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今回読んだ作品は、「死者からの検索履歴、削除しますか? ~デジタル遺品整理室の暗号解読~」

 

 死者からの検索履歴、削除しますか? ~デジタル遺品整理室の暗号解読〜


 まず惹かれたのは、題材の着眼点です。

 故人のスマートフォンやPCに残された検索履歴、パスワード、フォルダ、閲覧記録といった“デジタル遺品”を切り口にして、そこから人の人生や感情を掘り起こしていく。

 この発想自体が現代的で強く、しかも単なるガジェット的な面白さに留まらず、きちんと人間ドラマへ接続されているのが良かったです。

 

 東京・神保町の地下にある看板のない事務所「デジタル・アーカイブス社」で、故人端末の解除と整理を請け負う、という土台からして惹きがあります。


 本作の魅力は、秘密を暴く快感と、暴いた先にある切なさが両立しているところだと思います。

「死人に口なし、データは嘘をつかない」という所長の言葉は非常に強く、読者の興味を引くフレーズであると同時に、この作品全体の倫理観の危うさや緊張感も示しているように感じました。

 単に謎を解くだけではなく、残されたデータを前にして“本当に知ってよかったのか”という感情が立ち上がる余地がある。その温度が、この作品をただのお仕事ミステリーで終わらせていないと思います。


 また、人物配置もとても読みやすいです。

 元ホテルコンシェルジュの新人・石川彩と、無精髭にパーカー姿だがプロファイリングに長けた所長・阿部邦彦という組み合わせは、王道でありながら機能的で、説明役と観察役、常識と異才の対比が自然に生まれています。こうしたバディ的な構図があることで、重くなりがちな題材にも入口ができていて、読者が物語に入りやすくなっているのが上手いと感じました。


 何より良いのは、この作品が“データ”を描きながら、最終的に見ているのは常に“人”であることです。

 検索履歴や隠しフォルダという言葉だけを並べれば刺激的にも扇情的にもできる題材ですが、本作はそこを安易な暴露や悪趣味に寄せず、故人が何を隠し、何を残し、何を伝えられなかったのかへ視線を向けているように思いました。

 第一章が「開かずのフォルダと遺された愛」、第二章が「黒い履歴と白い嘘」と付けられていることからも、この作品が単なる謎解きではなく、感情の層をきちんと意識しているのが伝わってきます。


 個人的には、この作品はミステリーというより、

“記録に触れることで、もういない誰かの心に触れ直す物語”

 として読むと、とても味わい深いです。


 デジタルデータは無機質で冷たいはずなのに、その中にむしろ人間の未整理な感情が残ってしまう。その皮肉と切実さが、この作品のいちばん美味しい部分だと思いました。


 “現代だからこそ成立する物語”でありながら、“誰かが誰かに残せなかった想い”という普遍的なテーマにも届いている。そのバランスがとても魅力的でした。


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