8:何をするんだい、ルルシャ?
本来のゲームにはない血文字の手紙の登場に、私は本能で反発してしまった。するとルルシャの顔色が変わり、そこに私は勝機の可能性を感じたのだけど……。
ルルシャは不敵な笑みを浮かべたのだ。
「アマレット、君、そんな稚拙な言い訳が通用すると思ったのかな?」
レイールはルルシャを抱き寄せ、呆れた表情になっていた。それを見た私の心臓はドクッと嫌な鼓動を響かせる。
「この手紙には印章が押されている。律儀に印章を押して置いて、自分ではないと言い出すとは……。こんな血文字の手紙を書いている時に、秀麗な文字だったら恐怖しかない。さすがに自分でも気持ちが動揺していたのだろう。このような汚い文字になっていても、むしろそれが普通だ」
このレイールの言葉に、ルルシャはニヤニヤ笑いが止まらない。一方の私は「きぃーっ」とハンカチを噛みたい状態だった。
印章というのはシグネットリングで押すサインであり、それは前世の印鑑のようなもの。大切に扱い、普段はつけたままでいる。でも入浴の最中にはずすことも多い。私の場合、妃教育以外は使用人のような生活を送っているのだ。炊事や洗濯を手伝うこともあり、シグネットリングをはずし、ちゃんと金庫に入れていたが……。
金庫は前世のようなダイヤル式ではなく、鍵で開け締めするものだった。そしてその鍵は、万一に備え、複数人が所持している。私の部屋の金庫の鍵も両親がスペアで持っているわけで……。
そこで悟ることになる。
この血文字にはルルシャだけではなく、両親も協力しているのかもしれないと。レイールの心は私ではなく、ルルシャにある。そしてルルシャと私は姉妹で同じ公爵令嬢。両親からしたら、姉と妹、第二王子であるレイールとどちらが結婚しても、王家と姻戚関係になれる。ならばレイールの望む方と婚約がいいだろうと考えた。
(つまり私とレイールの婚約破棄に同意した両親が、ルルシャの計画を手助けしたのね……!)
あまりのドアマット悪役令嬢ぶりに、私は半笑いするしかない。そんな私の敗北の笑顔を見て、ルルシャは最後の仕上げに取り掛かった。
「アマレットお姉様は、子どもの頃から性悪でした。でもいつかは心を入れ替えてくれるかもしれない。そう信じて来ました。でもアマレットお姉様の心は……変わらないのだわ! さすがに私でも限界です。これまで、お父様やお母様、お兄様、そしてレイール様に、どれだけアマレットお姉様を切り捨てるよう言われても、庇ってきました。……それがよくなかったのですね。今回はもう、ルルシャはアマレットお姉様を庇うことは、致しません!」
「「「「ルルシャの言う通りだ!」」」」
両親と兄、レイールの声が揃い、招待客の貴族たちも「「「うん、うん」」」という感じで頷いている。
「では以前より言っていた通り、ビーティア修道院に入れてしまおう」
「いいえ、お父様。修道院ごときでアマレットお姉様の根性が治るとは思えませんわ!」
「そうよね。あの子の性格なら修道院ごときでは治らない。それは同意するわ。ではリーンハルト精神病院へ収容してもらう?」
「お母様、それではアマレットお姉様は毎日毎日ただ寝ているだけですわ!」
「なるほど。では娼館へ売ってしまおう。腐っても公爵令嬢だ。高値で売れるだろう」
「お兄様! もしそれで太客でもついて、アマレットお姉様に復讐でもされたら?」
「大丈夫だ、ルルシャ。父上に頼み、アマレットのことを国外追放にしてもらおう」
「レイール様! それは名案ですが、甘ぬるいと思いますわ! 隣国で力をつけ、返り咲く可能性があります。ここは徹底的に潰したいですが、さすがに死罪は……」
「国外追放」には反対だが、「死罪」は避けたいと言っている。かつ「死罪」を避けるということは、魔王討伐ルートにこの後、進みたいのだろう。
「「「「ルルシャは優しい! 聖女のようだ!」」」」
家族もレイールもルルシャのことを聖女であると絶賛していたが……。
「死罪は避けたいですが、国外追放では返り咲く可能性があるので、こうするのはどうでしょうか?」
「何をするんだい、ルルシャ?」
レイールが瞳をキラキラと輝かせ、ルルシャに尋ねる。
するとルルシャはお茶会のスイーツはこれを食べたいと告げるような気軽さでこんなことを言い出した。
「アマレットお姉様を魔王の生贄にしましょう」
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魔王の生贄!?
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