトンにとって森の外へ行く、という行為は日常生活の一部だった。


12歳になった頃から毎日森へ出向き、森の恵みや薪になる木を拾いに出向いている。



ピュトンは両親を亡くしたあと深い絶望を感じ、その時期は何も考えられなくなった。


その空白をうめてくれたのがステラおばさんだ



食べても味がわからなくなった僕に、毎日、手のこんだ手料理を作ってくれた


夜、恐怖で外へ出られない僕を、毎回トイレまで一緒につれていってくれた


悪夢をみてうなされていると、そっと頭を撫でて、傍にいてくれた



どんなに暗い闇にも底があって、そこから足を踏み出せば抜け出せることを教えてくれた。


そんなステラおばさんの姿を見て、自分も変わりたいと願った。


そこからは少しでも役に立ちたいと、積極的に家事や村の仕事を手伝い農業もやってきた。


でも小さい僕にやれることは限られている。

はじめは食器の後片付けや部屋の掃除からはじまり、次第に成長するにつれ井戸の水組みや畑からの収穫物の加工、家畜の世など、色々とやれることが増えてきた。


そして10歳をこえてはじめて大人について村の外へ出ることが許され、森へ行く村人についてまわる。

木の実や小さい獲物の運搬などを手伝い、少しずつ森のことを知っていく。


森へ行くには16歳をこえ、成人してからいくのが通例だが、ピュトンは違った。

1年、また1年と成長するにつれ、まわりの同年代の子よりも早い速度で成長していったのだ。


10歳ですでに村の大人と同等の力を持ち、大人も休憩しながらでないと続かない力仕事を

1日通して続けてもケロっとして大人はびっくりしたものだ。


それでいていつも冷静で、獣が出たり道に迷っても動じない胆力ももっていた。


そういったことが周囲に認められ、12歳になるころには一人で森へ行く許可を得ることができた。

それからはずっと収穫物や獲物をとり、家計の助けとなるよう働いてきた。


これはピュトンに元々特別な力があったわけではない。


その理由は、この世界の仕組みや、ピュトンの生い立ちと関係する。


この世界では、すべからく【値】というものが根底にある。


【値】とは、存在するためのエネルギーそのものである。


大気や地水火などの環境、植物や鉱物、昆虫や動物、人やモンスター、精霊、悪魔という多岐にわたる存在に多かれ少なかれ【値】は存在する。


この値は個体ごとにばらつきはあるものの、種族や物によってほぼ一定である。


昆虫では1に満たないものから、100を超え気性の荒い動物はモンスターとよばれ、龍や精霊、悪魔といった伝説上の存在になると1000を大きく超えるものも存在するという。


その中で人間は個体差が激しく、一生の間でも変動が多く、平均でいうならば脆弱な種族であるといえる。


生まれたばかりの赤子は不安定な存在であり、2~10の間で、値が日々変動する。

それが5年かけて環境や個人の資質によって固定され、10歳になるまでは毎年2倍程度の上昇をする。

10歳から15歳になるまでは平均10%程度上昇するが、15歳からはほぼ変わらなくなる、訓練を行うことで多少の増加は見込める。


だが、それにしても厳しい訓練を行うことで数%程しかかわらないため、15になると成長がとまると考え成人とみなす


人間では、この【値】は血に含まれるとされている。


医学が発達していないこの世界でも、血が流出した人間は、動かなくなり、死にいたることは知られている。これを、血とともに値が流出したと考えた。


貴族や王族など、一部の階級にあるものは、一族繁栄のため優秀な子を生み出すというよりも、はじめの5年でどれだけ高い値を持つ子にするかへ普請するという。初期の値が2のものと10のものでは、15歳になった時に凄まじい差が出るからだ。


赤子の頃から値にあふれた逞しい身体を持つ牛の乳を与えたり、乳をあたえる母の食事も高級な食材を使うなどして初期値が6~9といったハイクラスな個体値を持つ子供が多く生みだすことに成功しているという。


庶民のピュトンにとって、そんな貴族しかできない子育てには縁がなく、5歳になった時点の初期値は2と平均的な数字だった。


しかし、血と【値】の関係、ここにピュトンの秘密がある


両親と襲われたあの日、母は命をかけてピュトンを守ろうとした。


その結果ピュトンをかばい、倒れてしまった。

通常、死んだものの値は、血の流出と共に失われ、死体と共に最期には大地や水、天へと還る。


(例外としてモンスターを倒した時、そのモンスターが相手を強者と認めた場合のみモンスターの値から一握りが倒した相手へ移ることはある)


しかし、死の際で、母の『自分の存在全てをかけてピュトンを守る』という強い願いを身体に満たした状態で、その血をあびたピュトンへと、受け継がれていったのだ。


母の初期値は3と農家の娘にしては高かったが、とりたてて特徴のない娘だった。

そして、15になるまで順調に成長し、成人として平均的な150程度の値を持って暮らしていた。


それが6歳のピュトンへと受け継がれ、6歳の時点で154という破格の値を持つ少年になってしまったのだ


そこから1年ごとに平均的に成長し、7歳で300、8歳で600、9歳で1200、10歳で2400と、通常の村人の数十倍、貴族の数倍以上の個体値を持つに至った。


保有する値が高いから、すぐに何でもできるというわけではない。


しかし、値とは、存在するためのエネルギー


ステラおばさんを助けるために大人のような強い力がほしい、働いても疲れない体力が欲しい、とピュトンが願いそのように努力すれば、そうなるよう結果がでたのは当然のことであった。


これは本人も、村人も、誰もまだ気づいていないところで凄まじい潜在力を秘めている少年の冒険の物語である。

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