金の成る自動販売機
初めての投稿作になります。
金の成る自動販売機というあったらいいなの妄想からこの作品が出来ました。
お金。
女子高生はこんな物を見つけていた
見通しの悪い道路に電信柱が並んでいる
人通りは全くなく、暗くじめじめしていた。
その周りには、ぽつんとオレンジ色の反射鏡があり、赤いボックスが映っていた
家の横にある植物の陰に隠れて赤いのかどうかすら
分からないが、確かにある
止まれの看板もまた それへの侵入口を妨げているように
見えた
「こんな所に自動販売機が」
たまたま近くを通り掛かった女子高生が、カチャンと前輪を
蹴り、立ち止まった
買い物かごにはネギやらジャガイモが入っている
横に立ち上がった自転車は、母のオレンジのママチャリらしい
ツンと高く整った鼻筋に細めで苛烈な雰囲気を催す眉
薄い桜色の唇をした セミロング背は160cmくらい
女子高生は、蔦と思われる植物を右手で払い、それに
近寄った。
「チャリン」
すぐ側にあるママチャリの籠に入れられていた
鈴が音を鳴らす。
小さくてか細い音だ
鳴ったのかどうかすら分からない
これは女子高生が中学生の頃好きな人に貰った物だ。
本命は鈴を首輪に付けた招き猫。しかし猫が鈴にしがみつく
ような作り方の為、音は甲高くなる。
付き合いも告白も出来なかったが、
この鈴だけは捨てる気になれないらしい
捨てられない想い出だ
女子高生は 周りを一瞥し、地面に目を游がせた
歩道となる道のあちこちも、それがある周辺にもびっしり
雑草が生えている。
煙草の吸い殻まで集中している
誰か、この近くを狙って棄てたのか
女子高生には何故この場所にゴミを棄てるかすんなり理解できた
変なのだ。
こんな場所に自動販売機があるのかが
普通もっと分かりやすい所に置くだろう
ならこの家が建つ前に出来たのか?それもない
まるでつい最近出来たかのような佇まい、そして異質な雰囲気
女子高生は、その自動販売機に近寄り、ジュースを購入しようと
財布を鞄から出した
財布の中身は乏しかった。
前に購入したジュースの残りくらいしかない
それどころか十円すらなく、ジュースを買うには致命的
だ。百円の安上がりなものはそうそうない
バイトは禁止、化粧や彼氏を作る事も許されていない
高校になれば何でもできるという幼稚な考えが
女子高生にはあったのらしいのだが、それも生徒指導と
風紀委員によって粉砕した。
そして絶賛反抗期中の母からはおつかいという面倒な
仕事を任され、当然の如く寄り道した。
小さい頃よく行っていた公園、神社、駄菓子屋
休日でもおしゃれが出来るように宝石を散りばめたネイル
勿論、百円均一のおもちゃだ
散乱したネイル、スマホ皺を作ったティッシュを掻き分け、
どこかに十円はないかと探すが何処にもない。
お釣りは面倒だがまだましな二百円を探したがない
今日の財布合計金額、百円。
その癖に鞄は高価な有名人がデザインした、
高価な白と青のオーシャンカラーである
仕方ないか、と若干諦め気味に自動販売機を見た
これが安い自動販売機なら問題ないだろう
選ぶのには時間をかけたい。この女子高生はいつもそう
お金を幾らか出し、ジュースを選んでから金を入れる
それがこの女子高生の癖だ
百円でも買えるものがあれば。
ジュースを選びにかかる。
こんな異質な自動販売機だ。
安い値段でお茶が買えたりするのかもしれない、と
僅かな期待だけが過る。
曇りがかったプラスチックは割れ、泥で汚れている。
早速 飲み物を選びに顔を上げた
「え?」
女子高生は小さく驚きの声を上げた。
売られているのはジュースではなく、お金だったのだ
しかも、普通より安い金額で、高い金額のお金が売られている
嘘、これはお金が買える自動販売機なんじゃないか?
女子高生の脳内に普通では有り得ない思考が及ぶ
固唾を飲み口をぎゅっと噛み、もう一度
売られている物を確認した。
下の段は一円から五百円までで、入れる金額はどれも百円
上の段も千円から一万円、そして最高額は三十五万円、
入れる金額は同じく百円
百円で一円が手に入るらしいとすれば確実に詐欺だし、
そんな無駄な事をする輩ではない
女子高生は売られている物から視線を反らした後
すぐに一万円札を見た。福沢諭吉。学問の何とかの人
もし今手に持っている百円を自動販売機に投げ入れたのなら
本当に一万円が手に入るのだろうか
いや、それはマズイ。確実に詐欺だ
たとえ自分に本能しかなかったとしても、
これは危険だと推測する
どこかにカメラがあり、これを利用した事が日本を駆け巡って
挙げ句の果て推薦で受けた高校を退学、一生中卒という
レッテルを貼られ続ける事になるのかも知れない
もしかしたら ある人間がモニター越しに人間観察をしている
のかもしれない。ある番組で百円しか持ってないと知らしめられるのかもしれない
買うような姿勢を見せたら負けだ
しかし
女子高生はおそるおそるお札を見つめた
これが本当か、調べてみたい
引き返せば終わりだが、女子高生にそんな気はない
彼女の中の鮮やかな好奇心が膨張する。
再び 投入口に金を当てた。もし本当かどうか確かめるなら
自分に得をする方向で見てみたい
女子高生は百円を自動販売機に入れた。残高百円が
闇の中に吸われる。
一番上の段に手を伸ばしてみた
まずは無難なやつをと 五千円を押してみる
この段階で千円は眼中にないが
「ピッ」
すぐに特有の乾いた音がした
どうやら正常に起動しているらしい。問題はない
無機質な音、時間がやけに長く感じられる。押した本人は
息を軽く吸い、唇を軽く噛んだ。
__「シャッ」
何か書類が落ちたような音がした
女子高生は意を決し、フタを開けた。フタには煙草や
水溜まりが弾いた後の泥が付着している
道端が狭いから納得だろう
今目の前にある訳の分からない事を理解するには
試してみるしかないのだ。
五千円と思われる札束を手に取る。束にしている物が
あるらしく、散乱は免れた。
確かにそこにあるのは、紛れもなく五千円。千円札が五枚
壊れものを扱うように、二回三回と札束を数えた
間違いない、何度数えても五千円である。
疑心に満ちた心が消え失せ、喜んだ
たった百円で五千円を手に入れた
これより不思議な事はない
女子高生は周りに誰もいない事を確認した
頬が上がり、女子高生の顔が紅潮している
それから足早にママチャリに乗ると、駆けた
人気のない道、薄暗い曲り角
ほのかに金木犀の切ない香りがする
遠くから5時の音楽が流れてきた
中学生の頃 登下校中に残っていた匂い。
この匂いを嗅ぐと失恋した体育祭を思い出す
鮮やかだった筈のあの思い出は、今ではこの女子高生の
セピア色の記憶となった
何も楽しくなかった。
中学生の頃、女子高生は性格の悪い女に絡まれて、金を巻き上げ、約三年間を無駄にした。
本当はもっと楽しい中学校生活を送りたかったのに
自分の理想の生活を送りたかったのにな
セピア色の情景の中に五千円が映り込んできた
これでお金を得ることが出来ればアニメイトだって、
お菓子だって友達と遊園地にも行ける。
後者は無理かもしれないが確実にお金稼ぎができる。
札束を握り締め、母の元へと向かう
空には青い空に桃と黄を撒いたような白雲が浮かび、
西空は紫に染め上がっていた
次の日 女子高生は、いつもの場所へ向かう。
また買い物を頼まれたのだ。ついでに行くよりない
あそこでお金を買えるなら自転車操業もできる
買った千円を放り込めば、もっと大きな額になる
今日は母がパートに行く為、歩くことになった
見通しの悪い交差点を抜け、魚の生臭い香りがする街中を抜け、
赤いボックスを見つけた。違う道から来たのだが、こっちの方が近いと分かった。女子高生は持ってきた百円でまた
五千円に手を伸ばす
ちょっとした小遣いのつもりだった
次の日も、その次の日も、女子高生は五千円を購入した
毎日続けて行く内に罪悪感は薄れ、やがて習慣化していく
最初は悪いと思っていた良心も消え失せた
女子高生は、自動販売機に手を伸ばした。
パラ、と五千円が出てくる
出てきたらすぐにバレないように鞄にしまう。
お気に入りの文房具を買いにデパートへ向かった
文房具は、面白い。行く度に文房具は新しくなるし、
多ければ多いほどそれなりの種類も出る。
クラスに関心は示してないものの、文房具への興味は
常識の範囲ではない
この女子高生は、筋金入りの文房具ファンだ
だからペンが針山のようなあの文房具店独特の装飾を見ると
無性に寄ってみたくなったのだ
どれが一番優れていてどれが一番劣るか
業界や会社はそこを取るだろうが、この楽しみはそこではない
確かに優れているとか劣っているかは大事だ
線を引きにくく使いづらいペンは劣るし、デザインがダサいのも
劣る。デザインはペンの第一印象でもある
女子高生は赤と青のペンを両手に握りしめ、じっくり見る
女子高生の思う水準は使っていて楽しいか
どこか、ペンに魅力があるようで、全体的なバランスを
見て決める
同じなんだ、人間も
自動販売機で、買った千円。稼いでいないけれど
*
何十人もの人間が一気に違う事を話している
この不協和音は好きではない
でも我慢しなければならない。ここは教室だ
色んな匂いが混ざりあっている
「ね、その青ペン可愛いね」
卯木みづきが語り掛けてきた
女子高生はまたかよと顔を眉を潜めてみたが
幸いみづきには悟られなかったようだ
みづきとは中学の頃からの付き合いがある友達。
女子高生よりも赤く血色のいい肌と、たれ目でもつり目でもない瞳を持っている。そのくせに睫毛はあまり生えていない
しかし、頬にはそばかすが付いていた。
周りから残念だと思われるのはその為らしい。
女子高生はみづきの事をあまり見ていないみたいだったが
そして、いかにもみづきらしい特徴は、前髪が頬から二つ出ている“ツノ”があること。
後ろはポニーテールだが、このツノはみづきが前屈みになると
自然に前に出る。否、女子高生にツノが当たっている
みづきは、ひと纏めに言うと馬鹿。
例を挙げればキリがないが一番の理由は割り勘、
第二にしつこい。
何故大体でいい計算をきっちり行うのか。
これがA型とかいう真面目なんだろうか、少なくも
女子高生には理解できそうにない。
しかも今は自動販売機のせいで十円を払う必要もない
可愛いでしょ。
みづきの話に適当に相槌を打ち、にこっと笑う
話の内容はどこで買ったのとか 羨ましいなという
別にどうでもいいことだった。
女子高生は話すのが面倒になり、
帰りを暗示させるように鞄を肩に下げた
すると 予想に反してみづきは折角買った青いペンを横取り、
幼児のような小さな手でべたべた触ってきた。
しかもそれだけでは飽きたらず、今度はペンをカチカチと鳴らし始めた。
「何するの」
ポケットから 薄茶色に汚れた紙切れが取り出され、
女子高生は目を丸くする。新品のペンを走らせるや否や
猫のイラストを描いた
早くここから立ち去りたいのに。
片足を立てカツン、カツンと鳴らす
「ねえ、最近新品のペンとか何とか増えてきたけどまさかアルバイトでもやってるの?」
「バイト?私は特に何も...」
そこではっとした。
苛立ちを隠しきれなかった頭に冷水を掛けられたような
気がしたのだ
いつも間が抜けているようなみづきが、何故こんなことに
すぐ気が付くのだろう
半ばみづきを見下していた女子高生だったが、
この時の返事は光よりも速かった
「してない。第一バイト禁止でしょ?」
「そう?流石に変化が露骨過ぎるよ。」
一喝された
自動販売機について話すわけにはいかない
そんなことをすれば、なくなる。自分の娯楽が
女子高生のプライドと独占欲の高さは誰よりもずば抜け
ている。
咄嗟に嘘をついた。
当然後の事は考えてもいない
「分かった正直に言う。バイトがあるの、何もしないで稼げる
バイト」
「なにそれ」
みづきは眉間にシワを寄せ、肩で笑った
何もしないバイトなんて、そうそうある物でもない。
よぼよぼの老人がベンチで見張りをするくらいだ
みづきは女子高生が遠回しな言い方をしたと思っているのだろう。なにそれと言った後 手を口に当てた
女子高生にはみづきが今何を考えているのか、一瞬で分かった。
「それ、エンコーってやつ?」
エンコーではない。第一にそんなキタナイ事はしない。
だがみづきは更に「何もしないなんて、先輩なんだね」
否定はしたかったが、執拗に迫られるのは嫌なので
こう言った
「違うけど。まあそう思うのならそう思っていればいい」
「確定だね」
案の定と女子高生は嫌な顔をする
エンコーを肯定してるように仕向けたからだ
「もう行くから」
あんな奴の事は放って、女子高生はあの場所に行く
変わらない景色。
いつも通り、不気味だ
さっきの事を思い出し、心底下品な人間とみづきを卑下する
あんなタイプとは分かり合える気がしない。本音を出せば
ケガをするだろう。
女子高生は躊躇いなく百円を突っこみ、一万円を取った。
最大金額までには手を出したくなかった
そこまで金に困っているわけではない。でも金は欲しい
とすると、真ん中くらいが一番合う
もうこんな事は二度と起きない、なら取っておいた方が
いい。絶対に
イソップ童話やグリム童話でも、油断している時が一番
危ないと聞く。あの有名な亀と兎も兎が油断していたからだ
油断大敵という言葉を見逃してはいけない。
いつか、消えるかもしれないのだ
女子高生は一万円を折り畳むと、新しく買った赤い
がま口財布に入れ込んだ。
オレンジ色のママチャリがチリン、チリンと音を出す
女子高生はそのまま何処かへ消えてしまった。
そこへ一人女がやってきた。
女は女子高生のいた場所を舐め回すように見た後
自動販売機に気が付いた。
暗く、ろくに処理をしていない枝が奥にある深赤色を隠している。女はじりじりとそれに近づき、見た
身動きが止まる。
横顔に頬から肩にかけて、ツノが見えた。
「なるほどね、これを隠してたんだ。」
そう言い、ツノを耳に掻き上げる
ポニーテールが軽く揺れた
女は再び女子高生のいた所に向かおうとする。
その時だった
風を断ち切るような激しい音が聞こえ、車が女の45m前に
横転する。青の古いスポーツカーだった
ガラスは何か大きなものに衝突したように割れ、地面に
散乱している。そしてスポーツカーの前方は原型を留めていな
い。
後ろはどうなっているか分からなかった
キュルルルル
また恐ろしい音
女は自動販売機に背中を合わせ、恐怖に身動き出来ずにいた
すぐ逃げれば済むことだが、足が全く動かないのだ
黒い膝丈まである靴下に、肉が乗っている。
細い所と太い所がまるで生れたての子鹿のように
ただ惨めにぶるぶると震えている
女の前にトラックが迫ってきた
ガシャン、トラックと自動販売機がぶつかる。
サンドイッチ状に握り潰された女の赤い液が、トラックの車下
に弧を描いた
金の成る自動販売機に赤い液が飛び付いている
ガラスは女の血肉を裂き、固い鉄の塊は女の腹、頭、足を潰
した。
最後に残るは、辛うじて生き残った女のツノと、肉片
そして血だけ
滴り落ちた赤が、ガラスに吸い付いてきた
あの自動販売機も女もセピア色の記憶となった
翌朝女子高生はいつも通り学校へ行き、みづきを待つ
購買部で、今日はみづきの大好きなアップルパイでも
買ってやろうとして
だが、みづきは来なかった。
ああ、二千円が無駄になったじゃないか。
女子高生はそう言い、ママチャリで自動販売機に向かう
薄暗く、雨が降りそうなこの道を走っていった




