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僕と傘と  作者: 空椿
2/5

僕と傘と 中編

 傘を着せ替え人形にするような趣味は僕には無い。無いが、その傘が可愛いなら服に気を使うのは仕方がないと思うんだ。そんな言い訳のような戯言を頭に浮かべつつ、小傘の服を調達する為に街にくりだしている。

 小傘の容姿は目立つので家でゆっくりしてもらい、服を選ぶ時は身長と体系を口頭で説明して店員さん任せとなる。何も言わずに少女の服を購入するとどんな事を思われるのか、想像なんてしたくはない。


 服を何とかした辺りで冷蔵庫の中身が無くなってきたのを思い出し、足の進む方向を変える。今は荷物が多いから、カップ麺をいくつか買って明日辺りにまとめて買おうか……

 で、カップ麺ついでに蜜柑を購入してやっと帰る。出迎えは無かったけど、テレビを興味津々で見ている姿が見えたのでまあ良しとする。


「ただいま」


「おかえりー」


 これだけを見たら居候か、それとも兄妹に見えるのだろうか。居候は間違ってないけどさ。


「とりあえず、いくつか目立たない服を買ってきました」


「可愛い服が良かった~」


「自重して下さい」


 可愛い服は目立つんだぞ。


「……は良いとして、ご飯にしましょう。今日はカップ焼きそば」


「カップ焼きそば?」


「見れば分かるかな?」





(三分)





「美味しい!」


「最近カップ麺ばっかりかもなぁ」


 まあ、小傘が幸せそうなので良し。こればっかり。


「ねぇリド」


「何ですか?」


 やっぱりリトとは呼んで貰えないのね……


「リドは幻想郷に行きたいと思う?」


「また困った質問を……」


 む、意地悪な質問してきたね?


「まぁ、行ってみたいのは事実ですかね」


「ふーん?」


「ただ、あくまで旅行のような感覚で。永住とかは勘弁したいです」


 幻想郷生活も良いかもしれないけど、現代の生活を捨てるのはちょっと……捨てる物が大きすぎるかなと。


「逆に聞くけど、小傘はこの世界で暮らしたいの?」


「む、意地悪な質問してきたね?」


「小傘が僕にしてきた質問と一緒です」


 しかし、全く同じ反応をするとは……


「私は~……」


 おや、言葉に詰まった?


「私はあんまり幻想郷で知り合いとか居ないし……良いかも?」


「マジですか」


「マジです」


 これはどう返答すれば良いのだろうか。


「ぬえちゃんもこっちに来るならリドと三人で暮らすとか?」


「ブハッ!?」


 お茶ェ……


「わっ!? びっくりした……」


「ゲホッゲホッ……」


 はいはい、落ち着け落ち着け。滅茶苦茶動揺したけど落ち着け。


「ぼ、僕も含まれるんですか?」


「だってこっちにはリド以外に知り合い居ないもん。決定でしょ?」


「確定ですか!?」


「うん」


 真顔ですと……


「ま、まぁぬえまで外の世界に来るとかは無いんじゃ……」


 フラグじゃないですよ?


「う~ん……」


「どの道預かってるに過ぎない状態ですし、何か沙汰があったら大人しく帰るように……」


「だね~」


 既に賢者のお知らせは来てるんですが……

 あの手紙については、結局話さず終いで進んでいる。どの道此方側は小傘を預かる位しか出来ないので、八雲紫及び式の八雲藍の連絡待ちが続く。

 まぁ、連絡が来るまでは好き勝手に遊んだりしよう。時間が有る限りは。


「さて、今日は何しようかな」


「リドリド~」


「はい」


「これ何?」


 ハイ、東方星蓮船です本当にありがとう御座いました。

 どうしよう、これは言ってしまって構わないのか? 実は幻想郷は此方ではゲームの云々とか、そのゲームに君が出てますよとか言って大丈夫なのだろうか?

 マズい、小傘が首を傾げている。早いこと結論を出さないと……って、おや?


「スミマセン、少し失礼」


 僕は小傘から背を向け、一直線にテーブルへ。小傘も好奇心からか、すぐさま付いて来た。

 スイと手を伸ばした先には一通の手紙。『八雲藍』と書かれたそれを開封し、一応小傘に見せないようにしつつ読む。読みやすく美しい字ではあるけども、急いで書いたのかやや走り書きだ。

 要約すると以下の通りの内容になる。


『突然で済まない。幻想郷に関連したゲームに関してだが、出来るだけはぐらかして頂きたいとの主人の伝言だ。万が一多々良小傘に見付かっても上手くかわしてくれ。よろしく頼む』


 もう見つかっちゃいましたよ……

 と、こちらもまた裏に少し続きがあるようだ。


『追伸。この手紙は開封してから一分で自』


 燃えた。またか……という気持ちはあったが、今回もやはり被害は出なかったのでそこは良しとしよう。主従揃って発火がお好きなようで。


「……今のは?」


「八雲さんからお手紙です」


 ウソジャナイヨー、式神の方だとは言わないだけ。


「まあ、小傘の事を出来るだけ口外したりしないように。みたいな感じかな」


「本当に?」


「僕は嘘つきな人間です」


「それ嘘でしょ」


「……さて、どちらでしょう?」


「え? えっと、えっと……」


 意識をそらせた……っぽい? 藍さん、これで大丈夫でしょうか。

 さて、これからどうしようか。一応フード付きのパーカーとかも買ってあるし、そろそろ外に行ってみても良いかもしれない。街にくりだしてのんびり歩きまわるも良し、電車に乗ってぶらり観光旅なんかも良し。まあさっきの通り、時間はあるから


「分かった! 嘘だ!」


 …………ほっこり。


「な、なによその目~!」


「なんでも」


「もう! リドの意地悪~」


「リトだけどね」


「でもリドの方が可愛くない?」


「可愛いなら仕方ない」


 こんな状態ですが、一応充実はしてるのでした、句点。





(幕間)





 で、結局近場をぶらっとする事になったとさ。

 小傘の服装だけど、まあごく普通のパーカーにズボンの組み合わせ。一応フードは被らせ、意味は無いかもしれないけど伊達メガネを装備。まだ寒い時期なので重ね着はさせているけど、それでも寒い時を一応警戒してコートを持ってきている。勿論、かさばるので鞄に突っ込んであるけど。

 僕の服装? 言わなくてもいいと思うよ。ごくごくありふれてるから。


「さて、どっちに行こうかな」


「右!」


「では左に」


「なんで!?」


「嘘です。右に行こうか」


 適当にだべりながら進むのもまた楽しいと思う。小傘は楽しんでいるのか?


「あれ何?」


 あ、終わり無き質問攻めが始まる予感。


「自動車。機械の力で動く箱です」


「キカイって、河童が時々爆発させてる……」


「何やってんですか河童さん……」


 にとりもやっぱり芸術してるんでしょうかね、派手にドカンと。


「あ、そういえば最近何か作ってたよ。自慢気に話してたけど……」


「ほう、詳しく」


 そういえば、こっちにくる前の話は聞き忘れてた。これは現代入りの詳しい原因なんかが分かるかも?


「説明が難しくて分かんなかったよ。なんか結界がどうとか……」


 あ、なんか厄介事の予感。


「そしたら急にウィーン、ピカッ、ドカーン! って感じで……」


 ジェスチャーが子供のようだったのは置いといて、原因究明どころか判明してしまったような……


「それ、河童の機械が原因でこっち来ちゃったって事?」


「…………そうかも?」


 謎の解明が凄くあっさりとしてて、むしろつまらなかったよ……


「まあ、分かった所でどうしようもないんですけどね」


「そうだよねー」


 どの道こちら側から向こうに干渉する方法は無いし、一時の話題として盛り上がっただけでも良しとしてしまおう。


「さて次の分かれ道が来たわけですが」


「真っ直ぐ行きたいな」


「では信号待ちです」


「信号待ち?」


「アレが青く光ったら進んで良いんですよ」


「え? あれ光るの?」


「もう光ってるというか」


 多分、小傘の考えてる『光る』は信号機全体がピカッなんだろうなぁ……


「まだかなー?」


「そろそろかと」


 ピカッとな。


「…………行くよ?」


「…………地味~」


 やっぱりそうだったか。残念でしたね……





(幕間)





 別に遊園地みたいな所があったりするわけでは無いので、適当に歩いただけで今日は帰路に。夕日が眩しい時間帯になってしまったけど、横の天使に癒されたので疲れは感じなかったかも。でも財布の中の樋口一葉さんが一人居なくなってしまった位に浪費してしまった。ファミレスに行った結果がこれだよ!


「……ハンバーグ美味しかったですか?」


「うん!」


 そう、樋口さんの半分はハンバーグに消えたのです。小傘が食べ過ぎなのもあるけど、何より値段が高かったのが原因かもしれない。


「あ、あれ何?」


「はい、飛行機です」


「あれもキカイ?」


「機械の力で空を飛んでるのですよ」


「へぇ~」


 幻想郷じゃ飛べるのが普通だもんね、妖怪の場合。


「空を飛ぶってどんな感じですか?」


「う~ん、飛べて普通って感じだからわかんない」


「僕からしてみてば普通の法則が乱れるんだけども」


「そっか、リドは人間だもんね」


「人間イコール飛べないとしたら霊夢も飛べませんが」


「あ、そっか」


 十分人間やめてると思うんですがね。


「まぁ機械については河童に聞くなりなんなり……」


「そーするー」


 いつの間にやら家の前。自宅の鍵を取り出しつつ今日を振り返る。

 まだ数日だか、割と順調にやれていると思う。このまま厄介な事など起こらずに、小傘の期間までゆっくり出来れば良いなと考えつつ、扉を開いた。


「こんにちは」


 閉じた。


「ちょ!?」


「あれ? 今の……」


 中から聞こえて来た声はさておき、さっさと心臓を落ち着かせる。

 覚悟は出来たのでもう一度。扉を開き、何かを言わせる前に言葉を繰り出した。


「何でここに居るんですか、封獣ぬえ……」


「仕切り直すなよ!」


 いえ、そんな事を言われても……







 え、ここで区切るの?

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