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「機関から連絡が来ました、今日は空いていますか?」

 深夜三時くらいに解散して四時間くらいは眠れた。白子ちゃんは昨夜、僕の思い出話が始まるなり寝ていたので五時間くらいは寝られたのだろうか。

 ひたすら眠い休日の朝を迎え、顔を洗ってシャワーを浴びてお母さんの世間話らしき早口を聞き流しながら朝ご飯を済ませて、いやー昨日は大変だったね、白子ちゃんが寝てからはこんな話をしたんだよっていう説明を欠伸で流された後、玉響先生が訪ねてきた。

 玄関口で出迎えた玉響先生は常のスーツではなくジャージ姿だ。

 何だろう、ぼさっとしたジャージじゃないというか、動くことを念頭に置いたスマートなジャージというのか、ジャージなのに眼鏡と無表情が似合うっていう不思議な格好で現れた玉響先生は、開口一番にそう言った。

「……えと。あ、おはようございます。昨夜はどうも……ええっと、早いですね」

「おいおい、今日は一日惰眠を貪る予定だぞ。何だよ、どっか行くのか?」

 僕の後頭部をがっしがしと掻き毟る白子ちゃんをまあまあと宥める。

「機関からの連絡って、両腕の件ですか?」

「そうですね。戻すあてがあるようで、そこまでの案内を頼まれました」

 時間が止まる感覚をさらっと与えられ、固まる。

「は? んだよ、戻せるのか?」

「もう何度か注意しているはずですが、言葉遣いを正してください。切り刻むぞ」

「うるせー奴だな、やるのか?」

 えっと、驚きで黙ってる暇すらないって勘弁してください。

「すとーっぷ、白子ちゃんは落ち着いて、戻せるかもしれないんだよ? あ、先生、すみません、案内をお願いします」

 白子ちゃんは舌打ちを発し、玉響先生は一つ息を吐く。

「では移動しましょう、車に乗ってください」

「あ、はーい、了解です。あはは、有難うございます」

「くそうぜー、眼鏡割ってやろうか?」

「白子ちゃん、言葉は正そうね」

「姫百合さん。粉々にするぞ」

「先生、運転頑張ってください。お休みの日にわざわざ有難うございます」

 両腕を元に戻せるかもしれないっていう喜ばしき事態にどうして僕の胃に穴が開きそうなのか丸きり理解できないものの、玉響先生の車に乗り込んで移動する。

 安全運転を体感すること三十分近くで、そこに到着した。

 住宅街からは離れた小高い丘の中腹にある一軒家、さぞかしお金持ちっていうか白子ちゃん宅どころではないブルジョワジーっぽい人が住んでいるんだろうなって真っ白な家が、到着地点だった。

 見回す限りに家はない。

 町外れの別荘みたいな雰囲気を醸す家は幽霊屋敷みたく丘の中原にぽつんと建っていて、人が住んでいるようには見受けられない。荒れている様子はないが生活感を見出せない家の前で、玉響先生は車を止めた。

「詳しいことは知らされませんでしたが、この家に戻せる人が住んでいるそうです。私はここで待っていますので、話をしてくるといいでしょう」

 車から降りれば湿度の高い空気がもわりとまとわりついてくる。随分と上っていた影響だろうか。

「あの、先生の紹介って言えばいいんですか?」

「機関の紹介で通るはずです。私は状況を伝え、案内を頼まれただけです。家の主とは面識もないので、私の名前を出しても効果はないでしょう」

「はあ、なるほどです」

 機関は僕と白子ちゃんの両腕入れ替えに、解決法を提示してくれたのか。ううん、玉響先生にも感謝すべきだが、機関っていうのにも感謝が募る。

「えと。ほんとに、有難うございます。こんなに早く対応してもらって、有難いです」

「元に戻せるといいですね。期待して待っています」

「あ、はい。どうもです」

 おおう、玉響先生、めっちゃ優しい。

 顔に出さないだけでめちゃくちゃいい先生だ。いや、いい人だ。玉響先生にならほんとに何をしてもいいというか、何を指示されても頑張ってやり遂げたくなっちゃう。

 舌打ちをしている白子ちゃんを宥めつつ何度も頭を下げて、家へと向かう。

 門さえなく、開けっ広げな野原の真ん中に立っている家の玄関前に立ち、扉を叩く。三度ほどノックをして待てば、程なく扉が開く。

 現れたのは金色の髪をした少女だった。

「あ、機関からの紹介で来ました、今市形といいます」

 どんよりと曇った空からの光でさえ輝く金色の髪に、やたらと大きな目、小柄ながら白子ちゃんとは正反対に凹凸のある体をした女の子は、僕らを明るい笑顔で迎える。

「やっほー、聞いてた聞いてた。籐堂柚子柚とうどうゆずゆだよ、神だよ? 二人の変てこな現象なんて直ちに解決しちゃうぜ」

 年の頃は同じくらいだろうか、柚子柚ちゃんは輝く笑顔で僕らを招き入れた。

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