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第二十四話 防衛的建築ラッシュと、名もなき村の誕生

 引きこもり生活二十五日目。


 俺が異世界に来てから、もうすぐ一か月が経とうとしていた。


 一か月。


 その響きに、俺は少しだけ遠い目になる。


 最初は、本当にただ引きこもるだけのつもりだった。


 森の奥にログハウスを建てて、通販で必要なものをそろえて、誰にも邪魔されず、静かに、快適に、現代日本の残り香にすがりながら暮らす。


 それが俺の理想だった。


 だが現実はどうだ。


 畑ができた。


 見張りができた。


 電気が通った。


 冷蔵庫が置かれた。


 ソーラーパネルが太陽を喰らい、センサーライトが夜の森を焼き、防犯カメラが俺の寝床に外の景色を届けてくれるようになった。


 そして何より、人が増えた。


 いや、人というか、住人未満の常連というか、もはや半分住み着いている連中というか。


「だっはははは! 坊や、起きな! 今日も朝からひと勝負しようじゃないか!」

「コウタ。畑の肥料の配分だが、少し相談がある」

「コウタ、おなかすいた。きょうのあさごはん、なに」

「……この漫画の五巻だが、展開が少し急すぎないか?」


 朝の八時。


 俺の愛すべきログハウスのリビングは、完全に“部室”と化していた。


 大斧を背負ったまま、まるで自分の家みたいな顔で上がり込んでくるAランク女戦士。


 土のついた靴をちゃんと玄関で脱いで入ってくる、妙に礼儀正しい狼獣人。


 俺の足元で尻尾を左右に振りながら、冷蔵庫のほうをちらちら見ている小柄な獣人。


 そして、なぜか窓際の椅子に当然のように座り、俺の漫画を読んでいるエルフ。


 全員集合である。


 いや、集合しすぎだろ。


 なんで朝から俺の家がこんなに満席なんだよ。


「お前ら……」


 俺は寝癖のついた頭をかきむしりながら、深いため息をついた。


「自分の家とか、ないわけ?」


 問いかけに、四人はそれぞれ悪びれもせず答えた。


「アタシは麓の宿屋暮らしだけどねぇ。毎日ここまで来るの、地味に面倒でさ。いっそこの森で野宿しようかと思ってたところだよ!」


 ガランが豪快に笑う。


 野宿するくらいなら来るな。


「俺は森のねぐらがある。だが、朝露が乾く前に畑の土を見たい。移動時間が惜しい」


 ロエンが真顔で言う。


 畑への熱量が高すぎる。


「わたし、おうちない。コウタのいえのした、あったかい。でも、あさになるとロエンがきて、うるさい」


 ミリィがむくれた顔でロエンを見る。


「働く時間だからだ」

「うるさい」

「働け」

「やだ」

「食うな」

「それはやだ!」


 朝っぱらから会話が資本主義すぎる。


「私はエルフだ。森そのものが家だ」


 シルフィが本から目も上げずに言った。


「なら森に帰れ」

「ここも森だ」

「屁理屈かよ」


 だめだ。


 誰一人として「じゃあ出ていくか」という発想を持っていない。


 この二十数日で、俺が提供した冷たい麦茶、ジャンクフード、ゲーム、漫画、アイス、ふかふか寝具、センサーライト、防犯カメラなどの文明の利器は、こいつらの生活習慣を完全にハックしてしまっていた。


 嬉しい誤算ではある。


 魔物の襲撃リスクは減った。


 畑は順調だ。


 見張りも、解体も、戦闘もだいぶ盤石になった。


 だが、それと引き換えに俺の“一人の時間”は致命的なまでに削れていた。


 引きこもり生活において、最も重要で、絶対に譲ってはいけないラインがある。


 それは、一人の時間とパーソナルスペースの確保だ。


 誰にも干渉されず、誰の目も気にせず、ただ息をして、好きな時に寝て、好きな時に起きる。


 その絶対的な自由こそが、インドア派の魂の平穏である。


 俺は、その平穏を守るために、このログハウスを建てたはずだった。


「……完全に侵食されてるな」


 俺は冷蔵庫から冷えた麦茶のジャグを取り出し、紙コップに注ぎながら呟く。


 しかも問題は、それだけではなかった。


 俺はテーブルの端に置いていたタブレットを手に取り、《快適生活お取り寄せ》のステータス画面を開く。


 MP残量。


 消費履歴。


 回復速度。


 そして、画面の端に小さく表示された一文。


『初回転移者支援ボーナス:MP回復増加期間 残り五日』


「……あ」


 完全に忘れていた。


 この世界に来た直後、俺の《快適生活お取り寄せ》には、いくつかの初期特典がついていた。


 その中のひとつが、MP回復量の増加。


 いわゆる初心者救済みたいなものだ。


 おかげで俺はこの二十五日間、ログハウスだの、家電だの、ソーラーパネルだの、防犯設備だの、わりと好き放題に買い物ができていた。


 だが、そのボーナス期間は一か月。


 つまり、あと五日ほどで終わる。


「……まずいな」


 ボーナスが切れたからといって、急に通販が使えなくなるわけではない。


 ただし、今までみたいな勢いで大物を買える保証はない。


 MPは今もかなり潤沢にある。


 だが、それは回復ボーナスがあるうちに貯まった余裕だ。


 この先、回復速度が落ちるなら、大きな設備投資は今のうちに済ませた方がいい。


 食料。


 電気。


 水。


 防衛。


 住環境。


 そこまで整えられるものは、整えてしまうべきだ。


 そう。


 これは浪費ではない。


 投資である。


 生活基盤の整備であり、防衛的建築であり、今後の引きこもり生活を守るための先行支出だ。


 俺は自分に言い聞かせる。


 言い聞かせないと、金額ならぬMP額に心が折れそうだったからである。


「よし」


 俺は麦茶を一気に飲み干した。


「お前ら、ちょっと外に出ろ」

「なんだい坊や。今日は外でレースの特訓でもするのかい?」

「違う。ちょっとした工事だ」

「お前の“ちょっとした”は信用できない」


 シルフィが即座に言った。


 失礼な。


 俺もちょっとそう思ってる。


     *


 全員をログハウスの外へ追い出し、俺は空き地の中心に立った。


 目の前には、ソーラーパネル。


 畑。


 センサーライト。


 防犯カメラ。


 冷蔵庫の排熱音がするログハウス。


 すでに森の中の一軒家としては、だいぶやりすぎている。


 だが、ここで止まるわけにはいかない。


 MP回復ボーナスの期限が近い。


 今のうちに大物を買う。


 後悔はあとでする。


 買う前に後悔したら、たぶん何も建たない。


 現在のMPは、まだ十分にある。


 完全オフグリッド化でインフラは安定し、拠点の安全性も上がっている。


 つまり今の俺には、“快適な孤独”を取り戻すための最後の余力がある。


 方法は簡単だった。


 こいつらが俺の家に居座る理由は、俺の家が快適だからだ。


 なら話は早い。


 俺の家以外にも、快適な場所を作ればいい。


 追い出すのではない。


 分散させるのだ。


 我ながら、だいぶ前向きな現実逃避である。


「ぽちっとな」


 俺はあらかじめカートに突っ込んでおいた大型商品を、一気に決済した。


『防音・断熱仕様 快適プレハブ小屋 三畳タイプ』


『木目調 組立式ガーデンハウス』


『グランピング用 大型ベルテント』


『自立式 高級アウトドアハンモック 蚊帳付き』


『屋外用延長コード』


『簡易ベッド』


『収納棚セット』


『防水コンテナ』


『折りたたみテーブル追加分』


 MPが、ごっそり減った。


「うっ……」


 思わず胸を押さえる。


 見なかったことにしたい数字だった。


 だが、その直後。


 ズズズンッ!


 ドスンッ!


 ガシャンッ!


 地面に巨大な青白い魔法陣がいくつも浮かび上がり、ログハウスを建てた時と同じような巨大段ボールの山が、空き地のあちこちに出現した。


「な、なんだい!?」


 ガランが身構える。


「また大物か」


 ロエンが目を細める。


「おっきいはこ! おっきい!」


 ミリィはきゃっきゃと跳ねる。


「……お前の“ちょっとした工事”は、やはり規模感がおかしい」


 シルフィが呆れ顔で言った。


「これは、お前らの城だ」


 俺がそう言った瞬間、全員の動きがぴたりと止まった。


「……城?」


 ガランが聞き返す。


「そう。俺は一人の時間が欲しい。お前らが遊びに来るのはいい。だが、朝から晩まで俺の家に常駐されると息が詰まる」

「常駐……言い方がややひどいな」


 シルフィが眉を寄せる。


「事実だろ」

「……まあ、少しは認める」

「少しか?」

「少しだ」

「毎日いるのに?」

「うるさい」


 よし。


 そこは認めるんだな。


「だから、お前らが自分でくつろげる場所を作る。自分の居場所があれば、少なくとも俺の家の中は空く」

「なるほどねぇ!」


 ガランが腕を組んで頷いた。


「追い出すんじゃなくて、増やす方向に行くのが坊やらしいじゃないか!」

「優しいんだか甘いんだか、自分でもよく分からん」


 俺は一つ目の段ボールの山を指さした。


「まずはガラン。お前のはこれだ」


 説明書を広げ、完成予想図を見せる。


『防音・断熱仕様 快適プレハブ小屋 三畳タイプ』


「麓の宿屋から通うのが面倒なら、ここを使え。鍵もかかるし、延長コードを引いてやれば、中で一人でゲームの特訓もできる」

「なんだとォォォッ!?」


 ガランの顔が一気に輝いた。


「アタシ専用の闘技場! しかも寝られる! しかも箱の中で修行できる! 最高じゃないか!」

「いや、闘技場じゃなくて小屋なんだけど」

「名前なんてどうでもいいよ! 用途がすでに完璧だ!」

「こいつ、思ったより簡単に釣れるな……」


 次に、二つ目の段ボールへ向き直る。


「ロエン、お前はこれだ」


『木目調 組立式ガーデンハウス』


「畑のすぐ横だ。休憩所にもなるし、道具もしまえる。必要なら簡易ベッドも置ける」

「……」

「どうした」

「いや」

「反応薄いな」

「いや、最高だ」


 そう言ったロエンの尻尾は、千切れそうな勢いで左右に振られていた。


 表情筋より尻尾のほうが正直である。


「最後に、ミリィ」

「わたしも!? わたしもあるの!?」


 ミリィがぴょんぴょん飛び跳ねる。


 俺は三つ目の、少し丸みのある箱を叩いた。


『グランピング用 大型ベルテント ふかふかラグマット付き』


「お前はまだ小屋を組み立てるのは無理だろうから、まずはテントだ。風は通しにくいし、中は広いし、床はふかふか」

「ふかふか」

「軒下の寝床の三倍は快適だ」

「ふかふか!」

「語彙が消えたな」


 ミリィは箱に抱きつき、その場で頬ずりを始めた。


 尻尾がもうプロペラである。


 完全に喜んでる。


 さて。


 残るは一人。


 俺が視線を向けると、シルフィは腕を組んだまま、ふいっと顔を逸らした。


「……私は森の民だ。そんな人工的な箱に押し込められる趣味はない」

「だよな。じゃあお前は別に――」

「む」


 あ、今ちょっと不満そうな顔したな。


「まあ、お前には別のやつを用意してる」


 俺は横に置いておいた細長い箱を開け、中身を取り出した。


『自立式 高級アウトドアハンモック 蚊帳付き』


「木に縛らなくても置けるやつだ。ログハウス横の木陰に置いてやる。風を感じながら漫画読めるぞ。虫も来ない」

「……」


 シルフィの目が、ぱあっと輝いた。


 すごく分かりやすかった。


「どうだ」

「……別に、欲しかったわけではない」

「耳が元気だぞ」

「うるさい」

「でも、ちょっと気になるだろ」

「……森の空気を感じながら本を読む、という点は悪くない」

「悪くないどころじゃない顔してるけど」

「お前は本当に腹が立つな」


 そう言いながら、シルフィはすでにハンモックの布地に触れていた。


 チョロい。


 いや、好みに正直と言うべきか。


     *


 そこからの作業は、ほぼ災害復旧レベルの速度だった。


 ガランの異常な腕力。


 ロエンの異様に正確な作業精度。


 ミリィの「何か運びたい!」という小動物じみた機動力。


 シルフィの地味に的確な索敵と位置確認。


 俺が説明書を読み上げるだけで、あとはみるみる組み上がっていく。


「ガラン、その壁パネルは持ち上げるんじゃなくて立てる! 立てるんだ!」

「同じだろう!」

「違う! 怖さが!」

「ロエン、そのボルトどこだ!?」

「もう締めた」

「早いな!」

「必要だった」

「ミリィ、そのネジを口に入れるな!」

「いれてない! においかいでただけ!」

「それもだいぶ危ない!」


 シルフィはハンモックを組み立てる俺の手元を見ながら、ぼそっと言った。


「こうして見ると、お前の家は本当に妙な物が増えるな」

「否定できない」

「しかも、だいたい役に立つ」

「便利だからな」

「そこを自慢げに認めるのが腹立たしい」

「便利なもの出して便利って言ってるだけだぞ、俺」

「その当然みたいな顔が腹立つ」

「理不尽すぎない?」


 三時間後。


「よし! 完成だ!」


 昼過ぎ。


 俺のログハウスの周囲に、新たな構造物がきれいに並んでいた。


 畑の横には、ロエンのガーデンハウス。


 木目調で妙に落ち着いている。


 しかもロエンはすでに簡易棚を作り、鍬やスコップや桶を、まるで展示でもするみたいにきっちり並べていた。


「……動線がいい」

「もう住む気満々じゃん」

「最初からそのつもりだ」

「棚まで作ったのか」

「必要だからな」

「完成して三分だぞ」

「空いていた」

「その“空いていた”時間で棚を生やすな」

「道具の置き場は先に決めた方が早い」

「正論なんだけど、お前だけ時間の使い方が職人なんだよ」


 反対側には、ガランのプレハブ小屋。


 白くて四角くて、森の中でめちゃくちゃ浮いている。


 だが本人はまったく気にしていない。


「おおおっ! なんだいこれ、窓が横に逃げた!」

「開いただけだよ」

「しかも外が四角く見える! 景色って切れるものだったのかい!」

「お前、たまに感動の仕方が赤ん坊みたいになるよな」

「うるさいね! 便利なものは素直に褒める主義なんだよ!」


 俺が延長コードで電源を引き、モニターとゲーム機を中に運び込む。


「……おい、坊や」

「なんだ」

「この小屋、寝られて、雨も防げて、その上で箱の中の戦いまでできるのかい?」

「そうだな」

「だっはははは! 最高じゃないか! 完成だ! ここはもうアタシの闘技場だ!」

「だから部屋だって」

「違うね。寝られる闘技場だ」

「余計ひどくなってるな」

「名前は大事だろう? 今日からここは“ガラン闘技場”だ!」

「勝手に看板まで見えてきたんだけど」


 ログハウス横には、ミリィの大型ベルテント。


 玉ねぎみたいな丸い見た目で、妙にかわいい。


「ふかふかー!!」


 ミリィはラグマットの上を何度も転がり、最後は仰向けのまま手足をばたばたさせた。


「ひろい! あったかい! ふかふか! ここ、ぜんぶわたしの!?」

「そうだよ。気に入ったなら何よりだ」

「じゃあ、ここでねて、ここでたべて、ここでアイスたべていい!?」

「急に生活の最終形を完成させるな。あと、真っ先にアイスを持ち込もうとするんじゃない」

「だって、ふかふかで、あまいの、おいしい!」

「床がべたべたになる未来しか見えないんだよ」


 そして木陰には、シルフィのハンモック。


「……悪くない」


 そう言いながら、彼女はもう半分寝る体勢だった。


「“悪くない”って評価のくつろぎ方じゃないだろ、それ」

「別に。試しているだけだ」

「試すやつは最初から漫画を持ち込まないんだよ」

「必要だからな」

「何にだよ」

「読書に決まっている」

「もう全然隠す気ないじゃん」

「……隠してはいない」

「開き直ったな」

「うるさい。これは、お前の用意した場所が悪い」

「俺のせいなの?」

「静かで、風が通って、本が読みやすい。抗えるわけがないだろう」


 風に揺れるハンモック。


 蚊帳越しに漫画を読むエルフ。


 絵面が妙に完成されていて、なんだか少し悔しい。


     *


 俺は自分のログハウス前にキャンプチェアを出し、冷たいコーラを飲みながら、その光景を眺めた。


 誰も、俺の家の中にいない。


 見事なまでに、全員が自分の城へ収まっている。


 作戦は完璧だった。


 これで俺は再び、ログハウスの中で静かに引きこもることができる。


 ……はず、だった。


「……なんかこれ」


 俺は周囲を見回す。


 プレハブ小屋。


 ガーデンハウス。


 大型ベルテント。


 ハンモック。


 中央にはソーラーパネル付きのログハウス。


 さらに畑とセンサーライト。


「……完全に、村じゃん」


 思わず呟いた。


 引きこもるために家を建て、他人を家の外へ出すために離れを増やした結果、俺は迷いの森の奥深くに小さな集落を形成してしまったのである。


 その時。


「おーい、コウタ!」


 プレハブ小屋の窓がガラッと開き、ガランが顔を出した。


「今日の昼飯は何だい!? この闘技場で食いたいから、何か出前してくれないか!」

「さっそくインフラに依存するな!」


 続いて、ロエンがガーデンハウスから出てくる。


「コウタ。水汲み用の樽をもう一つ置きたい。あと、種芋の追加を申請する」

「申請って何だよ。急に役所みたいなこと言うな」

「必要だ」

「その顔で言われると断りづらいな……」


 ミリィもテントから飛び出してきた。


「コウター! テントのなか、なんかあまいものたべたい! ゆき!」

「アイスのこと雪って呼ぶの定着したな」

「ゆき!」

「語気が強い!」


 最後に、ハンモックからシルフィの声が飛ぶ。


「コウタ」

「なんだ」

「七巻だ」

「略しすぎだろ」

「続きが必要だ」

「本音が雑に漏れてるなあ!」


 俺は、手に持っていた紙コップを危うく握り潰しかけた。


「お前ら……家ができても、結局俺に頼るのかよ……!」


 物理的なパーソナルスペースは守られた。


 ログハウスの中は、確かに俺だけのものになった。


 だが、彼らの生活インフラの根っこは、俺の通販と、俺の家電と、俺の冷蔵庫に繋がっている。


 つまり、要求が消えるわけがない。


 むしろ住まいが独立したぶん、各自の“もっと快適にしたい”が加速している。


「だっはははは! 当たり前だろう!」


 ガランが腹を抱えて笑った。


「アンタはこの村の村長みたいなもんなんだから!」

「そんちょー……」


 ミリィが目をきらきらさせて、その響きを気に入ったみたいに繰り返す。


「……お前が村長、か」


 ロエンが腕を組んだまま、小さく頷いた。


「悪くない」

「お前まで推すのかよ」

「役割としては近い」

「役割で人を村長にするな」


「村長だな」


 シルフィまで涼しい顔で言った。


「最も妙な物を増やし、最も食料を流通させ、最も住民に干渉されている」

「分析が妙に的確で腹立つな!?」


「やめろ。定着させるな」


 だが、四人ともまるでやめる気がない。


「村長ー! 昼飯ー!」

「村長、樽が欲しい」

「そんちょー、ゆき!」

「村長、七巻」


「要求を一斉に飛ばすな! 村役場じゃないんだぞ、ここは!」


「でも、出すんだろう?」


 シルフィがしれっと言う。


「うっ……」

「だっははは! 図星だねぇ!」

「村長、話が早い」

「そんちょー、やさしい!」


「くっ……その呼び方で好感度を稼ぐな!」


 俺は頭を抱えた。


 まさか引きこもりが、異世界で村長呼ばわりされる日が来るとは思わないだろ、普通。


 だが、こいつらの妙に期待した顔を見ると、本気で嫌だと言い切れないのがまた腹立たしい。


「……分かったよ! 今日の昼飯はピザだ! 各自の城までデリバリーしてやるから、少し待ってろ!」

「やったぁ!」

「だっははは! さすが村長、話が早い!」

「村長、水汲み用の樽もそのあとでいい」

「そんちょー、ゆきも!」

「村長、七巻も忘れるな」

「だから村長って呼ぶな!!」


 俺がやけくそ気味に《快適生活お取り寄せ》のウィンドウを開くと、四方から素直すぎる歓声が返ってきた。


 太陽の光が森に降り注ぐ。


 屋根と地面のソーラーパネルが静かに電力を生み、畑の横にはガーデンハウス、反対側にはプレハブ小屋、ログハウスの横にはベルテント、木陰にはハンモックが揺れている。


 ……うん。


 どう見ても村だった。


 規模こそ小さいが、中央に物流と電力を握った拠点があって、その周りに住人の居場所が並んでいるのだ。


 言い逃れはできない。


 一人で静かに暮らすために作った引きこもり城は、気づけば賑やかで、妙に機能的で、どうしようもなく居心地のいい小集落へ進化してしまった。


 俺の理想の孤独なスローライフはほぼ崩壊したが、まあ、各自の城でピザを受け取って嬉しそうにしている連中を見ると、そこまで悪い気分でもないのが悔しい。


「はぁ……」


 深いため息をつきながら、俺は自分の口元が少し緩んでいるのに気づいた。


「……村長は不本意なんだけどな」


 そう呟きつつ、俺は新米村長としての最初の仕事――四か所同時ピザ配送――に取りかかるのだった。

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