外交特使2
警告のための書簡ならば馬車ではなく早馬でも使った方がいいのではないかと思ったのだけれど、一応僕の扱いは正式な外交特使となっているので、一人で馬に乗せて送り出すというわけにはいかなかったらしい。
もうこの時点で警告とか絶対言い訳だろうと、ヨーン王が何を企んでいるのかと警戒してしまうわけだけれど、ヴァルトルーデ卿によると悪い予想ばかりではないらしい。
「密使ではなく特使という扱いな以上、今回の君の派遣は正式な功績として数えられる。将来重用する予定の若者に箔をつけるためだ周囲は見るだろう。陛下からの君を使い捨てにする気はないというメッセージと取ることもできる」
つまりは聖剣持って魔力食いぶっ殺してこいという無茶ぶりを陛下が反省して、お詫びとして僕に栄誉ある任務を持ってきたということらしい。
まったくもって有難いことだ。そのせいで騎士学校をまたしても休むことになってしまったわけだけれど。
「それは仕方ないじゃない。むしろ学校の講義よりも有意義な経験になると思うわよ」
「それはそうだけど」
カンタバイレへと赴く馬車に揺られる中、隣に座るエリーがたしなめるように言う。
「それにおまえ本当は騎士学校に通う意味ないだろ。もう伯爵家は継いでんだから、対外的には騎士だろおまえ」
「それもそうだけど」
続いて言うのは向かいに座って同じく馬車に揺られているギュンター。
二人が何故カンタバイレ行きの馬車に乗っているのかというと、ヴァルトルーデ卿から何名か付添として連れて行くといいと勧められたからだ。
カンタバイレは友好国だし護衛までつけてくれるわけだけれど、それでは息がつまるだろうという配慮らしい。
そしてそのことは何故か騎士学校の面々に広がっていたらしく、今まで話したことのないような生徒たちが十年来の友人のように親し気に自分を同行させてくれないかと群がってきた
付添とはいえ正式な外交の席に同行できるのだ。それなりに向上心と野心のある人間なら是非にというのは当然だろう。
しかしそこで彼らを同行させても、僕はまったく得をしないどころかリラックスできるようにというヴァルトルーデ卿の配慮が台無しだ。
なので群がる彼らは見なかったことにして、それなりに気心の知れているエリーとギュンターを指名したわけだ。
本当はこんなことに二人を付き合わせるのはどうかとも思ったのだけれど、二人がいないと僕がもたない。
そう断言できてしまう要因が僕の向かい……ギュンターの隣に腰かけている。
「……」
相変わらず僕をガン見してくるエドバルド。至近距離だというのにその眼光はやわらぐことはなく、むしろ鋭さを増している。
これはアレだろうか。とうとうエドバルドの忍耐が限界を迎え、僕を視線で殺しにかかっているのだろうか。
そこまで彼を怒らせるようなことをしただろうか僕は。
「エドバルド。おまえカンタバイレについたら流石にそれやめろよ。学校内ならともかく、公式な場ではこの中で一番偉いのは伯爵で外交特使のテオドールだぞ」
「……分かっている」
ギュンターに言われて、エドバルドはやっと僕を見るのをやめて馬車の小窓へと視線をずらす。
何故エドバルドがここに居るかというと、僕が仲直りのために指名したから……なわけがない。
ヴァルトルーデ卿からのお願いというのが、今回の派遣にエドバルドを同行させてほしいということだったのだ。
まことに不可解なことだけれど、ヴァルトルーデ卿は僕を対等な友として扱っている節がある。
その友人と弟が不仲であると知り、何とか改善できないかと気をまわしたということらしい。
つまり他の人の付き添いを許したのは、上手いことエドバルドを中和してくれということでもある。
まあ相変わらず僕のことをガン見してくるだけで、以前のように厭味を言われることはないので、ヴァルトルーデ卿もエドバルドには言い聞かせてあるのだろう。
「しかしカンタバイレねえ。でかい割には目立たない国だよな」
「それ、カンタバイレに入ってからは言うな」
「分かってんよ」
こうしてギュンターの軽口にも普通に答えているし、エドバルドに関してもそれほど心配しなくてもいいのかもしれない。
「カンタバイレは地理的に海以外の三方向を強国に抑えられているものね。東のピザン王国は言わずもがな。北は魔法ギルドを擁するジレント共和国。北西は絶対に攻めるわけにはいかない女神教会の総本山であるアルバス教国」
「何だその嫌な包囲網」
「領土的な野心があるなら嫌でしょうけど、逆に言えばその三国を盾にしているようなものだもの。ここ数百年内乱以外の戦争を経験していないっていう、ある意味珍しい国よ」
「はあ、なるほどね。だからピザンとも下手に喧嘩せずに仲良くしてるわけか」
そう。カンタバイレは他国との戦争こそ少ないものの内乱が多いという、身内で常に争っているような特殊な国だ。
だからこそ、僕の護衛に来るという人たちがどの程度のレベルなのか気になるところなのだけれど、その不安は明後日の方向に裏切られることになる。




