逃走劇?
ぱらぱら ぱらぱら
雨が降る。
遠巻きにボクも見つめていた人たちも
すぐに関心を別のものに向けて
興味なんてなくしちゃうんだ。
でもね?
それでいいと思う。
いや、それがいいと思う。
ボクは頬にペタっとはりついた髪をつまみ上げた。
だって髪を伝って目じりに雨が入り込むんだ。
それって結構痛いんだよ?
って言ってもそんなこと
みんな忘れちゃったかもしれないけど、さ。
***
藍那の言葉に驚く男の額を藍那はピンッと人差し指ではじくと、さっと当たりに視線を這わせた。窮地におちいったときほど人の頭は冷静にものごとを判断するものだ。それまで混乱していた頭がすっと冷め、次の瞬間には行動するべきことが見えている。そして彼女が今一番しなければならないことは状況確認だった。なんとしても逃げ道を見つけ出さなければならないのだから。
「後ろはダメ。あの変な2人組みが追いかけてきているから。っていっても、回りは民家ばっかりで、続く道はないときたか・・・なら、不法侵入しか方法は残ってなさそうね。」
「えっ!?不法侵入ですか!!」
素っ頓狂な声を上げた男のそれを背中に聞きながら、藍那は錆びついた鉄柵に手をかけながら答える。
「大丈夫よ、大丈夫。人様の家に入って盗みを働こうってわけじゃないんだし、そもそも子どものころに鬼ごっことかかくれんぼの延長で勝手に庭に分け入ったことぐらいあるでしょう?それこそそういったスリルを冒険として遊んだことぐらい、ね?ようはバレなきゃいいの、バレなきゃ。――よしっ!!」
柵の隙間から手を入れ、かかっていた錠前を外せば古びたそれがキィキィと甲高い音を立てながら薄く開いた。藍那はその隙間にするりと体を滑り込ませると三日月のように目を細めながらちょいちょいっと男を手招きする。
太郎は苦虫をかみ殺したような顔をしていた。
「はぁ・・・・・・藍那さんって綺麗な顔をしているわりには、すっごくあくどい顔がいたについていますね。なんだか第一印象と違いすぎていてだまされた気分です。」
「はぁ?何言ってんの。女はみんなそんなもんよ。魔法のアイテムを使って小奇麗に装っているけど、心の中はいつもギラギラしているもんなの!!それが仕事に向けられるか、男に向けられるか、はたまた家庭にむけられるかは個人によって違うけれどね?男の人なんかよりよっぽどタフで前向きな生き物なんだから。って、ほら、ぐずぐずしない!!」
ぐっと手を差し伸べられて、彼はためらいがちにそれをとった。
「はぁ、そんなもんなんですか。世の中ってやっぱり見た目と中身がかけ離れているですねぇ。『目に見えるものが真実ではない』とはよく言いますが、もしそれが本当なら俺もあの子も救われる気がします。」
「あの子?それって――」
「いたぞ!!」
「「――ッ!?」」
藍那は咄嗟に門を閉め、錠を下ろすと太郎の手を引いて走り出した。
「んっとに、しつこい連中ね!!少しは他人の迷惑かえりみろっつーの!!」
後ろからはカチャカチャといった音が聞こえ、彼女は自身のとった行動が若干の足止めに成功したという事態を受け止める。とはいっても、子どもでも開けられる簡単なつくりだったそれに過度な期待はできなくて。
「さて、どうしたものか・・・」
彼女は眉間に皺を寄せながらそう呟くと、建物と塀との細い隙間を全力で駆け抜けた。日の当たらないその場所は黴臭いような匂いがして、塀にはえていた苔が彼女たちの服を容赦なく汚す。それに加えてふり続けている雨によって出来上がった泥水が走るたびに跳ねとぶものだから、そこを抜け出すころには2人は散々な格好に成り果てていた。それはさながら雨の中を無邪気に遊びまわった子どものようで、
「・・・・・・サイアク。」
隙間から脱却して庭に降り立った彼女の第一声に、男が小さく笑った。それをうけて彼女の表情が一段と険しいものへと変わる。
「あんなねぇ、このジーンズがいくらしたと思ってんの!!あぁ、こんなに汚れちゃって・・・クリーニングにだせば綺麗になるかなぁ。っていうか、綺麗になってもらわないと困る!!」
「あ、藍那さん落ち着いて。それよに逃げないと・・・」
「わかってるわよ!!」
彼女は男に噛み付くようにそういうと、もう一度逃げ道を確保するために辺りを見回した。けれど、
ガラガラ
「「「――ッ!?」」」
騒ぎを聞きつけたのか、家の住人が窓からひょいと顔をだし、バチッと音がしそうなほど、2人と視線がかち合った。が、お互いが驚きに目を見開き固まっている中で、最初に動いたのは藍那だった。
「奥さん、大変です!!」
彼女はさっと住人の元に駆け寄った。
「先ほどからお宅の家の前に怪しい二人組みがいて、なにやらこそこそしてるんです。」
「えっ!?」
藍那の必死の表情に女の顔が強張った。
「もしかしたら泥棒かもしれません。それとも変体かも。カメラなんてもっていたし、盗み撮りの常習犯かもしれません。ほら、奥さん綺麗ですし・・・って、あいつらですよ!!」
まるでタイミングを見計らったかのように塀の陰から飛び出してきた二人組みを藍那はピシッと指差した。女2人の強い視線を受けて彼らの瞳が大きく見開く。そして、
「どろぼぉぉぉぉぉ!!!?」
と、藍那が力の限り叫ぶのと太郎が庭に転がっていた箒を渡すのは同時のことで。家の住人は目を吊り上げながら箒を片手に男たちに詰め寄って言った。
「へ?は?ち、違います!!我々は泥棒なんかじゃなくて・・・えっ!?盗撮!!ご、誤解です!!このカメラはそういった目的にさげているものではなくてですね・・・」
目を白黒させる男たちの顔を見て、藍那はフンッと鼻で笑うと太郎の手をとって、今来た道とは反対側を通ってもう一度この家の門を潜り抜けた。
「ざまあみろっての。これでしばらくは足止めできるんじゃない?」
ニコニコと笑いながらのんびり歩きだした彼女の背中から、盛大なため息が聞こえる。
「・・・・・・さすがは舞台女優さん。演技力もさながら、人の心の動きにも聡いというわけですか、ってほめたいところなんですけどね?バレなきゃいいっていったのはどこの誰ですか。思いっきりバレたし・・・」
とぼとぼと肩を落とす男のそれを藍那はバシバシ音が出そうなほど強く叩いた。
「なぁ~に言ってんの。バレてないじゃん。あの奥さんが私のこと知っているわけじゃないんだから、問題ないでしょう?」
「そりゃぁ、そうですけど。あの男たちは俺のこと知っているわけで、また俺に対するイメージが悪くなるんだろうなぁ。」
男の言葉に藍那はピタリと動きを止めた。その後姿を見て男の顔にはてなが浮かぶ。が、太郎が声をかけようとした次の瞬間、彼女は何事もなかったかのように前を向いて再び早足で歩き出した。そして
「それはご愁傷様。運がなかったと思って諦めるしかないわね。まっ、私には関係ない話しだけど。大人なんだから自分で何とかしなさいよ。」
とばっさり言い切ったのだ。けれどそんな辛らつな言葉とは裏腹に、藍那の小さな肩は強張っていた。だから男は
「うわぁ、ひどいなぁ。」
と間の抜けた声をだしながら、彼女の頭をポンポンッと軽く叩いてみせた。その慰撫するような優しい仕草に藍那はグッと唇をかみ締める。
「・・・・・・怒らないの?」
「どうして?」
「だって・・・もしかしたら警察がくるかも。」
「何も疚しいことはしてないんです。問題ありませんよ。」
「でも、家に入ることを進めた張本人が一番安全ってずるいでしょう?卑怯だって思う。」
「そうでしょうか?俺はあなたが安全のほうが嬉しいですけど?」
そう言って頭を撫でる男の声に藍那はさらに唇をかみ締めた。
「だって、あなたは助ける必要のない俺を助けてくれたでしょう?それにあなたは失えないたくさんのものを持っていますから。」
「え?」
そう言った男の瞳が鉛色の空を見つめている。
彼は静かに笑っていた。
「あなたは俺と違って、たくさんのしがらみを背負っている。それは時にとても重いもので、面倒になることもあるかもしれない。でも、だからこそあなたは社会に認められているといえるんです。いや、あなたをとりまく、たくさんのものたちにあなたという存在を認識されているといったほうがいいのかもしれません。あなたには数多くの繋がりと、それに付随する信頼を背負っています。それはかつて俺にあったもので、今は俺にないものです。そしてなくして初めて、それが俺自身を守っていてくれたことに気がついた。」
男は後ろで手を組んだまま足元にたまった水たまりをひょいひょいっと避けるように歩く。その軽やかな足取りは男の語る言葉とはかけ離れたもので、それが藍那を物悲しい気持ちにさせた。
「1人で生きていくことはできないことではないけれど、どうせなら誰かの助けがあったほうが楽ができるでしょう?守ってくれるものがあればそれだけでずいぶんと生きやすくなる。だから失わなくていいのなら失わないほうがいいに決まっています。失えないものがあるなら守ればいいんです。それが卑怯だって言われることになっても、失ってしまうよりはずっといい。」
肩越しに振り返る男の笑顔は青空のように晴れ晴れしていて、藍那は彼が失ったものの大きさを垣間見たような気がした。
「だから俺はあなたを卑怯だなんて思えません。親切にしてくれた人の不幸を願うほど自分は捻くれていませんよ。」
「そっか・・・あなたってかわいそうな人なのね。」
「俺が?」
「ええ。そしてとても優しい人――」
藍那はそう言ってそっと男の隣に立った。
「私ね、舞台女優だって言ったけど、それって本当は少し違うの。私がやっている仕事は印刷会社のデザイナーで、いろんな広告やポスターなんかデザインしていてさ。舞台女優は仕事の合間に行っている小さな劇団での役職なわけ。」
藍那は手の中にある自身の傘をくるくるともてあそびながら話し始めた。
「学生のころからずぅっと舞台女優にあこがれていて、いつか絶対それになってやるっていうのが私の夢だった。ううん、今でも夢なの。でも、そうするには時間も才能も運も足りなくて。学生を卒業するときに私は生活するために別の仕事を選んだんだ。」
「後悔・・・しなかったんですか?」
「ふふふ、もちろん後悔したわよ。それこそ仕事を始めた当初は嫌で嫌で仕方がなかった。なんでやりたくもないのにこんなことしなくちゃいけないんだって、私が目指すものはもっと違ったものなのにって、そんな思いが消えなかった。でもね?結局人ってものは何を選んでも後悔するものなんだと思う。選ばなかった未来はどうなっていたかわからないからこそ、期待することができるもので、だから自分がいる今よりずっと素敵に見えるものだもん。でもね?それでも私は意地で耐えてきた。というか、結局のところ仕事をやめて路頭に迷うことが嫌だったのね。不安定な未来をそのまま受け入れるだけの器が自分にはなかったの。」
「そりゃぁ、そうでしょう。俺にだってありません。」
男が言った言葉に彼女は小さく笑った。
「自分で選択したことだって思っても、「やらされている」という気持ちは消えなくて。でも、全てを投げ出してしまうほど無謀にはなれなくて――いつだって理性って言うストッパーがどこかではたらくの。リスクを考える卑怯な自分がいる。それは長年見続けてきた夢でも同じことだった。どうしてかしら?あんなにほしくてたまらなかった夢の欠片を手に入れることができるっていうのに、どうして私は戸惑っているのかしら?」
「もしかして、藍那さんが言っていた「答え」っていうのは夢をおいかけるか、諦めるかといったことだったんですか?」
「まぁね、簡単に言えばそんな感じ。私は今東京の有名な劇団から稽古をつけてみないかって誘われているの。それを受ければ今まで築いてきた地位とか歴史とかそういったものが全て無になるわ。『ゼロからのスタート』なんて聞こえはいいけど、結局のところは博打に近いものでしょう?上手くいけばいいけれど、最悪どれだけ惨めな思いをするか分からない。何も知らない自分ならそれでも耐えられたと思う。でも、ある程度満たされた生活を知ってしまった後に体験するそれはよりいっそう自分の心に暗い影を落とすものだと思わない?」
「そう・・・ですね。俺はまさにそれかもしれない――」
太郎はそう呟いて自身のつまさきに視線を落とす。
雨と泥水でぐちゃぐちゃに汚れたスニーカーはボロボロで、彼の口からふっと息をつくような笑みがこぼれた。
「藍那さん。」
「ん?」
「雨宿りしませんか?」
男の指し示す方向をたどれば、そこにはシャッターを締め切った古びた中華料理屋があって、色あせた赤い庇がパタパタと音を立てながら雨粒をはじいていた。
「雨宿りって・・・お互い全身ずぶ濡れなのに?」
「全身ずぶ濡れだから、ですよ。あんな寂れた場所で雨宿りなんて全身ずぶ濡れじゃなかったら、怖くてできないでしょう?」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・別にあえてあそこで雨宿りする必要なんてないんじゃない?」
「今はそういう気分なんです。ほら、ね?」
太郎は困惑する藍那の手をとると、彼女の答えを聞かずに歩き出した。強すぎるわけではなく、けれど弱くもない力で引っ張られて藍那の体が1歩、2歩前へ出る。その彼らしくない強引な態度に彼女は違和感を覚えたのだけれど、結局のところ太郎に抵抗することなく、おとなしく彼の後に続いた。
男は庇の中に入るとほっと息をついた。が、じっとその様子を見ていた藍那のさぐるような視線に気がつくと、しまりのない顔でへらっと笑ってそのまま鉛色の空へと視線をうつす。
太郎は何も言わなかった。
だから藍那もまた何も言わずに彼に習って空を見上げる。
雨は断続的に振り続け、雨粒がパタパタと庇を打つ音が規則正しく続いている。そして、その音は不思議なことに藍那を雨の世界にとり残されたような奇妙は気持ちにさせるもので、彼女の心に今、この瞬間世界に自分と太郎しか存在していないのでは、といったバカげた妄想を浮かび上がらせた。
『もし――』
そんなことがあるはずないと分かっていも、彼女は「もしも」に思いをはせる。
『もし、本当に世界にこの人と取り残されたら、きっと毎日喧嘩がたえなさそうね。お互い不満をぶつけられる人なんて相手しかいなわいけだし・・・価値観とか違ったらもうサイアク。同じ考えを共有してくれる「誰か」と話もできないとくれば、いつでも苛立ってるんだろうなぁ。』
藍那は太郎に向かってどやしつけている自身の姿を思い浮かべてくすっと小さな笑みをもらした。それは「もしも」をつけるには、あまりにもありそうなことに思えたからだ。
きっと、この男と共にいるということはそういった日常が当たり前のように続くということで・・・
想像の中で頭を下げながらおろおろとする太郎の顔を思い浮かべながら、それもありかもしれないと、ふと彼女はそんなことを思った。
太郎は目元をほころばせる藍那を訝しがるようなそぶりを見せたが、何かをたくらむようなその瞳の色に思うところがあったのか、開きかけた口元を閉じてしまった。
パタパタ パタパタ
2人は庇の作る硝子玉のような世界の中で寄り添っていた。
「小さいころ・・・ずぅっと不思議に思っていたことがありました。なぜ雨が降るんだろうって。どうして空から水が落ちてくるんだろうって、ずっと不思議だったんです。だって、空は空で、海じゃないでしょう?なら、水なんてどこにもないはずだって、そう思っていました。ふふふ、だからですかね?今思えばバカな話ですけれど、当時の自分は神様が雨を降らせているんだって考えていたんです。それこそ、如雨露を持って、あっちでちょろちょろ、こっちでちょろちょろって具合にね?」
太郎はくすくすと小さく肩を揺らした。その瞳が空のずっと向こうを見つめるようにすっと細められる。
「でも、実際はそんなことじゃなかった。雨って言うのは空気中の水蒸気が冷やされて水に戻るだけの現象というだけで、何も不思議なことではなかったんです。だから、それを聞いたとき俺は『なぁ~んだ、そんなことだったのか』ってがっかりしたことを覚えています。もっとあっと驚くような理由があると思っていたから。なんてことはない、目に見えないだけで、水はちゃんと空にあったんですね。」
男が庇の外に伸ばした手のひらに雨粒が当たってパチンッとはじけた。
「だから俺が探している答えもきっとわかってしまえば『なぁ~んだ』って思えるようなことだと思うんです。そんなことだったのかって呆れてしまうような答えだと思うんです。」
「そっか・・・」
「でも、藍那さんの探している答えは俺とは少し性質が違っているものです。俺が何もないところから答えを探さなければならないのなら、藍那さんの答えは決められた選択肢の中からそれを見つけなければならないもので、あなたは俺なんかよりずっと身動きがとり辛い位置にいるんだと思います。それってとっても息苦しいことですよね?それでも今までずっとそれに耐えてきたわけでしょう?」
男はそう言って体ごと彼女に向き合った。空を見上げて細められていた瞳は柔らかさを残したまま今では彼女を余すことなく映し出していて、
「だからあなたは信頼される人なんですね。」
「え?」
伸ばされた腕が慰撫するように彼女の頭をぽんぽんっと優しく叩いた。
「何もないところから何かを見つけ出すことは大変なことです。先が見えないから、明確な形がないから不安で、怖くて・・・でも、だからこそ果てがないほどの希望を抱くこともできて。俺がのんきに変人なんかやっていられるのもそのためだと思います。結局のところ俺は不確かなものにしがみついて、あいまいな毎日を過ごしているだけなのかもしれないと、藍那さんを見ているとそんなふうに思うんです。だってあなたは真剣に未来と向き合っているから――」
男はそっと目を閉じると、かみ締めるように言葉を紡いだ。
「淡い期待に惑わされることなく、厳しいことにも苦しいことにも目を背けたりしない。あいまいという心地よさに浸ることをよしとしない。その姿勢はとても真摯なものだと思います。いっそすがすがしいほど真っ直ぐで、凛としていて、誰かの心を揺さぶるものです。俺はあなたのそんな姿に引き付けられました。きっと、信頼されるということはそういうことなんだと思います。」
「そういう・・・こと?」
「えぇ、人を引き付ける力があるってことですよ。それが誰かに信頼してもらうための条件だと俺は思うんです。」
太郎は目を細めながら笑った。そしてエイッと勢いよくジャンプして庇の外へ飛び出すと、くるりと回れ右をして藍那と対峙する。鉛色の空から降り注ぐ雨粒が男の体を滑り落ちていく。
「俺は藍那さんを信じています。だから、藍那さんの出す答えも信じることができる自信があります。だって、その細い体であなたが必死に答えを探そうとする姿は、俺に感動を与えてくれるもので、俺はあなたに引き付けられて止まないんです。」
あぁ・・・
藍那の口から言葉にならない吐息が漏れた。
雨に濡れた男の体はぐちゃぐちゃで、とても綺麗とは言いがたいものだったのだけれど、それでもその笑顔はまぶしいほど真っ直ぐなもので、藍那はなんて綺麗に笑うのだろうと、そんなことを思った。と、同時に引き付けられるということが、信頼がうまれるということが、どういったものなのかわかった気がした。そして、
バシャッ!!
「――ッ!?」
男がしたように勢いよく庇の外に飛び出すと、こちらもくるりと回れ右をして太郎と対峙する。
着地と同時に大きな音を立てて飛び跳ねた泥水は、彼女が高価だといってやまなかったジーンズを酷く汚してしまったのだけれど、藍那はそれに関して何かを言うことはなかった。代わりに口をついて出た言葉は男の予想をうわまわるもので。
「あなたって本当に何も分かってないんだから。」
「イテッ!?」
ピンッと人差し指で額をはじかれて太郎は目を軽く見開きながら額を両手で押さえた。それがおかしくて藍那の口元に微かな笑みが浮かぶ。
この男は思いもしないのだろう。
彼女がずっとその寄せられる信頼に縛り付けられていることを。そんなものがなければ藍那はとっくに夢を追いかける道を選ぶことができたはずだ。それをしないのはひとえに信頼を寄せてくれる人たちの期待に応えたいと言う彼女自身の優しさと、信頼を裏切ることで嫌われたくないと思う彼女自身の弱さによるものだった。
信頼を寄せられて嬉しくないわけがない。が、過度なそれは彼女を苦しめる要因でしかなかった。それをこの男はわかっちゃいないのだ。とはいっても、現実なんてそんなものなのだろう。
信頼している人だからといって、自分のことを理解しているというわけではないし、言って欲しい言葉をくれるかといったらそうではない。
もし世界にこの男と二人きりならば、今の時点で喧嘩が勃発していることだろうと、藍那はそんなことを思った。
「あ、藍那さん!!俺、何か失礼なこと言いましたか!?」
「べつに。失礼ではないけど、まったく見当違いな言葉を承って、呆れているだけ。そんなに鈍いと女の子に呆れられちゃうと思うけど?」
「藍那さんにも?」
「そうね。」
「うぅ~、すみません・・・」
太郎はしゅんと項垂れた。だから、彼女が今まで見せたことがない柔らかな表情で男を見つめていたことを彼はしらない。
『現実なんてそんなもの。』
と、藍那は心の中で呟いた。
家族に友人に恋人に。
世間に社会に世界に。
理解されなくて悔しくて、悲しくて、苦しくて。
それが当たり前の日常は孤独で溢れている。が、それでも諦めずに誰かに理解してほしいと思う何かがあるのならば、それはその人にとって捨てられないものなのだろう。藍那が抱く夢のように――
「藍那さん?」
急にくすくすと肩を揺らしながら小さく笑い出した彼女は、次第にそれを大きなものへとかえ、しまいにはお腹を抱えて笑い転げ始めた。
ギョッと目を見開いた太郎がためらいがちに彼女に手を伸ばす。が、藍那はするりとそれをよけるとそのまま男の襟首をグッと掴んで押し倒した。不意をつかれた太郎の体がよろけ、バランスをとるために踏み出した足が泥水にすくわれる。
バシャッ!!
「ッ!!」
尻餅をついた拍子に大きく飛び散った泥水は藍那もろとも太郎の体をしとどに濡らし、ぽたぽたと髪から滴り落ちるそれを彼は呆然と見つめていた。
その間抜けな表情がおかしくて彼女はまたくすくすと小さく肩を揺らして笑う。
まるで少女のような顔をする藍那を太郎は綺麗だと思った。
「捨てられない思いって苦しいものなのね。」
「え?」
「ねぇ、あなたって捨てられないものある?どんなものに出会っても、どんなに時がたっても心の中にあり続けるものって?」
「えっ!?俺に、ですか?」
「そう。あなたに――」
「って、急に言われても・・・」
もごもごと口を動かしながら俯いた太郎を見て、藍那は襟首を掴んでいたままの手を放した。すると支えてくれていたものがなくなった顔はそのまま重力に逆らうことなくずぶずぶと地面へと向かって垂れ下がっていく。
男の頭が完璧に俯ききってしまうとようやく藍那は馬乗りになっていた体を彼のそれからどかして同じように泥水の中に座り込んだ。二人の体にパラパラと雨が降り注ぐ。
「私、今日この場所にたどり着くまでにたくさんのものを失ったみたい。だって、そうしてこなければ生きていけなかったもの。変わらない自分でいることは常に変わっていく環境の中で自分1人が取り残されるってことでしょう?生き物って言うのは変化に適応できなければ死んでいくしかないわけで、そうやって私たちは進化してきたわけだ。そしてそれは今だって変わってないと思うの。私は・・・子どものころのままの気持ちで生きていくことなんてできなかった。無理やりにでも考えかたを、生活を、気持ちを今いる環境に適応させなければそこにいることができなかった。だから、苦しかった。決められた枠の中に自分をきちんと入れられるよう、枠からはみ出すようなイレギュラーな気持ちや行動は無理やりにでも変化させて押し込めるか、切り捨ててしまうかしかなかったからね?でも、だからこそ今がある。あの時、いえ、今でも苦しみながら自分を変えてきたからこそようやく今いる環境に適応できるようになった。ようやく昔に比べたらましと思えるような気持ちで毎日を過ごすことができるようになった。」
泥水の中で膝を抱えて座る藍那は鉛色の空を見上げていて、けれど瞳はまぶしいものでも見たときのように細められていた。きっと、目の中に入る雨粒が痛みを伴っているのか不快なのだろう。そう思った太郎は雨が目に入らないように彼女とは正反対に俯くことにした。が、結局のところは髪を伝って滴り落ちる雫が目に入るわけで。
上だろうが下だろうがそれほど大差ないと思わずにはいられなかった。
「だから、今夢を叶えたいと思っている私は、かつてそうしたいと思っていた私とはもう違っていて・・・同じ思いを追いかけているつもりでも、いえ、追いかけていたいと思っていても、無理やり自分を変えてきた私には同じものを目指すことはできない。もう、あの時と同じ自分には戻れない。私は・・・どちらの答えを選んでも苦しむことになるだけ・・・なのね。」
「どうして!!確かにあなたは昔に比べて変わったのかもしれない。失ってしまって惜しいものもあったでしょう。だからこそ得られたものだって、ね?でも、だからってこれから選ぶ未来が必ず苦しいものであるとどうしていえるんです!?」
太郎のまくし立てるような言葉はまるで藍那を攻めているようで、けれどその実、何かに怯えているようにも見えた。だから彼女はふぅと大きなため息と共に苦い笑みを顔に貼り付けて男の顔に手を伸し、
「ふがっ!!!?」
男の鼻をギュッとつまんで引き寄せた。そして縮まった距離をさらに縮めるべく顔を寄せ、驚きに見開かれた瞳を覗き込む。その射るような鋭い視線に彼は息を呑んだ。
「言ったでしょ?私は今の自分になるために本当に苦しんだの。辛かったし、悔しかったし、惨めだったときもあった。いろいろ悩んで迷って手探りで歩いてきた。それは私だけに言えることじゃなくて、環境に適応しようともがく命の全てにいえること。そして、これから今いる場所から外れようとする命にもいえること――私が今ある環境を捨てて違う道を行こうとするってことは、もう一度今の自分をそれに合わせて変えていかなくちゃいけないわけで、また新しい環境に適応した自分になるまで苦しみ続けなくちゃいけないことになるの。ようやく・・・前に比べてましだと思えるようになれたのに、ね?でも、だからと言って夢を追いかける道を選ばなかったら、それを思って私は苦しむはずだわ。だって、私にとって夢は捨てられない思いなんだから。いつまでたっても、きっとこれからだってずっと私の心にあり続ける思いなんだから――」
「だから・・・どちらをッ、選んでも苦しむッ!!」
鼻をつままれてくぐもった声音の男が嗚咽を堪えるように言葉を搾り出す。
「なぁ~んで、あなたが泣くかなぁ。」
太郎の頬を滑り落ちていくものはけして雨だけではない。その証拠に鼻から頬に移した指先にあたる雫は雨粒のそれとは違い温かで、男は静かに泣いていた。
藍那はふと先ほど自身の部屋で見た、雨粒が窓を滑り落ちていく情景を思い出した。
『静かに・・・泣いている人は確かにいた――』
目の前の男を見て藍那の目じりがふっとやわらぐ。そして
「ッ!?」
下からすくいあげるように太郎をそっと抱きしめた。強張る体を背中をポンポンッと慰撫するように叩けば、男は藍那の肩口に顔をうずめる。
「藍那、さん。」
「ん~?」
「人が自ら命を立つときはどんなときなんでしょう?」
「はぁ~?」
くぐもった言葉はあまりにも突拍子もないもので、藍那の眉間に皺がよる。と、同時に男の腕が彼女の服の裾をギュッと皺ができるほど強く掴んだ。
「それは悲しみにくれているとき?孤独にさいなまれているとき?それとも未来に絶望したとき?俺にはわかりません。わからない・・・でも、あなたがいうように環境に適応することが苦しくて辛いものだというのなら、その痛みに耐えられなかった命はどうなるのでしょう?適応すること事態諦めてしまったようにみえる命は?適応できなくて苦しみ続けることは命を絶つ理由になりえるのでしょうか?」
藍那は肩口にはらはらと降り注ぐ雫を感じながら、強張る男の背中をゆっくりと撫でた。それはまるで泣きじゃくる幼子をあやす母親のような仕草だった。
「あのねぇ、言っておくけど生物の生存本能って強いものなのよ?だから生まれたばかりの鉱物しかない地球から、ここまで多様な種ができあがったわけで、生き物はいつだって環境に適応してきたし、適応しようとしてきた。でもね?体の構造はそう簡単に変えられないから、多くの命がその過程で失われたってわけ。わかる?」
「・・・はい。」
「あなたは環境に適応できない命はどうなるかって聞くけれど、私はそんな命はないと思う。だってあなたが言っているのは物質に縛られている体の話じゃなくて、それに影響されない心の話でしょう?心は確固たる形がないからこそ不安定で、もろくて、でも、だからこそすぐにでも変化させることができるもので。そう考えれば、環境の変化ごとき対応できないはずがないとは思わない?」
そう言って悪戯っぽく笑う彼女の表情を太郎は見ることができなかった。が、彼の体からふっと力が抜けたのを藍那は感じた。
「もし環境が変わって、それでも心を変えることができない人がいるのなら、それはその人自身が新しい環境に適応する気がないだけだと思うけど?」
「え?」
「だからぁ~、心を変える気がないってこと!!もちろんそれがどうしてかなんて分からないわ。もしかしたら、心を変えることで傷つく自分が嫌なのかもしれないし、変わってしまう他者の目が怖いのかもしれない。それとも変わってしまう自分自身が許せないのかしら?って、言っても実際のところは無意識のうちに変わることを恐れているのかもしれないし、理由なんてよく分からないっていうのが私の本音。でもね?それはそれでありだと私は思う。自分が適応できなくてもいいって言うなら、それは個人の自由でしょ?ただ、集団の中で生きていくには少し生きにくいかなって思うだけで、本人が気にしないなら回りがとやかく言う問題じゃないもの。そんなことが命を絶つ理由になるとは思わないし、思いたくない。人はもろくて、弱くて、でももっと強いものだって、思いたいじゃない。」
彼女は晴れやかに笑うと、すっかり強張りの解けている男の体をおし戻し、あらわになった目元をごしごしと袖で拭った。びしょびしょの服ではそれすら意味のない行動のようにも思えるのだが、どうしてだろう?その仕草が男の抱えているもの全てを一緒に拭い去ったように見えるのは。
藍那が太郎の目元から腕をそっと離したとき、ゆっくりと目を開けた男の瞳に涙の後は見られなかった。それがどうしようもなく嬉しくて、
「うんっ!そっちのほうがずっと男前よ!!」
と彼女は男の胸を拳で軽くポンッと叩いて笑った。が、離れていこうとする手を太郎は両手でギュッと握り締めるとまるで祈りでもささげるかのようにそれを胸へと抱き込んだ。
驚きに見開く藍那の瞳に移る男の顔は真剣そのものだった。
「俺がこんなこというのはおこがましいかもしれませんけど・・・大丈夫、ですか?」
「は?なにが?」
「だから、藍那さんが出した答えですよ!!答え!あなたはどちらの未来を選んでも苦しむんだって答えをだしたんでしょう!?」
「まぁ、そういうことになるのかな?でもそれがなんだっていうの?」
そういって小首をかしげた藍那の表情は普段の彼女と何一つ違っているところがなく、力の込められていた男の手からすっとそれが抜けた。
「はぁ・・・・・・大丈夫そうでなによりです。」
「はぁ?だから何がっ!?」
グッと詰め寄った藍那の表情に真剣そのものだった男の眼差しが柔らかなものへと変わる。そして―
「ッ!?」
そっと背中に回された手が彼女をやんわりと囲い込んだ。
「俺はね?思ったんですよ。もし本当にあなたの選ぶ未来のどちらともが藍那さんに苦しみを与えるものなのなら、その事実を突きつけられたあなたは悲しんでいないのかなって。未来に絶望していないのかなって。だってそうでしょう?これから苦しみがまっていることを知って喜ぶ人なんてそうそういるものでもないし、普通なら生きることが嫌になっても不思議じゃないはずだ。だから心配だったんです。藍那さんは答えをだすことができたかもしれないけれど、それによってもっと苦しくなったんじゃないかって。それこそ絶望にも似た諦観を抱かずにはいられないんじゃなかって、ね?」
男は藍那の頭を自身の肩にやんわりと押し付けるように撫でる。雨音に混じって届く声は相変わらず柔らかなテノールで、その声音を聞くだけで冷えた体がほんのりと温かくなるような気がした。
「心配・・・してくれたんだ?」
「心配されるのは嫌でしたか?」
「ううん、そんなことない。そんなことはないけど・・・ここ数時間あなたのしりぬぐいばかりやっていた私に言わせてもらえれば本当におこがましい話だと思ってね?私の心配をするなんて十年早いのよ。」
「あ、ひどいなぁ。それって俺が頼りないってことですか?」
「それ以外なにかある?警官に捕まりそうになって、へんなやからに追いかけられて、挙句の果てに大泣きした男はどこのどいつかしら?」
「・・・俺、ですね。」
「そうでしょう?」
クスクスと笑う藍那にあわせて触れ合った肌から微かな振動が二人に伝わる。それは他人同士を結ぶ小さな繋がりで、例えそれが彼女の気のせいだったとしても、藍那はほんの少しだけ男のことが分かったような気がした。
「ありがとう――心配してくれて。でも、私は大丈夫よ。」
「本当に?強がりじゃなく?」
「もちろん!!だって苦しいって気持ちは絶望に繋がってなんていないもの。」
藍那は自身の髪をすり抜けていく優しい指の感触に逆らうことなく体の力を抜いて男の肩口にそっと体重をかけた。
「人間忍耐力ってものがあるんだからちょっとやそっとの苦しみなんて耐えられるのが普通なの。というか、それに耐えられないなんてどれだけ甘やかされて生きてきたんだって話でしょう?だから苦しみと悲しみが絶望に繋がるとは思えない。」
「はぁ、そうですか?」
「ムッ!?その顔は私の言ったこと信じてないって感じね。失礼しちゃう!!」
「だ、だって、苦しみから解放されたいからこそ死を選ぶんじゃないんですか?悲しみから逃れたいから――」
「死を選ぶ?私はそうは思わない。人が死を選ぶのは不安だからよ。いつまでこの苦しみが続くのか分からない。いつになったら悲しみから開放されるか分からない。みんな苦しいことが辛いわけじゃなくて、それがいつまで続くかわからないことに耐えられないの。いつまで耐え続ければいいのか分からないから辛いのよ。不安が人の心に絶望を呼び込むってわけ。わかる?」
「不安、ですか・・・」
「そう、不安。そういった意味では私は大丈夫。だって、私には今まで生きてきた経験があるもん。これから来るだろう苦しみが永続的に続くものじゃないことを知っているし、常に苦しみ続けるものでもないってことも分かってる。それに、どうしても耐えられなくなったのなら自分で未来を切り開いていくだけの金銭的余裕だって、知識だってある。ほらね?これのどこに絶望する要素があるの?確かに少し心もとないと思うことはあるけど、絶望するまでにはいたらないでしょ?」
そう言って藍那はコロコロと鈴がなるように笑った。その声音は雨粒が地面に当たってはじけるような軽やかさを持っているもので、
「あぁ・・・そうか――」
「へ?」
太郎はまるでまぶしいものでも見るかのように目を細めた。
「ずっと不思議だったんです。なんでたった数時間前にしりあったばかりの人とこんなにも気がねなく話すことができるのかなって。まるでずっと昔から知っていたような気安さを感じることができるのかなって。なんで思わず手を伸ばしてしまうんだろうって――そんなことを考えていました。でも、苦しい未来なんてどうってことないっていうように笑うあなたを見て分かったんです。藍那さん。」
「はいっ!!」
男に呼びかけられて藍那はピンッと背筋を伸ばした。それを見て太郎の顔に小さな笑みが浮かぶ。
「こんなことを言うと失礼かもしれませんけど、あなたは似ているんです。その真っ直ぐな瞳も、自分の心に素直なところも、そして何よりあなた自身にしか表現できない世界を持っているところも、よく似ているんだ。」
「似ている?誰と?」
小首をかしげた藍那の頭に太郎はもう一度手を伸ばす。
「それは、俺の――ッ!?」
と、言いかけた男の顔から笑みが消え、その代わりにギュッと眉間に皺がよった。慌てて藍那が後ろを振り返ればこちらに向かって走っている人影が2つ。遠めに見える背格好からそれが先ほどまいたと思っていた怪しい二人組みであることが想像できた。
「本当にしつこい奴ら!!もういい大人何だから人のこと追い掛け回している暇があるならもっと別のことに労力使えっつーの!!ほら、いくわよ!!」
藍那はパッと男の手をとると勢いよく駆け出した。が、
「――ッ!?」
男は両足に力を入れることでそれを踏みとどまる。彼女を見つめる太郎の瞳は穏やかだった。
「藍那さん、俺ね?結局探している答えはまだ見つからないままなんですけど、それでもあなたと会って、あなたと話して、あなたの世界に触れて、思ったことがあるんです。」
「え?」
「あの子は可哀相な子なんかじゃなかった。例え誰がなんと言おうと俺はそれを信じなくちゃいけないです。だって、俺はあの子の“先生”なんだから――」