魔術師との邂逅
あの侵攻から1週間が経つ。
因みに、あの侵攻はパワードスーツの性能テストであったらしく。俺達のやったのをふくむ30ほどのパワードスーツを破壊したところで、敵は撤退した。
あと、俺は金髪少女から貞操を守ったぞ。うん。
今回の事件で、帝国との戦力差が浮き彫りになったものの。事件直後に、帝国は多額の賠償金を払うからと、2年間の停戦協定を持ちかけ、うちの国も納得したようだ。
そして、あの金髪少女についてだが、尋問をしたとのことだが、その実。条件付きで色々と帝国について吐いてくれたらしい。その条件とは、
「また、会えたな。クレイ」
こいつを俺の隊に入れることだった。既に、客間には荷物が積み込まれ、微妙な気遣いだがベッドが増えた。それでも、客間は広いし問題はないけど………。
「あのー。なんでここに来たんですか?」
恐る恐る聞く。下手に機嫌を悪くさせて、こちらが斬られてはたまらない。
「えと。私はクレイに負けただろ?強い者の下につく。当然のことだ」
なにその弱肉強食理論。怖いんだけど。
面倒なことになったなぁ。とか、思いつつ巨乳だからいっかと容認する自分がいるのもたしかだ。
「あと、名前を聞いてないんだが」
「シーナだ」
「そか」
こうして、シーナが部隊に加わった。
コンコンと、ドアからノックが聞こえる。自主練習中のユウナにクレアが帰ってきたのか?
「どうぞ」
ぱたりと、ドアを開けて入ってきた人物は中佐の伝達係こと、クロックだ。基地内では唯一の、俺より背の低い男でもある。
会うのは二回目で、前回は侵攻の前の呼び出しの際会ったな。
「クレバー中佐からの伝言です。『君に用がある。1人で執務室に来てくれ』とのことです」
クロックはそこまで言うと「では」と退室した。
「来い」と言われて、行かない理由もない。俺は執務室へと向かった。
***
「それで、用とは?」
戦いの後、クレバーと直接会うのは初めてだった。戦いの事後処理のため多忙かつ、執務室は書類の山となっていたのだ。
クレバーは少しやつれているようだが書類の山は消え、ほぼいつも通りだ。
「君は確か先の戦いによって、軍刀を破損させたらしいな?」
「はい」
魔甲機国の兵士はだいたい、軍事学校に在学中に自分の武器を自分で作るのだ。そのほうが、武器に魔力を乗せやすいとか。大抵その時に作った武器が一生モノとなるのだ。
「君は戦いで、最も功績を上げ一等兵になった。そこで、君にはこれをあげよう」
クレバーが机の下に忍ばせていたらしい、何かを机上に乗せる。
「私からの昇進祝いと思ってくれ」
それは、ひと振りの軍刀であった。受け取り手に取ると、不思議な気持ちになった。一度抜けば、それが類を見ない業物であることがわかる。
「そいつは、軍秘蔵の神器さ。その銘は『紫電』だ。伝説では『神殺しの妖刀』や『神速の魔剣』とか言う、大層な名前を持っていたな」
クレバーが珍しく自慢げに話す。これも恐らくその能力で上層部の弱みを握ったからこそ、できたのだろう。
にしても『紫電』に『神殺しの妖刀』や『神速の魔剣』。中2臭すぎる。
「ありがとうございます」
俺は敬礼をして、感謝を伝える。
「いや、いいんだ。君も頑張ったしな───実は、もうひとつ用件があってだな────
***
クレバーの用件。それは、ある任務だった。
「・・・・突然の出動って、どんな任務?」
と、クレア。
「えと。行楽施設の巡回という名分の息抜きだ」
「・・・・息抜きですか」
クレアは普段から特別真面目という訳ではないが、怪訝に思っている様子だ。
「クレバーも、お前に休んで欲しいんだろな」
と、言うと、クレアは得心したように頷いた。
クレアは先の戦いで活躍できなかったことを悔やんでおり、毎日特訓をしていた。だが、休憩無しに闇雲にやってもいい成果は出ないだろう。そこに『任務』と称して息抜きをさせる、クレバーの親心に感服だ。
「今思ったんだけど、クレアって17才なんだよな?」
「こんな見た目だけど・・・・うん」
意図してはいなかったが、見た目幼女のクレアには皮肉に聞こえたのかもしれない。
「そうじゃなくてだな。クレバーは見た目若いし本当に親子なのかな?って」
「私はお父さんとは血は繋がってません・・・・5年前、戦争孤児となった私を養女に迎えてくれたのです」
クレアが感慨深そうに言う。この様子からして、相当クレバーに愛されて育ったようだ。恋慕とは違うだろうが、彼女もクレバーを愛しているようである。
「任務は1週間の予定だ。大抵のことは経費で落としてなんとかするから、適当に用意しようか」
俺は、着替えをカバンに詰めると、用意は終わりだ。クレアの用意を待とう。
「終わった」
「え、早くない?」
見る限りでは、着替えと魔力補給用ポーションしか入れてないように見えたんだが・・・・。
「?」
「・・・・いや、なんでもない。俺は基地で買うものがあるから、1時に客間に集合だ」
「わかりました」
***
買うもの──媚薬を買う。基地内には、大抵の物が売られている。俺の『狂化』のトリガーである激情を簡単に発動させられる媚薬は俺にとって武器でもあった。
もうすぐで1時とあって、急いで客間へ向う。
そこでは、クレアがカバンを抱えて待っていた。かわいい。
「間に合った・・・・よし、行くか」
目的地の行楽施設は車で1時間程度だ。移動は毎度おなじみの運転手───レイルと、言うらしい───に、頼んである。
そして、任務が始まった。
***
行楽施設───いわゆる遊園地だが、今日は休日とあって客が多い。敵国がある程度近いが、そこにも広い居住区がある。客が多いのも当然と言えた。
「・・・・やっぱり、恥ずかしい」
俺の隣には、高校生のブレザーの制服からスカートを奪い取ったような姿のロリがッ!!
すみません。クレアです。
「仕方ないよ、軍服なんだし」
癖毛気味の黒髪の頭をポンポンと撫でる。他の女には(身長差のため)できないそれは、新鮮だ。
にしても、大丈夫か?男の隣にこんな格好の幼女なんて、完全に犯罪の臭いしかしない。ふと、周りを見ると、大人のおネイサンやらがクスクスと笑っていた。
あー、あの人達には軍服のコスプレをした幼い兄妹が見えたのかもしれない。俺の身長、小学生並だしなー。ロリ×ショタ丼の完成だわ。
髪も両方黒いし、本物の兄妹のようだ。
これなら、通報されることもないだろう。
「憲兵さん、こいつです!!」
俺がその言葉に冷や汗を覚えたのは、言うまででもないだろう。慌てて声の方を見ると、女性が男の手を掴み上にあげていた。
痴漢か?何にせよ、憲兵とは俺達のことだろう。正式には憲兵ではないが、巡回の任務でもある。女性の手を簡単に振り払い逃げる男を追う。
「・・・・あの、クレアさん?」
クレアを見ると、肩に下げていたアサルトライフルをいつの間にか構えていた。直後、ダダダッという音と共に逃げゆく男が倒れた。
魔力を抑えたのか、魔弾は男の体を傷つけることなく、男を行動不能にした。
「すごい・・・・」
アサルトライフルで、十数メートル先の動く的を全弾命中させる。その技術に驚いた。
やはり、痴漢だったらしい男を取り押さえる。
あれ?こいつ、ナカナカのイケメンじゃん。お前なら女を落として尻くらい触りまくれるだろうに、早まったな。
「クレア、お手柄だったな」
再び、クレアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「もっと優しく撫でて・・・・」
とは、言いつつ。クレアもまんざらでもなさそうだ。
「・・・・うっ」
痴漢野郎が呻く。もう、起きたのか。男は上体を起こし頭を押さえる。
「バカ・・・・」
「はい?」
俺は痴漢に胸ぐらを掴まれる。
「馬鹿野郎が!あいつは、前の戦いで密入国した『魔法王国』の魔術師だぞ!?」
痴漢の言い訳にしては真実味があるな。
「ホントだろうな?」
「もちろんだ・・・・」
俺は男の言葉を信じ、辺りを見回す。が、被害者の女はいない。
「あっちに、行ったよ?」
クレアが俺の袖を引き、女が逃げたと見られる方向を指差す。
「探すぞ!」
***
「見つけた・・・・」
時は夜。もう、遊園地にはいないのかと、半ば諦めていた頃。クレアが女を見つけた。
遊園地のライトアップによって、あたりは彩られ。幻想的な雰囲気を醸し出している。
相手が『魔法王国』の魔術師で密入国者だと確定していない以上。こちらからは、攻撃はできない。
「・・・・おい」
おもむろに、女に声をかける。女は何も言わず振り返った。 赤い双眸に白い髪、特徴的なやつだ。
「あんた、魔術師か?」
「あら、あんた達もグルだったのね?」
女は俺の質問に答えず、こちらに質問をする。
「グルって訳じゃないけど、他国の──それに、攻撃力のある奴を野放しにはできないのさ」
「そう、じゃあ。私達は敵ね」
それが、戦いの始まりの音であった。
魔銃の基本的構造 (飛ばしてもいいです)
魔銃は、使用者の魔力を魔弾の形に変え射出する武器で、安定した火力と消費する魔力の低さが特徴。
ハンドガンに、アサルトライフルやスナイパーライフル。さらに、ショットガンなど様々な種類がある。(形は大体、現実の銃と同じ)
自分の武器を自分で作る『魔甲機国』の兵士は、パーツを買って用意に自分好みにカスタムできるためか、剣を初めとした近接武器よりも魔銃を作るものが多い。
殆どの魔銃は、持ち手のグリップの中に魔力を魔弾へと変える変換装置が内蔵され、魔弾が精製されれば銃身を通って射出される。
アサルトライフルやスナイパーライフルのように、マガジンがグリップの中にない場合。マガジンの部分に魔弾を貯め、それを1発の魔弾に圧縮することで、貫通性能・威力の高い魔弾を撃つことができる。なお、複数の魔弾を圧縮するには『魔力操作』の高い技術が必要とされ、使い手は少ない。