魔力食い4
戦いは何とか拮抗状態を保っていた。
とはいえそれは先ほどまでの優勢に比べたらいつ崩れてもおかしくない不安定なものだ。
ああこれは死んだかもと何度思ったことか。
「ギュンター!」
「おお!」
僕が名前を呼んでくれただけで察してくれたギュンターが、僕が魔力食いに強引に一撃くわえるのに続き牽制するように体を割り込ませてくる。
「くそっ! 先輩頼む!」
「はい!」
そして魔力食いからの攻撃をぎりぎりでしのぎ、その隙をついてラーラが斧槍で魔力食いを殴り飛ばし攻防を強引にリセットする。
今のところ何とか戦えている。けれどそれは防戦を主軸に置いたもので、先ほどまでのように魔力食いを押しているのではなく何とか押し返しているという状態だ。
特に負担が大きいのはギュンターだ。
体格に合わない長剣を使う僕や経験の少ないラーラでは捌けない魔力食いの攻撃を、ギュンターが全て引き受ける形になってしまっている。
いや、むしろ今のギュンターの戦いぶり自体が予想外。ありがたいどころの話じゃない。
「ぐっ。今!」
「はい!」
魔力食いが横凪に振るった腕を受け流し、それでもたたらを踏みそうになったギュンターをラーラがフォローする。
以前の、王都の南の森で初めて魔力食いと遭遇した時のギュンターなら、あんな化け物の一撃辛うじて受け流すなんて、ぎりぎりのところでできるはずもなくあっさり殴り飛ばされていただろう。
手にした魔剣のおかげ。だけではないだろう。
きっとギュンターは悔いたはずだ。友を守れず倒された自分の不甲斐なさを。
なす術もなく地を這うこととなった己の弱さを。
だから強くなったんだ。
あの日からずっと。何も気にしてない風な体を装いながら。怒りも苛立ちも誰にも見せず、炭火のように滾らせながら。
「ああ何て……」
かっこいいやつなんだ。
自分は騎士なんて向いていないと嘯きながら、彼はやはり誰よりも騎士らしい。
そして誰よりも友達甲斐のある頼れる男だ。
「ハアッ!」
そして斧槍を振るうラーラも。
初めて出会ったときと比べたら、僕ですら分かるほど攻撃の合間の隙が減っている。
何処まで強くなるつもりだと呆れると同時に、きっとどこまでも強くなるだろうという確信と誇らしさがある。
きっと彼女は騎士階級に生まれていれば、間違いなくロイヤルガードの一人に数えられたであろう逸材だ。
生まれながらに人を逸脱するほどの才能を持ち、それを腐らせることも誰かを妬むこともなく健やかに育んでいけるであろう精神性も持っている。
あと十年もすればシュティルフリートには過ぎたる兵だなどと言われるようになるかもしれない。
「いや……」
言わせない。
言わせてはならない。
どうせならこう言われたいじゃないか。
シュティルフリートとその配下は理想の主従だと。
「ラーラ!」
「はい!」
それまで牽制に徹していたラーラのに声をかけ、一転攻勢に出る。
何も勢いで自棄になってるわけじゃない。
人外の力を持つとはいえ魔力食いの攻撃は単調だ。そして何より二人と呼吸が合うようになってきた。
この戦いの最中にも、僕たちは強くなっている。個人としてだけではなく仲間としても。
「よっしゃあ! やったぞ!」
「流石ロイヤルガード!」
戦場の一部から快哉があがり、ちらりと一瞬だけ視線を向ければスケルトンドラゴンの内の一体が羽と腕をもぎ取られ、頭蓋も砕かれて地に伏していた。
もう一方も、既に羽は両方落とされ倒されるのは時間の問題だろう。
イケる。倒せる。
そう戦場全体が希望に包まれたところで。
「――!」
奴は再び嘶いた。
「あ……」
誰かが声にならないこえを上げた。
ただ息を飲む音だけが聞こえてくる。
「……嘘だろ」
ギュンターが思わず漏らしたであろう言葉が、この場に居る全員の思いを代弁していた。
魔力食いの声に応えるように再び森の奥から現れたスケルトンドラゴン。
それだけならまだ面倒ではあっても絶望はしなかっただろう。
「何でドラゴンの死体がそんなにごろごろ転がってんだよ!?」
二体のスケルトンドラゴンの奥からやってくるのは、まだ肉がつき原形を留めた本物のドラゴン。
いや、その肉の一部は崩れ落ち、だらしなく舌の零れた口からは腐汁混じりの涎が垂れている。
ドラゴンゾンビ。名前の通りゾンビ化したドラゴンだ。
スケルトンドラゴンとの違いと言えば、まだ肉が残っているために耐久度が高く、ものによってはブレスも吐くとされている。
そんなものが先ほどの追加に二体。
秘境にでも行かないとお目にかからない魔物を何処から持ってきたのか。
それも気になるけれど、問題はそこじゃない。
「……」
退却を命令しようとして一瞬迷う。
逃げる? どうやって?
ロイヤルガードが一体相手をするのにも苦労する魔物四体に魔力食いからどうやって。
エルヴィン卿に足止めに回ってもらっても間違いなく死人が出る。
でも判断が遅れればそれこそ被害が増えるだけだ。
撤退するしかない。
そう改めて思い口を開こうとしたところで。
「てこずっているようだな!」
彼女たちは、来るはずのない援軍は現れた。




