不眠生活とガーター
軍刀
反り返った片刃の刀身。
夢の中でも、日本刀という似た武器があったな。
***
「ようこそ。我が南方第2基地──人呼んでサウスⅡへ」
クレバー中佐の基地に着いた時。日は落ちていた。
クレバーによると、俺達が学校に置いていた荷物等は、既に基地内に運ばせたらしい。有難いね。
南方第2基地は敵国である『機甲帝国』に最も近い激戦区で、『機甲帝国』に対する防衛兼侵攻の拠点となることもしばしばだ。
激戦区とあって、精鋭が多いことも特徴である。
「取り敢えず。今日は疲れたろう? 君達の部屋を用意しておいた。そこで荷物の整理をして、今日のところは寝るといい」
と、何から何までしてもらって有難いが・・・・。
「何から何までしてもらって有難い。か、」
え?
「あー、驚くな。私はそう言う能力を持ってるんだ」
いや、驚くから。
ここ一週間ほど一緒だったが、心を読めるなんて初めて聞いた。
「すまんな。別に隠すつもりは無かったんだが・・・・あと、明日は私の執務室に来てくれ。そこで、君達のこれからを伝える」
クレバーは運転手に、俺達を部屋まで案内するように言うと、何処かへ行ってしまった。
クレバーとの行動はこのパターンが多いな。
用意されたのは驚くことに、客間だった。
とても綺麗な部屋で、軍のものとは思えない。部屋の隅には俺達の荷物が纏められていた。
そして、ユウナが突然俺の前に来る。
「むふふっ、先輩!」
「ん。なんだ?」
そこには、先ほどまで学生服のブレザーの上から、ヒラヒラのエプロンを着たユウナがいた。
おい、いつ着たんだよ。
「お風呂にする?
ご飯にする?
それとも……わ・た───むぎゅ!?」
展開が読めたし、手で口を塞いでやった。
「こら! 手を舐めるなっ、くすぐったいから!!」
塞いだ手のひらを舐めるユウナをちょうど近くにあったベッドに放り投げる。
「いきなり、ベッドinだなんて先輩ったら、はげしっ……」
「あー。次にそんな事言ったら、部屋から追い出すからな」
「・・・・さーせんでした…」
「わかったならよろしい」
「それより先輩」
「なんだ?」
荷物の整理が終わる頃。また、ユウナが話しかけてきた。
「ベッドがひとつしかないっすよ?」
「はい?」
ユウナの冗談かと、部屋の中を今1度見回すと、確かにベッドがひとつしかない。付け加えると、2人で寝ろと言わんばかりに、ベッドの上には枕が綺麗に二つ並んでいた。
「今日することは、あと寝るだけっすけど。どうします?」
ユウナもさっきのことがあってか、一緒に寝るとは言わない。そこらへんは素直な奴なのだ。まあ、股をモジモジさせ一緒に寝たそうにはしてるのだが……。
「まあ、ベッドは大きいし離れれば大丈夫だろ」
不幸中の幸いというか、ベッドはその上で激しい運動をしても落ちなさそうなくらい大きい、キングサイズだ。それぞれが端で寝れば大丈夫だろう。
と、思ってた俺が馬鹿だった・・・・。
「先輩……ユウナは寂しいからくっついてるんすよ?」
とは、ユウナの寝言である。 (たぶん)
男としては、可愛い女の子と添い寝できることは天国なのかもしれない。がっ!
考えてみろ、それは生殺しという地獄なのだよ!?
俺とユウナは首都でシャワーを浴びて以来、体を洗っていない。3日分のユウナのスメルが俺の鼻腔を──何より男の性を刺激した。
***
「先輩どうしたんすか、やつれてますよ?」
誰のせいだよ。という言葉を喉の奥で押し留める。俺の優秀な理性は俺を悶々とさせるだけに留めた。寝不足にはなったが、手は出してない。俺は男の性に勝ったのだ。
「まあ、とにかく。クレバー中佐のとこ行くぞ」
「了解!」
「の、前に。シャワー浴びて来い」
「さー。いえっさー!」
スメルぷんぷんのユウナもとい俺を、クレバーに会わせるわけにはいかない。先ずは、ユウナをシャワールームにぶち込んだ。
***
体を清め、今はクレバー中佐の執務室の前にいる。俺の腰には軍刀。ユウナの腰にはハンドガンが左右に一丁ずつ。身なりは学校の制服だが仕方ない。
「クレイ・ギルフォード。ユウナ・ロイ。入ります」
ノックをして入室する。時間指定もなかったし、何時でも良いのだとは思うが。
「待っていたぞ。そこに座ってくれ」
いかにも執務室にありそうな机。革製の回る椅子なや座ったクレバーが向かいのソファを指して言う。
ソファも高そうだ。
「君たちには、私の指揮下に入ってもらったが、つい先程まで学生だった君達に普通の軍人と同じ──集団任務ができるとは思えない」
「そこでだ」
クレバーがニヤりと笑う。たまに思うがこの人、絶対ドSだよな。あ、これクレバーに聞かれてるんだった・・・・。
「君たちには、私直属の特殊部隊に入ってもらう」
「特殊部隊ですか?」
年頃の男の子としては、胸がワクワクするワードである。
「ああ。君たちは学校ではあまり良い成績は取っていなかったようだが、講師たちには一目おかれていたようだしな。普通の軍隊にはできないことをしてもらう。私と共にな」
クレバーがまたサディスティックな笑みを向ける。
「安心してくれ。私は公私の区別はできる。君たちを直接的にイジめることはない。あと、私には何でも言ってくれ。例え失礼なことでもだ」
「わかりました・・・・つまりは、間接的にはイジメるかもってことですね?」
「ははっ、察しがいいね」
そこまで、つまらなさそうに話を聞いていたユウナが、クレバーを睨んでいた。
「大丈夫。そっちの方の趣味はないから」
クレバーがそんなことを言う。ユウナはハットしたように顔を赤く染めた。そっちの方って、どっちの方だ?
「因みに、この部隊は私が思いつきで作ったものだ。表向きには君たちは、他の隊に入っていることになっている。これを知っているのは、私の上の上の上である中将だけだ」
この人ことだ。中将とかの弱みも握って、コネを作ってるのかもしれない。
「失礼だな。私は少しお願いしただけだよ」
「さて、私も含めた3人では特殊部隊とは言い難いだろう。そこで、ひとりだが追加要員を紹介する。入れ」
クレバーが言うと、執務室にひとりの少女が入ってきた。クレバーと同じ黒い髪で、腰のあたりまで伸ばしている。歳は俺達より少し低いくらいか? 見た目だけで言ってるが。
「私の娘のクレアだ。私と気質は似てないし──」
良かった!ドSの娘はドSじゃなかったんだ!
「私の能力は受け継いでいない。仲良くしてやってくれ」
「・・・・よろしく」
「あ、こちらこそ」
「よろしくっす」
「私も隊員だが、仕事上一緒には行動できない。現場指揮の隊長としてクレイには頑張ってもらう」
そうして、隊員の4分の3が『クレ』で始まる特殊部隊が出来た。
「それじゃあ、軍服を受け取ってくれ」
3人分の軍服を受け取り、俺はそのひとつ。自分の分を開ける。
見た感じ、ドイツ軍の軍服といったところか。あ、これ女性用のじゃん。間違えたわ。
「見たところ。女性用の軍服にはズボンが無いようですが・・・・」
「そうなんだ。だが、女性用はズボンの代わりに耐久性に優れたパンティ・ガーター・ストッキングが支給されている」
耐久性に優れた下着とか、わろえない・・・・。
・・・・ドイツ軍ってなんだ?
***
「・・・・おい。嘘だろ?」
『客間は今日から君たちの物だ』
クレバーが言った言葉。その意味が今わかった。
ベッドには、枕が3つ───それを確認すると、後ろには黒髪の少女クレアが「・・・・今日からよろしくお願いします」と、ペコリと頭を下げていた。
ベッドで両手に花の俺の不眠生活が始まる・・・・。
と、思っていたが。俺はよく寝れた。
うん。クレア最高だわ。
俺はクレアを抱いて寝た。もちろん変な意味ではない。クレアは温かかったのだ。温かい湯たんぽみたいに。その小さくて柔らかい体が抱くにはちょうどよく、いい匂いもして最高の抱き心地だったんだ。
俺が欲情したのも、最初の一瞬だった。温かクレアのもとには眠気が降臨したのだ。
***
俺達が基地での暮らしを初めて数週間後。
その日は基地内が慌ただしかった。
訓練場で、文字通り訓練をしていた俺達の元に伝達係の軍人が来る。
「敵襲です! クレバー中佐が、隊長は執務室へ来いとのことです!」
そう伝えると、伝達係は走り去っていく。ご苦労なことだ。
「いくか」
俺はユウナとクレアに客間で待っておくように伝えると、執務室へ向かった。
「・・・・来たか」
「何があったんですか?」
「機甲帝国からの敵襲だ。第1~3までの防衛ラインを突破され、数時間後にここへくるらしい。敵の数は三千。この周辺の基地だけでも一万を超す兵が待ち構えているのにだ」
クレバーの表情は重々しかった。
「この前のパワードスーツもいるんですか?」
「先鋒の連絡によると、パワードスーツを着用しているのは百人前後とのことだが・・・・」
いずれにしても驚異だ。有効打を与えれるのは一部の精鋭だろう。
「その通りだ。前回のパワードスーツに傷をつけられるのは、うちの基地内でも僅かだ。そこで君たちに任務を下す。敵をとにかく殺り、生還せよ。生還を第一に考えろ、ようは遊撃だ。味方の邪魔にならない程度で暴れろ」
「了解ッ!」
***
客間に着いた俺は、作戦の旨を伝えた。
「と、言うことだ。中佐は既に基地から軍隊を指揮し、敵がここに到達しないよう食い止めているらしい。俺達はそこに急行し敵を削ぐ」
移動は毎度お世話になってる運転手に頼んであった。
俺は軍刀。
ユウナはハンドガンを二丁。
クレアはアサルトライフルを持っていた。小さい体なのに、怖い娘だね。
「んじゃ、行くぞ!」
「「了解!」」
俺達の初陣が始まる。
登場人物のおさらい(飛ばしていいです)
主人公・クレイ・ギルフォード(17)♂
黒い髪に瞳。軍刀を使う。
男にしては、体が小さい。女より小さい。
ユウナ・ロイ(15)♀
クレイのことを「先輩」と言って慕う。
茶髪をポニーテールでまとめ、白いマフラーを常備。赤い瞳を持っている。
ハンドガンを使う。
レン・ベケット(17)♂
クレイの良き友人。軍の少将の息子である。
金髪。
スナイパーライフルを使う。
クレバー・エンブリー(25)♂
相手の心を読む力を持つ。それを駆使して中佐へとのし上がったが、それを差し引いても優秀である。
黒い髪と瞳を持ち、イケメン。だがドS。
ナイフを使う。
クレア・エンブリー(17)♀
口数が少なく。背が低い。見た目は幼女だ。
父親譲りの黒い髪と瞳を持つが、Sではない。
アサルトライフルを使う。
使う武器はそれぞれのメインウェポンであって、使おうと思えば何でも使えるみたいです。