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ダリアとリージュはその後、あの庭園に来ていた。
あの夜はリージュが断る側だったが
今日はダリアに断られる側になる。
………まぁあのご令嬢のような恋心を
ダリアは持っていないのだが。
「王弟殿下。
………先ほどの婚約の申し込みのお話ですが。」
「………………。」
リージュはなぜか話しかけているダリアの方を見ず、
そっぽを向くように立っている。
「…………?
王弟殿下?聞いてます?」
「…………リージュ。」
「はい?」
「俺、"王弟殿下"って名前じゃないんだけど。」
………あぁ、まぁそうですね。
王弟殿下というのは呼称ですもんね。
「…………………リージュ様。」
「…………なに?ダリア。」
このヒト、子供みたいな人だな。
呼ばれ方なんてなんだっていいじゃないか。
酔っぱらいって呼ばれるよりはマシだろうに。
「………先ほどの婚約のお話ですが
やはりわたしには無理です。
わたしには
王弟の婚約者になれるような教養も知識もありませんし
どこぞのお姫様のような立場でもありません。
ですからどうかわたしではなく、
他のふさわしい方と婚約なさってください。」
………言った!言えた!!
そしてなにも間違ったことは言ってない!
「…………
教養も知識も、これから身につければいいでしょ?
お姫様のような立場?
そんなものにこだわらないし
なによりファティール家は
この国の三大公爵家の一つだろ?
立場的にもなんの問題もない。」
「ぐっ………。」
そう、ダリアの生家であるファティール家は
王国の中の三大公爵家のひとつなのだ。
とはいっても、現在当主を務めるのは兄で
本来ならば父がしなければいけない
公爵家当主としての仕事は、早々に兄に引き継がれた。
………父もダリア同様、薬草マニアだったため
領地でおとなしくしていられなかったからだ。
「そ、それでも!
やはり王弟の婚約者にはふさわしく………!」
「ふさわしいかふさわしくないかは俺が決める。
誰にも指図されるつもりはないし、
ダリア以外をふさわしいとは絶対思わない。」
「!!」
「このままダリアと結婚できないなら
………ダリアを殺して俺も死ぬ。」
何なんだこの人はーーーー!!!!
「な、なにをおっしゃってるんですか………
わたしまだ死にたくないんですけど…………。」
「じゃあ俺と婚約して?それですぐ結婚しよ?」
「あなたそれしか言葉知らないんですか?!
婚約はできない、しないって言ってるでしょ?!」
「じゃあダリアのこと殺して………。」
「それも嫌だって言ってるじゃん!!」
ダリアはもはや、
リージュに敬語を使うことすら忘れていた。
それどころではなくなっている。
「だいたい!なんでわたしなの?!
あなたならどんな美女でも捕まえられるでしょ?
わたしを婚約者にしたい理由がわかんないの!」
「…………ダリア、だから?」
「それが理由になってないんだってば!!」
………だめだ、言葉が通じない。
なにを言ってものらりくらりと交わされて
もはや会話が成立しているのかもわからない。
「…………ひとめぼれ、なのかも。」
「は?」
「あのとき、
俺を起こしてくれたダリアの顔を見て
絶対『コレ』だって思った。
………あ、そうだ。きっと一目惚れだ。」
なに急に、恋する乙女みたいなこと言い出してんの?
一目惚れ?
あなたあの時酔っぱらってたじゃない。
頭がハッキリしてない時に見たから
よっぽどわたしが美女にでも見えたんじゃない?
矢継ぎ早に湧いて出る自分の考えを
心の中で呪詛のように唱える。
今リージュは自分に好意を寄せていると自覚したようだが、
ダリアはそうではない。
どうやってリージュにツッコめばいいか
真剣に考えているところだ。
「王弟殿下、
それは一時の気の迷いです。
国に戻られてから異性と遊ばれていないのですか?
わたしに一目惚れしたというのは
遊んでいないがための女性不足が見せる幻です。」
「………なに言ってんの、ダリア。」
逆にツッこまれてしまった。
だがそんなことはどうでもいい。
「………たとえ一目惚れだとしても
わたしはまだ王弟殿下のことを………。」
なんとも思っていませんので、と言おうとしたダリアは
グッと言葉を詰まらせた。
………自分を見るリージュの瞳に
いつか見た縦に光る線が見えたからだ。
ジリっと距離を詰められ
リージュはダリアの目の前に立つ。
「………ダリアが俺のこと好きになればいいんだ?
ダリアが俺のことを好きになれば
結婚してくれるんだよね?」
「なっ………。」
「じゃあいいよ、そうさせるから。
………せいぜい、逃げ回ってごらんよ。」
ギラリと瞳を輝かせたリージュが
ダリアをじっと見つめる。
この瞳………
やっぱり蛇みたいだ………
「でも婚約は今すぐしよ?
俺を好きにさせるのに
ほかの男に邪魔されるのはおもしろくないし、
ダリアに会う口実を作るのも大変なんだから。」
「そ、それとこれは話が別っ……!!」
「…………いいの?
俺のことを好きになる前に殺し………。」
「嫌です!死にたくありません!!」
「じゃあ婚約は成立だね。
ダリアに俺のこと、好きになってもらうために。」
「…………いや、おかしいでしょ。」
ツッコミどころが満載すぎて
ダリアは言葉を失った。………いや、
失うしかなかったのだった。




