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掌編小説

祖父の死

作者: 斎藤康介

 3限目の体育の時間中、突然校内放送で担任に呼び出された。

 クラスメートが何事かとこっちをみてくるが、自分に一番覚えがない。

 取りあえず急ぎの用らしいので小走りで職員室に向かった。

 下駄箱で靴を外靴を脱ぎ、上履きに履き替える。

 下駄箱から廊下をまっすぐ進んだ先の2階に職員室がある。


 休憩時間にはあれほど人が溢れかえる廊下も、いまは授業中のため誰もいない。

 人の居ない廊下という場所は独特の雰囲気がある。

 教室から聴こえるに声に、意味もなく羞恥を感じた。



「お祖父(じい)さんが亡くなったらしい。先ほどお母さんから連絡があった」

 今から迎えに来るから、校門で待ってろ。

 それと最後に気を落とさないようにとのことだった。



 一人教室に戻り、着替える。

 携帯を見たら、母親からの着信があった。

 もう少しで3時限目の授業が終わる。

 何となく誰とも顔を合わせたくなかったから急いで校門に向かった。



 祖父が死んだことに何の感慨もない。

 いつ死んでもおかしくない状態だったし、そして何より祖父との思い出がなかった。

 思い浮かぶ光景は、いつも窓際の椅子に座り、静かにテレビを見ていたことくらいだ。

 いつもと言っても盆と正月くらいしか合わなかったから本当は違うかもしれないが、それ以外の祖父の姿などは思い浮かばない。



 下駄箱を出たところでまだ授業をしているクラスメートと目があった。

 軽く右手を挙げ、あとは無視した。



 従兄と弟は上手く祖父と付き合っていた。

 従兄は近くに住んでいたこともありよく遊んでいたようだし、弟は上手に甘えられるタイプだった。

 自分一人だけが祖父との間に壁を感じていた。



 校門前で待って15分。

 ようやく母親と助手席に弟を乗せ車で迎えに来た。

 二人ともちゃんと黒い服を着ている。

 「俺は?」と尋ねると「そのままでいい」と言われた。

 学校の制服は何にでも潰しがきくのだ。

 そして父親は職場から直接向かうとの話だった。


 父親は自分の父親の死について何を感じているのだろう。

 死ぬのがわかっていることと、実際に死んでしまうことは別だ。

 いつか自分にも分るだろうか?


 授業が終わったのだろう、携帯に「どうした?」とクラスメートからメールが来た。

 しばらくディスプレイを見つめ考えたが、結局返信しないことにした。

 いまはただ()を悲しむ必要があるのだ。


 祖父の家まで車で2時間半。

 まだ昼にすらなっていない。

 

 長い一日だ。


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