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「…………ダリア・ファティールと申します。」
殺害予告ともとれる脅しに
ダリアは観念して名前を告げる。
お父様、お母様、お兄様、ごめんなさい。
ファティール家は断絶するかもしれません。
「ダリア、ね。
この前見た時も可愛いと思ったけど
やっぱりまちがってなかった、可愛いね。」
ニッコリ笑ってリージュ殿下は言った。
この人、きっと誰にでもこんなこと言うから
さっきのご令嬢みたいに
相手を勘違いさせてしまうのでは?
………遊び人だったんだな、我が国の王弟は。
「と、とんでもございません。
………あ、あの、王弟殿下………。」
「リージュ。」
「は?」
「俺の名前、王弟殿下じゃなくてリージュなんだけど。」
「…………そうですね。」
そんなことは知っている、
まぁついさっき知ったばかりだが。
「俺もダリアって呼ぶから
ダリアも俺のことリー………。」
「無理です、王弟殿下。」
「……………………。」
「大変申し訳ございませんが、
待たせている者がいますので………
これにて失礼させていただきます。」
「……
1人じゃないの?」
「?
………えぇ、そうですね。」
もちろんマリーのことだ。
なかなか戻ってこない自分を心配しているかもしれない。
「………へぇ、相手がいるんだ。」
「?」
「まぁ、それならそれでもいいか。
こっちでなんとでもできるから。」
この人、さっきから何を言ってるんだろう?
まさかマリーにまで声をかけるつもり?
なんとでもできるってどういうこと?
「それでは、失礼いたします。」
深々とお辞儀をして、
ダリアは逃げるようにその場から立ち去る。
「……………みぃつけた。」
そう静かに言ったリージュの、
獲物を狙う、蛇のような目に気づかないまま。




