僕と傘と 終編
目が爛々と輝いている。
それは好奇心から来る物で、まるで子供のようにそこに飛び込みたい感覚に包まれているらしい。
付喪神として長く生きていようが、新しい物には惹かれざるをえないらしい。
ここが何処か?
「遊園地と言うのです。その名に違わず、心の底から遊ぶ為にある場所なのです」
「へーぇ、そんな所もあるのね~」
「うわー、うわー! うわーっ!」
「……滅茶苦茶楽しみみたいね……」
「そうみたい」
と言うわけで、大人一人と子供二人で遊園地に入場しましたとさ。勿論、どうせなのでと一日遊び放題で。さらば諭吉。
二人の普段着は目立つので、あまり目立たないものの可愛らしさを強調出来る服を選んでみた。
とは言え、ぬえの羽ばかりはどうにもならない。そこで予め服をぬえに見せ、正体不明の種を利用して姿を変えて貰っている。
今のぬえの姿は、特徴的な羽の無いごく普通の少女に見える。僕にそう見えるなら大丈夫だろう。ついでとばかりに、小傘も髪と目の色を変えてもらっているので多分大丈夫……かな?
「入場です」
「わーい!」
「元気だコト……」
小傘、スカートなんだから少し落ち着こう。
とにかく、今日は好きなだけ遊んでもらおうと思う。もちろん僕とぬえも付き添うけども。
「上手く行くかな?」
「上手く行かなかったら、一対一でちゃんと説得してみるよ」
それでもまぁ、今日が思い出の日になれば良いなとは思うケド。
「小傘、あんまり離れないでよー」
「ぬえちゃん! こっちこっちー!」
「聞いちゃいねぇ……」
「まあまあ、行こうよ」
「……ふん」
小傘に呼ばれて嬉しいのだろうか、僕に言われた事が不愉快なのだろうか。あまり嫌ってもらいたくは無いのだが……
(少女移動中)
「これは何?」
「馬の人形が沢山並んで、くるくる回ってるけど」
「メリーゴーランド、別名回転木馬と言います」
「乗る?」
「乗るー!」
両手で万歳しながら言うんだから可愛いもんだ。
「はいはい乗るのね。よっこいせ」
「こらこら、柵を跨いで越さない」
「んぇ?」
「こういうのはちゃんと順番待ちするんだ」
「めんどー」
「人間の世界では常識です」
「仕方ないよー」
「チッ」
可愛いけど可愛くないぬえ。まぁ、生意気ってだけかもしれないけど。 まぁそう言うのは無しにして、乗ろうか。
【順番待ち中】
「マジですか」
「はい。ですから、一人だけ入るかまた待つかどちらか決めて下さい」
幸先が悪い。どうやら人数の関係で、一人しか空きが無い状態になってしまったようだ。
流石に一つの馬に複数人は辛い物があるので、ほんの少し立ち往生。
「あ、じゃああたしが先に行くよ」
と、ぬえがスルリと入って行った。
「あれ、ぬえちゃん?」
「二人で楽しみなよ~。先に堪能してるから」
「……まぁ良いか。お先にどうぞ~」
【少女堪能中】
「うん、ありゃカップルか子供が楽しむもんだわ」
「子供なら居るけどね」
「ん?」
「ま、行ってこい」
出て来るなり僕達の後ろに現れ、グイグイ押してくる。 いや、出口と入口は完全に反対側だよね? 普通おかしいよね?
「正体不明なめんなよ」
……納得出来なくも無いのが嫌だ。
「リド~、はやく行こうよ!」
「はいはい、お供しますお姫様」
「言ってこい、おばカップル」
なんか腹立つな……
とりあえず指定された所にどっこいしょと乗る。小傘は丁度隣の位置になった。
「楽しみだな~、楽しいかな~!」
小傘は心底楽しみらしい。
これでも僕より年上のハズなんだけどなぁ~と思うが、知らない世界の技術にワクワクする気持ちは理解出来なくはない。
仮に僕が幻想郷に行ったらワクワクするだろう。行かないけどね。
「っとと」
考え事をしていたらもうアナウンスが流れていて、機械の馬が動き出していた。
もうこういった物に喜べるような年齢では無いけど、子供が無邪気に楽しんでいる様を見るのは気持ちが良い。
「あはは! あははははは~!」
……丁度、隣にお子様が居る事だし。 よくよく周りを見渡すと、親子連れ……は居らず、どちらかというよりカップルが目立つ気がする。一目もはばからずにイチャイチャしていたら嫌だけど、別にそんか事は無し。健全だ。
「となると、親子連れって僕だけなのか」
「何か言った~?」
「別に」
でも、僕より年上の子供です。
【幕間】
「どうだった?」
「物凄く楽しんでた。話しかけるのも無粋な気がする程度にね」
「良いね。これなら満足してくれるかも」
「そうだね~」
とりあえず、ぬえと次はどうしようか相談。小傘はさっきのメリーゴーランドをまだ見ている。
ジェットコースターの類が目立つけど……まだ絶叫系をやるのは早いと思う。何より僕が嫌だ。
「次何にしようか」
「そうだな~……」
今回の思い出作り作戦にあたって、ぬえには一通りのアトラクションを記憶させている。無論乗った事は無いが、どんな乗り物があるかは理解してくれたようだ。
「じゃあ何に乗る?」
「んーと……これ?」
……で、だ。
【ジェットコースター】
にも色々ある。何かのキャラクターみたいなテーマに沿った物とか、速さや高さを追求した物。後は吊られたりとか何とかで足が浮いた状態だったりと特異性のある物。
今回はスタンダードな物……というか、とにかく単純に高い、速い、怖いの三拍子の物をチョイス。
「ほらほら、行くよリドー!」
「は、はい……」
……されてしまった。
僕はこういう絶叫系が大の苦手だ。泣きそうになる。
「あたしは待ってるよー。なんか怖そうだし」
「うっ裏切り者!」
「ハッハッハ! 何とでも言え!」
こっこいつ……! 後で仕返ししてやらねばっ……
「よーし、れっつご~!」
「ガンバレー」
「物凄い棒読みですね……」
とはいえ、流石に人気なアトラクションらしく。大分長いこと並ぶ事になりそうだ。
「これ途中で喉渇きそうだなぁ」
「そうかな?」
「うん。ぬえ、代わりに並んでてくれないかな。飲み物買ってくるよ」
「はいはいー」
あわよくば、ここでわざと遅れてぬえに楽しんでもらおうかな……なんて考えた所、そのぬえに耳打ち。
「帰ってこなかったら小傘を幻想郷に返した後に頭から食べてやるヨ」
……普通にお茶買って戻ってきました。
【搭乗】
「おお、おおお……」
「た、高い高い……」
「きゃー!」
「ひぇええええ!?」
「わーいっ!」
「ぎゃああああ!?」
「やっほーい!」
「う、うぐぅ……」
「たっのしかった~! もう一回乗ろうよもう一回!」
「は、はい……お供します……」
何故だろう、この笑顔の前には断れない。
「がんばりなよ~」
くそう、一矢報いてやる。
「そ、そうだ……ぬえも乗りません?」
「え?」
「あ、良いね良いね! 一緒に行こう!」
「わ、私は……」
「せっかくなんですし、何でも体験するのは悪くないですよ」
「うぐっ……」
ふははは、逃がすものかー! と悪魔の声的な何かで心の中で喋った。自己満足です。
「ね、良いでしょ?」
「……うっ……」
「やっほ~!」
「うぎゃあああああ!」
「いやああぁぁぁぁ……」
ジェットコースター、タノシイデスネ。
【お化け屋敷】
最近のお化け屋敷は力が入っているとはよく聞く。確かにリアルに作られて、あまりの恐怖に気絶してしまった人も居たりしてしまう物もあるとか。実際、この遊園地のお化け屋敷も『心臓の弱い方は入場をお断りさせて頂きます』との看板が。
しかしまぁ、二人は本家妖怪だ。作り物なんかにビビるとは……
「キシャアアアアア!」
「ひぎゃああああん!?」
「ぴゃああああああ!?」
思ってました。というか、二人の声の方が驚いたよ。
「こ、怖いよ~!?」
「ちょ、抱きつかないで下さいよ!」
「やだやだ、やだやだや~だ~!」
なにこれしあわせ。
「ナ、ナメてかかってた……小傘で耐性ついたと思ってたのに」
「小傘の奇襲で驚きました?」
「……そういやあんまり驚いてないかもね」
「じゃあ耐性なんて付かないと思いますよ……」
小傘は人を驚かすのが苦手なハズだ。能力もほぼ廃れてるらしいし……
「は、はやくでようよ~……」
「ぬえ、早足で行きましょうか」
「イヤ。こうやって怖いの楽しむモンでしょうに……」
そうこうしていたら、頭上から逆さの首が!
「ぴゃあああああん!?」
「ギャアアアアア!?」
「……二人の声に驚いた」
「あ、なんか満たされた……」
小傘のご飯提供に多少貢献しました。まる。
【問:楽しめましたか?】
「は~い!」
「それは良かった」
「うんうん、提案した甲斐があったよ」
提案したの僕ですよね? あ、でも伝えたのは一応ぬえだから合ってるのか……?
現在観覧車。今はもう夕日が照る時間帯で、思い出を振り返っている状態です。
結局あの後もアドベンチャー物の施設やサーキットのような何かやジェットコースターに連れられ、
ジェットコースターで楽しんだりジェットコースターにずっと並んだりジェットコースターで気絶してしまったり……
「ジェットコースターそんなに楽しかった?」
「うん!」
「ヨカッタネ」
「ソウダネ」
おかげでぬえと僕は完全に生気が抜けてしまった。何故だか親近感……
とりあえず小傘に休憩と伝えてぬえと隣同士に座り、疲れきっている風を装ってぬえと耳打ち。
「じゃ、後はあたしが言いくるめるよ」
「お願いしま~す」
「なぁに、任せなさいな。こういうのは得意中の得意だからねだ~か~ら……」
いきなりニヤーッと笑うぬえ。嫌な予感。
「ちょいと寝てなッ」
見事なボディを決められ、たまらずダウン。いや、体勢は全く変わらないんだけど。
「こ~が~さ~、ちょっと相談があるんだけどサ!」
「なぁに~?」
「あのさ~……」
その後、あまり身体的に強いとは言えない僕はしっかり溜まっていた疲れと痛みの相乗効果で眠ってしまったらしい。その直後の会話を聞く事は出来なかった。
起きた時には乗っている観覧車は既に一周しており、もう降りる直前だったのはちょっと参った。景色を楽しむ余裕が無かった……ってのは二の次。ぬえに事の経過を聞くとオーケーのサインが出たので、きっと大丈夫だったのだろうと楽観視する事にした。信頼しなきゃぁ始まらないさ。
「じゃあ出ようか。遊園地」
「あれ、もう出ちゃうの?」
「夕方近いし、そろそろ閉まっちゃうし」
「仕方ないか~」
もっと居たかったなと言う小傘だが、出る時はしぶる様子も無く出てくれた。
この後は電車に乗って岐路に着き、道を歩く。どうにも電車が途中で遅れてしまったりと途中にトラブルが続き、すっかり暗くなってしまった。
「月が綺麗だなぁ」
「空が晴れましたから」
「満月だったら嬉しかったんだけどね」
「生憎と半月だけど」
「そだねぇ」
月には兎は居なかった。テレビとかを見ていると、そういう話題が入ってくる物だ。
しかしながら、幻想郷の月には都がある。という事は、幻想郷から見る月は現代の月とは違うのだろうか。
「それにしても暗いね。何でこんな所通るのさ?」
「電灯さんがいくつか仕事してないからです」
「……本当だ、あれ消えてる」
そのうち交換してくれたら嬉しいんですけど……あ、そういえば。
「ああ、あの消えてる奴の次の電灯の辺りに小傘が居たんですよ」
「あら、そうなのですか?」
「そうそう、丁度あそこでうずくまってひもじいって言って……」
「…………こんばんは」
「……えっと」
あの、何用ですか紫さん。
「あの二人は送り返したわ」
「ちょ、いきなりですか?」
「勿論、貴方が寝ている間に三人で相談しましたわ」
「そ、そーなのかー……」
見事にびっくりさせられましたよ、ええ。
「にしても。何で今ここで、なおかつ突然?」
「理由を語る必要は無いと思います」
「いや……」
せめてお別れ位言いたかったなと。
「彼女達は別れを惜しむような感覚では無いのですよ。特に片方、大きな別れを経験しているので貴方との別れ程度では感情を揺さぶられたりはしません」
「……あの」
「その言い方はあんまり、と?」
そりゃそうでしょうに。
「心配しなくても、どうせまた会えますよ」
「え?」
「貴方が忘れなければ」
「……えぇ?」
「では失礼します。私も忙しいので」
謎だけ残して行ってしまわれた。結局、その姿を視界に収める事はついに無かったのが少し残念。振り返れば良かった……
「……まぁ、帰りますか」
ちょっと寂しくなったけど。
あれ、一応後日談もあるんだ?