媚薬バースト
相手の能力が未知数な上。魔術師との交戦経験もない。戦うべきか迷っていた所に、小さな無数の氷の礫が飛んでくる。相手は、氷を使う魔術師のようだ。
「ちぃッ!」
避けた先で、慌てて『紫電』を抜刀。相手に斬りかかる。
「えっ?」
斬ろうとした時には、振り抜いていた。そこに文字通り『紫電』が散る。自分でも意識しない『神速』の斬撃。それに当てられた相手は、
避けることもできず斬られていた。
まだ、慣れてないためか、斬りこみは浅くなってしまったが手応えはあった。
「・・・・危ないわね」
女は斬られたと言うのに平然とし、傷口を氷で覆った。数秒もせず、傷口を覆っていた氷は霧散する。
「へぇ、それが噂の治癒魔法ってやつか・・・・」
聞いたことがある。魔術師の恐ろしさは、その治癒魔法によるしぶとさだと。『魔甲機国』に少ししかいない癒合師が、戦っているとでも言うべきか。
「そっちこそ、圧倒的と呼ばれる『魔甲機国』の神器を持ってるじゃない」
神器?ああ、『紫電』のことか。確か、クレバーが軍秘蔵の神器とか言ってたっけ?
「でも、神器持ちを殺せば、私は2階級特進で尉官になれるわ」
「そうかい、なら俺は全力で抵抗させてもらう」
再び肉薄しようとするが、敵も馬鹿じゃない。こちらが近づけないように氷の礫で牽制してくる。が、
「今度こそ、役に立つんだ・・・・!」
クレアが正確な銃撃で、敵の牽制を牽制で返す。
「うざったい!」
それに対して、魔術師は氷の壁を盾にし身を守る。
「そんな、魔法モドキの魔銃で私を倒せるとッ!!」
クレアも魔弾では、壁を貫通できないと悟り、銃撃を止める。氷の壁は魔術師の周囲を半球を被せたように囲っている。
「魔弾で壊せないなら!」
『紫電』は紫の雷光を散らし、あっさりと壁を切り倒す。
「・・・・かかったなッ!」
その先には、矢尻の形をした巨大な氷が───
「くっ・・・・!」
氷が腹に刺さる直前に、『紫電』の細身の刀身で止めようとするも受けきれず。氷は右の脇腹に抜けてゆく。
腹を少し持っていかれ、言いようもない激痛に涙がにじんだ。
媚薬をケチらずに使えばよかったと、今更後悔する。そこに、
「クレイ。お願い、どいて!」
クレアの声。普段聞きなれないクレアの『お願い』に思わず横に逃げる。
『バースト!』
クレアのその言葉の直後、銃のモノとは思えない落雷のような音が響く。小柄なクレアは反動のせいか、後ろへ吹き飛んだ。そして、撃たれた魔術師は───
「マジかよ・・・・」
残っていた氷の壁ごと体が吹き飛び、人の形を成していないその死体に、戦慄が走る。
今のは魔銃使いの中でも、魔力操作が卓越な者のみ使えるという技だろう。初めて見たが、恐ろしい。
「すごいな・・・・」
「あ、さっきの痴漢魔」
「黙れ」
イケメンもこれを見て、血の気が引いたような顔をしている。
「できれば、生け捕りが良かったんだが・・・・まあ、いい。コイツについては、俺が報告する」
イケメンはそういうと通信機で、死体の処理を頼むような内容を伝えていた。
「お前ら軍人だよな?報告に使う。名前と所属を教えてくれ」
「ああ、俺らは南方第2基地のクレイとクレアだ。部隊名は言えない」
クレバーが表向きには他の隊に入れてあると言ってたし、特殊部隊とは言えないだろう。イケメンも怪訝そうにしたが「わかった」と言ってくれた。
「後処理は俺達がする。腹の傷を治したいだろ?癒合師を呼んだから、少し待っていてくれ」
「ああ」
任務は一週間。初っ端から、戦闘があったし癒合師に治してもらったら、ホテルでも探すか。
「クレア・・・・」
クレアは壁に寄りかかり、アサルトライフルを抱えて体操座り。実にかわいいが、顔は浮かなかった。
「・・・・初め て、人を殺して……」
「そうか・・・・なあ、後悔してるか?」
クレアは頭を横に降る。
「隊長を助けられたから・・・・いい」
ああ、泣けるねぇ。そう言ってもらって嬉しいよ。
「なら、ありがとな」
それだけ言って、クレアの頭をわしゃわしゃと撫でる。体操座りにより、スカートの無い軍服のガーター付きパンツが丸見えで、興奮してたことは秘密な。
程なく、癒合師が到着し、傷を治してもらい。その場を後にした。
***
「すみません・・・・未成年の入店はお断りしておりまして………」
未成年──17歳未満はだめか。だが、
「あー。俺達、17歳ですよ?」
軍の個人証明書を、俺とクレアの分を提示すると「まあ・・・・」と言いながらも、通してくれた。
俺達は今、ラブホにいる。
いやいや、勘違いしないで欲しい。
仮にもこの辺りは、観光スポット。予約無しだと、ラブホしか無かったのだ。断じてやましいことなどない。
クレアと部屋こそ同じだが、これはクレアの意志だ。2つ部屋を取ろうとしたら、クレアが震えたのだ。初めて人を殺したし、今夜は独りでいたくないのだろう。
部屋は幸い、落ち着いた感じの部屋で、ちょっと夜のムード的な演出ではあるが、変なプレイの部屋よりマシだろう。
当然のように、ベッドはひとつしかないが、これにはもう慣れている。毎日クレアに抱きついて、安眠を得ている俺にとっては、へでもないね!
「ところで、クレアさん。なに、飲んでんですか?」
背中を見せているため、何を飲んでいるのかはわからんが、ゴクゴクと喉に何かが通る音がクレアから聞こえる。もちろん、飲み物を買った覚えはない。
「ん~? クレイの上着に入ってたピンク色の桃ジュース・・・・だよ?」
「ファッ!?」
く、クレアさんそれ、媚薬だから!!
床にはカラになった、媚薬の試験管が2~3本転がっていた。
「おいしぃよ?」
そういや、購買のとっつぁんが「今回のは、いつもと違う魔法かけた、理性をぶっちぎるヤバイやつだぜ!? 何本飲んでもいいが、女に飲ませりゃ誰でも股を開くってもんさ!!」とか、言ってたっけ?
「あのー、クレアさん。なんで、俺を見つめてるんです?」
「・・・・おいしぃから、おすそ分け」
何のことかと思っていると、口を塞がれた。
「むぐっ!?」
クレアの唇で。
クレアのキスは甘かった。比喩でなく、媚薬の桃味だ。唾液を口に押し込まれているのだとすぐわかる。舌が、自然とクレアの口に吸い込まれそうに・・・・。
「ストォッブ!!」
少し『狂化』した力で、クレアを引きはがす。
「クレアは媚薬のせいで、俺のことを好きだと勘違いしてるんだ! やめてくれっ!!」
そう言うと、クレアの目に涙が浮かぶ。それは、俺が初めて見たクレアの涙だった。
「クレイは、私をこと・・・・嫌い?」
「いや、好きだけどっ・・・・」
俺は男だから、クレアみたいな可愛い女の子とヤれるなら、本望なのかもしれない。だが、クレアの偽物の『好き』の上で、ヤリたいとは思わない。いや、ヤリたいけど・・・・。
「私は、クレイのこと好き。会った日から・・・・」
クレアはそこまで言うと、力が抜けたようにバタりと倒れた。
「クレア!?」
そこで、購買のとっつぁんの言ってたことを思い出す。「でも、欠点があってなぁ。催淫効果以外にも、催眠効果もあってな飲みすぎると、眠っちまうんだ」だったか。それを物語るかのように、クレアの顔は少し赤いながらも、気持ちよさそうな寝顔だ。
媚薬の入っていたパッケージを見ても、眠くなると説明があった。ひとまず、ホットする。
「クレイ・・・・」
「えぁ?」
クレアが寝言か、どうかもわからないような声で言う。
「惚れ直した・・・・よ」
俺は、クレアとヤらなかったことを、つくづく後悔した。
この夜。俺がムンムンとして、寝れなかったことは言うまでもない。
神器について(飛ばしてもいいです)
魔法と科学。その両方が中途半端に組み合わさった『魔甲機国』が何故、戦争に負けないのか。それは、兵の多さと地形、それに加えて神器の存在もあります。
首都にある巨塔──遠距離射撃装置グングニル。巨塔にはグングニルを初めとした多くの神器(ただし、グングニルが神器と知る者は少ない)が貯蔵されています。
神器の総数は、およそ100あまり。ある程度の階級(ほとんどが佐官以上)と実績等があれば、与えられる場合があります。
神器も格付けがあり、最上位には『グングニル』や『紫電』等の「神殺し」の称号のある神器が含まれます。(「神殺し」は称号であって、ホントに殺したわけではありません)