30掘 : まだまだ愉しい南米紀行
「なんでいるんですか?」
「わたしだって旅行したいです」
「世界中どこでも出入り自由なら、
勝手に行けばいいじゃないですか」
「美味しいもの食べさせてください」
「日本で食べたほうが美味しいですよ?」
「私もマチュピチュ登りたいです」
「シャトルバス2000円、入場料4500円です。
その上、事前予約が必要なんで、明日とか無理です。
ちなみに明日にはクスコに帰ります」
「じゃあ、遺跡に直接転移します!」
「一応2400メートルの山の上なんで、そのさD子服は目立つ
からやめといたほうがいいですよ。あと靴履け。」
「かわいい服買ってください。民族衣装でもいいですよ?」
「マチュピチュって描いてあるTシャツでいいなら。
でも値段のわりにセンス悪いですよ?あと民族衣装なんぞ
売ってねー。ばれないように侵入してくださいよ。
服は、お袋の勝手にきてください。
Tシャツだけだと、いらんもんが見えるかもしれませんが、
ああー、ブラは合うサイズがこの世の中には存在しない
んでしたっけ?絆創膏でも貼っといてください。
では、もう寝ますんでまた明日」
翌朝、南米のホテル恒例なんじゃないかと思うほど、どこも
同じのチーズやらハムやらのサンドイッチバイキングと激甘の
フレッシュジュースに高山病防止の気休め程度の効果しかない
コカ茶を飲んでおいた。
このコカ茶、ご想像通り、あのコカインのもとである。
俺が飲んでるのはティーパックにはなっているがコカの葉の粉末で
ある。日本茶と違って苦味の中に旨味があるわけでなく、嫌な苦味
がするだけでゲロ不味い。こちらのミネラルウォーター自体が
不味いので、我慢してコカ茶にして常用しているが、そろそろ普通
の飲み物が飲みたい。
コカの葉は化学処理しないとコカインにはならないし、いくら
コカの葉を食べても飲んでも中毒症状も高揚感もない。
ただし、ティーパックですら、南米から米国に持ち出すと
入国時にお縄になるんで注意である。
この話、いくら注意してもやらかすのが老若男女問わずいる
らしく、ツアー客の一人でもやらかすと全員拘束されるらしい。
そもそもマチュピチュでコカ茶飲んだからって高山病が治るわけ
ではなく、マチュピチュがここら周辺の高山都市と違って、標高が
2400メートルしかないから高山病になる範疇外なだけである。
ここマチュピチュで体調が悪い人がいるのは、日本からの長旅の
疲れで高山病になってまだ治っていないだけである。
日本からの弾丸ツアーなんかあるみたいだが怖い話である。
高山病になるかならないかは、その人の特性らしく、性別・年齢・
運動能力が高いかどうかは関係ないらしいんで、心配なら富士山に
登って事前確認してこいというわけである。
マチュピチュへのシャトルバスは早朝から数分置きに運行して
いる。普通のバスよりちょっと小さいので定員は40人未満
だろうか?でも立って乗ってる人もいるし。遺跡までは30分。
未舗装の狭い道をくねくねと登っていく。遺跡で日の出を見たい
ひとや元気過ぎるひとは歩いて登っている。
遺跡入口には、デカいレストランに公認アイテムショップ。
取敢えずむっちゃ高い。半袖ボタンシャツが9000円とかする。
でも記念に買った。唯一、南米ぽかったという理由ですが。
入場チェックを通り中へ、しばらく狭い細道をくねくねと登って
いく。
そして、いよいよ眼前が開けたなと思ったら、写真とかでよく
見るあの光景である。実にすばらしい。よくぞ、こんなところに
造ったもんだ。そのおかげで今は観光資源として活躍している。
入場者制限があって1日15000人だそうだが、
やはり4,5時間は皆いたいのだろう。写真じゃ見えないが、
遺跡の中に常時5000人程いるわけである。
人工密度は非常に高い。実に夢がない話である。
遺跡をひと通り廻ったあと、マチュピチュの野鳥を望遠撮影して
いると女神様がやってきた。言った通り、お袋の服を着てきて
いる。スポーツ靴もちゃんと履いている。
「クドウ、あの山のぼりましょう!」といって写真でも有名な遺跡
の奥に見える小山?を指差す。
ワイナピチュである。
「だめですよ。アレ人数制限しててかなり前からの予約が
いるそうです。おまけに結構、足場が悪いそうでにぶちんの
あなたには無理です。俺も今日知ったんで、残念ですけど野鳥の
撮影で楽しんでるんです」
「いっしょにいた男性はどこいったんですか?」
「ケニーですか?ここにはリャマ以外にも野ウサギが遺跡の岩の
隙間に住んでいてそれを撮影しようと探し回ってますよ」
「で、あなたは野鳥をと。で何がいますか?」
女神様に撮影した画像を見せてやる。
「コンドル信仰があるんでコンドルが取りたいんですが、
見つけても遠くを飛んでいるんで撮影できませんでしたけど、
ほら、あそこにもいますがハチドリが結構いますよ」
俺の指差した先で、翡翠色の美しいハチドリが花の蜜を吸っている。
ただし、肉眼では、緑色の蝶か虫かにしか見えないが。
「綺麗でかわいいですねー」女神様は、モンゴルかアフリカの
現地民なみに眼がいいみたいだ。
かなりのお歳だろうし、もしや遠視じゃね?
「そろそろケニー見つけて、クスコに向かいます。
明日はいよいよウユニ塩湖に行きますけど。宿泊するホテル以外
は食べるところすらないんで勝手に見学して帰ってください。
南米旅行の最後にリマのスッゴイ美味しいレストランに行くんで
それには連れて行ってあげますから、それまでは我慢して
ください」
女神様と別れ、ケニーとともに駅に向かう。
記念の土産物が欲しいが碌なものがない。
にやけたおっさんの人形とか
マチュピチュ遺跡のできの悪すぎる粘土製のジオラマとか。
ここペルーは銀製品が有名で価格も安い。でもデザインの凝った
ものは、それなりに高い。日本でも銀のアクセサリーとか安くても
数千円、高い物は数万円である。銀なんて1グラム100円程度
なのに、なんでそんなに金を出さねばならんのだ。
ひとつ、これはというものを見つけた。
直径1.5センチの小皿が10個程連なったブレスレット。
小皿の中には、ナスカの地上絵のように神格化された動物たちが
1枚に1匹づつ浮彫で造られ、金で装飾されている。その他各部
には蒼くきれいなラピスラズリが埋め込まれたとても神秘的で
美しい品だった。
価格を聞くと約20万円。カードが使えるとは言え、
微妙に胡散臭いマチュピチュの土産物屋で出せる額ではないし、
そもそもそんな金はない。俺が、諦めるとケニーが値段交渉して
かなり安くなってはいたが、まだいい値段だった。
怖いお姉さんへの土産にでもするのだろう。
電車の時間なので、早々にクスコに向かおう。今から向かっても
着くのは夜になるのだから。
次話のウユニ塩湖の話は創作物語と関係なくリアルな経験の話をします。
実は、僕が行ったのは1月の雨季で、この物語の中では、8月の乾期の
話になってしまうので、どうせなら雨季の鏡の湖の話の方が喜ばれる
気がしたからです。その辺は無視して、駄女神様を雨季でも出して欲しい
方がおられたら、ご要望にお応えしますが、そんなもの好きはいないでしょw




