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ゆめうつつ  作者: 椛餅
序章「ゆめうつつ」
1/7

現夢混同

更新(速度も含む)は私のやる気次第です。

 荒廃した街。


 傷だらけの仲間らしき人物達。


 そして、自分と同じ顔をした男。






***





「・・・・またか」

 シャツは汗でグッショりと濡れ、春の爽やかな朝を台無しにする。体中の不快感を払拭すべく、寝ぼけまなこでシャワーを浴びに行く。


──最近見る夢。


 第三者の視点で見えるそれは、まるで映画の1シーンのようでもあるのだが、妙に現実味があった。

 見える人物は毎回同じではあるが、毎度毎度で状況が違う。今回は戦場のようだった。戦線から離れているのか、交戦している所は見えなかったが、いつもの夢と違って武器を携行してたし。


 シャワーで汗を流しながら考えていたが、なにせ夢の話だ。答えなどあるわけが無い。


 うん。考えるのは止めよう。


 と、シャワーの栓を閉め、回れ右でシャワールームから出ようとする。

「えっ?」

 が、それは叶わなかった。

 放ったらかしにした石鹸を踏んだ俺は足を豪快に滑らせ、さっきまでの眠気なんぞは一瞬のうちに消え失せ


──バスタブのフチで後頭部を強打した。



***



 バスタブで後頭部を強打する夢を見た・・・・。あれ?どっちが夢なんだっけ?


「おっ、先輩起きましたかー。頭は痛くないですか?」

 寝ていた俺の顔をその赤いジト目で覗く───茶髪のポニーテールと首のマフラーが特徴的な少女───ユウナが相変わらずの軽い口調で問う。ユウナにも絆創膏が所々に貼られている。


 ここは医務室のようだ。と、言ってもテントで作られた簡素なものだろうが。

「・・・・痛いよ。何があったんだ?」

 てか、なんでこの娘の名前を知ってんだよ、俺は。

 痛む頭を抑え、上体を起こす。

 

「んー。あ、いや・・・・覚えてないなら、そのまま忘れてて下さい」


 なんか気になる・・・・。が、まあいい。

 不思議な感覚だ。先程までの朝を迎えた感覚が夢の中の物だったように思える。それに、今までの自分に他人の記憶を乗せた感じというか・・・・。


「まー。まだ、頭が痛いなら、そのまま寝ていて下さい。あと、もう少しで癒合師が来るんで、私もついでに治してもらえるよう言ってくれません?」

 自分も恩恵にあずかろうとするユウナを睨むと「顔の傷ぐらい、いいじゃないスか」とか言ってきた。


 そして、そのまま俺の寝ているベッドに入り込んで来る。

「お、お前ッ!?」

「むふふ。癒合師に口添えしてくれれば、触ってもいいっスよ? もちろん、先輩だけっすよー。こんなお願いするの」

 うっふん。と、言いながら胸を腕に押し付けてくる。もう、触らせてるじゃねぇか。

「・・・・わかった、わかったから。離れてくれ」

 ほら、周りの怪我人達がこっちを睨んでるじゃねぇか。うわー、怪我も相まってゾンビみたい・・・・。


「わかってくれれば、いいんすよ」

 押し付けていた胸を離すが、ベッドから降りる気は無いらしい。


「お前なぁ・・・・」

「これくらい許して下さいよ。軽傷って判別されても、痛いもんは痛いんですから・・・・」

 ユウナは「ほれ」と、言わんばかりに学生服をまくり、包帯の巻かれた腹の傷を見せつける。包帯は赤黒く染まっている。見るから痛々しい。


「わかったから動くな。傷に障るぞ?」

 ユウナは嬉しそうに首を埋めて「有難うございます」と言ってまた引っ付いてきた。

「・・・・はぁ。んで、何があったんだ?」

 先程も同じ質問をしたが、今度は状況の方だ。あまり、鮮明に覚えていなかったりする。


「スースー」

「おい」

「スースー」

 また、怪我の原因を聞かれたのかと思ったのか、あからさま過ぎるたぬき寝入りを始めるユウナ。その額には冷や汗らしきものが浮かんでいる。

 さては、怪我の原因はコイツのせいなのだろうか?


「おお、目が覚めたのか? にしても、お目覚め直後からお熱いこって・・・・」

 俺より少し背の高い金髪の男───仲間のレンが医務室にやって来る。どうやら、見舞いに来てくれたようだ。

「いや、これはだな・・・・」

「ははっ、冗談さ。ユウナのそれは今に始まったことじゃないからな」


「そうだ。これは、何があったんだ?」

「ん? ユウナに頭殴られて記憶が消した飛んだのか?」

「え、俺。ユウナに殴られたのか?」

 ここで、(たぬき寝入りの)ユウナの体がピクリと動く。これは、クロだな。


「まあ、そうだが。あまり責めてやるな、ユウナはお前を重傷指定させてやるとか言って殴ったんだ。強引だが。お前を思ってのことだからな」

 レンもユウナがたぬき寝入りをしていることに気づいたのか、ユウナを擁護する。

 それに対し、ユウナも毛布から手を出し親指を立て

、グッとする。おい。

 だが、本人も罪悪感を感じてるようだし、ここは乗ってやろう。


「じゃあ、後でユウナに礼を言わないとな。今は寝てるから無理だけど」

 最後は皮肉を込めて言うと、ユウナが毛布の下で俺の服の袖を摘んで引っ張る。可愛いなコイツ。


「何はともあれ。記憶が無いのはホントなんだ。教えてくれ」

「オーケー、じゃあ一昨日の夜から話すぜ」






───レンによれば、機甲帝国のパワードスーツとやらを着込んだ兵士がたった数名でこちら側──魔甲機国の防衛線を二つ破ったとのこと。

 急な事だったため、軍の増援が来るまでの間、最寄りの軍事学校の学生と駐在兵士を敵にぶつけて、時間稼ぎをしようとしたらしい。

 その際、学生の中の選抜メンバーに選ばれた俺達を含めた、数十人が現場に急行し足止めをしていたと。


「いやー、でも凄かったよ。足止めできれば良いってぐらい敵強かったのに・・・・」

「ん? 誰かが、敵を倒したのか?」

「お前が倒したんだよ。お前が。もしかしたら、軍にそのまま入れるかもな」

 レンがそこまで言うと、癒合師が来た。






 癒合師は、同じベットに入った俺とユウナを怪訝そうに見たが、俺が口添えせずともユウナの怪我を治してくれた。

 癒合師は治癒魔法で傷を治すことができる。自分でも気づかなかったが、俺は全身に軽いヤケドを負っていたらしく、それを治してもらった。


 体は全快し、医務室だったテントからユウナとレンと共に出ると、そこには荒廃した市街地。

 この市街地は、数年前の機甲帝国襲来の際放棄されたと、学校で聞いたな。

 んー。これは、本当に夢なのだろうか? こちらが現実にも思えてきた。頭が混乱する。こういう時はいっそ何も考えず流れに身を任せるべきだろう。







 世界には俺達のいる『魔甲機国』魔法と科学の両方を使う国。と、


 その南に先端科学などを使う国『機甲帝国』。


そして、魔甲機国の西側にある魔法を使う『魔法王国』がある。


 それぞれに、ちゃんとした国名はあるのだが、その国の主力の兵器がそのまま呼称になるほど、長い間戦争をしているのだ。




「おい。お前がパワードスーツを撃破した隊の隊長のクレイか?」

 クレイは俺の名だ。

 伝達係らしい軍人が、俺に言う。その手には、俺の顔写真付きの資料らしきものが握られている。


 って、隊長とか聞いてねぇぞ? と、隣にいるレンに目で訴えかけると、笑ってはぐらかされた。テメェ・・・・。


「どうなんだ?」

「あっ、はい。そうです」

「お前らを首都まで送る護送車が来ている。隊員と共に身支度を済ませたら、適当な軍人に声をかけろ。『クレバー中佐の司令だ』と、言えば護送車まで連れて行ってくれるだろう。明日までは待つ」

 え、この人。中佐だったのか。


「もし、言う事を聞かないやつがいたら私に告げ口をしてもいい。そいつには、厳しいバツが待ってるがな」

 俺が、中佐と知って緊張したのが伝わったのか、クレバー中佐は彼なりのユーモアで俺の緊張をほぐそうとしてくれる。ええ人や。

「有難うございます。では」

 クレバー中佐と別れ、隊員───ユウナとレンにこれを伝える。


「いや、身支度も何も。私達は、武器以外なにも持ってきてないっすよ?」

「・・・・突然だったしなぁ」

 え、そうなの?



***



「随分と早い再開だったな」

 クレバー中佐と向かい合わせに座る俺。俺の両サイドにはウチの隊員たちだ。

「あー。なんかすみませんクレバー中佐」

「クレバーでいい。別に、少し出発が早くなっただけだ。気にしなくていい」


 あのあと、己の武器を持ってすぐに護送車へ向かったのだ。

 護送車は荷台付きの軍用車だった。クレバーも何故か荷台に乗ってるが、話したいことがあるのかもしれない。


 因みに武器だが、

 俺は軍刀。

 ユウナはハンドガン。

 レンはスナイパーライフル。

 と、言ったところだ。魔甲機国の軍事学校の生徒は自分で武器を作り、軍人になっても使うのだ。


 俺のような近接組は、自分や刃に魔力を乗せ、身体能力向上や攻撃を強くしたりする

 銃組は己の魔力を魔弾として撃ち出す。

 こんな、感じで魔法と関わっている。


「その軍刀で、コイツを切ったのか・・・・」

 クレバーが俺の軍刀と、一緒に荷台に乗せて運んでいたパワードスーツ──搭乗員は抜いてある──を見る。全身を装甲などで、覆っていたパワードスーツは殆どの攻撃を受けきったという。だが、今目の前にあるそれは、左脇から腰へかけて真っ二つになっている。これでも、1番損傷の少ないものを持ってきたという。

「記憶が無いので覚えてませんがね」

 と、答えつつ。自分ならできるだろうとも思った。


「・・・・詳しいことは、まあ、いいか」

 首都までは、数日で着くとのことでそれまでは、クレバーも交えて色々な話をしたり、トランプで遊んだり。結局、最後は暇になったが・・・・。


 首都まで数日なのに、一昨日の夜からでよく来れましたね。と聞くと、彼は最前線に最も近い駐在所にいたとのこと。納得だ。




***



「わぁ・・・・」

 首都に初めてくるユウナは、ポニーテールを揺らしながら田舎者のように首都にある軍事基地の大きさに驚いていた。

 いや、驚いているのは、基地内にある巨塔の方か。見上げる首が痛くなるほど高いその巨塔の正体は、広大な首都全域を射程圏内で覆う。遠距離射撃装置グングニルだ。


 どのような技術でそれを実現させたのかは、公開されていないが。数年前『機甲帝国』が首都陥落を狙って侵攻したときは、その圧倒的な性能で首都内に侵入した敵だけを狙い撃ち、消し炭にしたと言う。


「君達の戦績はもう転送してある。時期外れだから、入隊式などは無いが・・・・そうだ、私の元に付けるよう要請しておこう。食堂で待っててくれ、上を説得してくる」

 クレバーは、基地内案内図を俺に渡すと何処かへ行ってしまった。

「あ、有難うございます」

 有無を言わさないクレバーだが、味方になってくれるのは有難い。


 クレバーに言われた通り食堂へ向う。


「ホントに軍人になれるんだなぁ・・・・」

 とは、レンの言葉である。

 彼は、軍の偉い人の息子だ。基地は見慣れたものらしく、驚く様子も見せなかった。

「まあ、クレバーさんが後ろにいるなら、イジメられることもないでしょ」

 基地にも少し慣れたのか、表情から驚きが消えたユウナが言った。


 渡された基地内案内図を頼りに、程なくして食堂に着いた。

 昼時を過ぎた食堂はガラリとしている。お金などが心配になったが、レンによると全て無料らしい。基地内に入ってること自体が軍事関係者ということを証明しているとのことで、食事代は軍が出してくれるとのことだ。


 好きなものを取って食べるバイキング形式で、各々でトレーに食べ物を置いていく。


 テーブルについて、黙々と食べる。

 ユウナはスイーツばかりのメニューだ。コイツ、大丈夫なのだろうか?

 レンもレンで、その食事は肉ばかり。

 俺は一汁三菜のバランスのとれたメニューだ。我ながら健康志向の高いことで。


「先輩~、食べますぅ?」

 ユウナがフォークに刺したケーキを、俺の口に運ぼうとする。

「バカかお前は、ご飯とケーキって何処の偏食家だよ」

「おっ、なら俺にくれ」

 やり取りを見ていたレンが物欲しそうに口を開ける。

「レンさんにあげる訳ないでしょ」

 ユウナはケーキを口に放り込む。レンは頬をポリポリと掻いていた。


 食べ終わって少し待っていると、クレバーがやって来た。どこか浮かない顔だが。


「クレイ・ギルフォード並びに、ユウナ・ロイの2名は俺の元に付くことが認められた。が、レン・ベケットはディーン・ベケット少将の元に配属となった・・・・」

 それは、俺達とレンの別れを意味した。だが、そこまで悲しいことでもない。


「そっか。俺は親父に愛されてんだなー」

 軽口を叩くレンの顔にも、悲しみの感情は見えなかった。

「まあ、頑張れよ」

 レンの胸を叩いて言う。肩に手を乗せようとも思ったが、身長が足りなかった。悔しいね。


「レンはそのまま、巨塔グングニルに行ってくれ」

 クレバーがそう言うと、レンは何も言わず離席した。巨塔グングニルは兵器だけでなく司令塔でもある。将官以上の階級の軍人は、そこから命令を下すことが多いのだ。


「さて、戦闘の報告などは全て私がした。来たばかりで悪いが、また移動だ。私の駐在している基地へ戻るぞ」



 そして、俺は再び荷台で揺られることになった。

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