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ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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7/9

7:一発逆転のチャンス!?

「「「ルルシャ公爵令嬢、ハッピーバースデー!」」」


 ルルシャの誕生日を祝う公爵邸のパーティーが、遂にスタートした。ホールには大勢の令嬢と令息が集まり、華やかな雰囲気に満ちている。そこへパールグレーのフロックコートを着た兄にエスコートされ、ピンク色のフリル満点のドレスを着たルルシャが入場し、皆がお祝いの言葉で彼女を迎えた。


 そこからは用意された食事を楽しみながらのプレゼントの受け渡しになる。


 私は血の気が引いた状態で、その時を迎えることになった。


「お兄様、素敵なぬいぐるみのプレゼント、ありがとうございますっ! ルルシャ、大切にしま~す~!」


 アイドルのようにルルシャが手を振り、それを見た兄はニコニコと喜んでいる。両親や他の招待客も拍手でその様子を見守っている中。私だけ、冷水を浴びたかのように、恐怖で震えている。


(ついに、始まる――)


「次は~、あ、レイール第二王子殿下ですね! 今日は一介の貴族に過ぎない私のために、わざわざ足をお運びくださり、ありがとうございます!」


 ルルシャが愛らしくカーテシーをする。それを見たレイールは、これでもか!という笑顔で答える。


「ルルシャ。ハッピーバースデー! 君がこの世界に誕生したこと、僕は心から感謝したい気持ちでいっぱいだよ。そしてルルシャ。君と僕の仲なんだ。レイール第二王子殿下、ではなく、レイールと呼んで」


 いきなりの甘々発言に、会場は「「「「「まあ」」」」」と言う声が漏れ、チラチラと視線が私に向けられる。「婚約者ではない方に、ファーストネームを呼ぶように告げるなんて。これは一体、どういうことかしら?」と。


 どういうことも、こういうこともない。レイールは私と婚約破棄することを心に決めている。だからこその一言だった。


「ルルシャはピンクサファイアのネックレスを気に入ってくれた。今日もつけてくれているね。そのネックレスに合う、イヤリングと髪飾りを用意した。これをルルシャの誕生日プレゼントとして贈るよ」


 そう言ってレイールが取り出したのは、小さなギフトボックス。見た目は小さい。しかしその中身はとんでもなく価値がある。というのもピンクサファイアは、透明感のある鮮やかなピンク色で大粒だと、その価値は通常のサファイアよりうんと高額になるからだ。


「まあ、ピンクサファイアのイヤリングと髪飾り!?」「とんでもなく高額なプレゼントね」という声が周囲から聞こえてくるが、それは当然。そこまで高額なギフト、特別な間柄の令嬢にしか、普通は贈らない。


(でもそこはどうでもいい。問題はその後よ……!)


「実はルルシャにもう一つ。受け取って欲しいプレゼントがあるんだ」


 そう言うとレイールはルルシャの手を取る。


「ルルシャ・リリー・リプトン。君はとても心優しく、気遣いもできる女性だ。君のような女性こそが、王家には相応しい。どうか、僕と婚約して欲しい」


 これにはざわめきが起きる。


「! レイール様、何をおっしゃっているのですか!?  レイール様はアマレットお姉様と婚約されているではないですか!」

「そうだね。でもその婚約は破棄する。既にリプトン公爵夫妻と父上とも話し、許可が下りている」


 会場のざわめきは一層強くなり、周囲の令嬢や令息がチラチラと私を見る。私は……血の気の引いた状態で、ただ耐えることしかできない。


 最後に一矢報いるとも考えていた。でも『既にリプトン公爵夫妻と父上とも話し、許可が下りている』なんて、前世ゲームプレイ記憶にもない言葉! これはレイールの独断行動ではない。この場で初めて聞いた言葉という顔をルルシャはしているけれど、そんなわけがない。根回しをするよう、ルルシャがレイールに入れ知恵をしたに違いなかった。


 驚愕していると、さらに恐ろしい話が飛び出す。


「婚約破棄を決めることになったのは、この手紙が届いたからだ」


 そう言うとレイールは、着ている青色のフロックコートの内ポケットから封筒を取り出す。そして一枚の便箋を広げ、皆に見えるように掲げた。


「まあ、あれは血文字!?」「おぞましいですわ!」「不吉!」


 令嬢と令息からどよめきが起きる。


「この手紙にはこう書かれていた。『レイール第二王子殿下の心変わりを許すわけにはいきません。これ以上、私の妹と仲良くするなら、私はルルシャと殿下を刺し、自殺します』と書かれていた」

「そ、そんなもの、書いていません!」


 さすがにこれはあり得ないと、気づいたら声を挙げていた。


(前世のゲームプレイ記憶でも、そんな血文字の手紙は登場していない。これは間違いなくルルシャの陰謀!)


「その手紙は私が書いたものではありません! それはでっち上げです! 何より、私はそんなに字が汚くありません!」


 そこで私がルルシャを見ると、周囲の貴族たちも「まさか」という表情で彼女を見る。


 ルルシャは愛らしく可愛い令嬢であるが、唯一の弱点が字の汚さだった。多くを代筆させていたが、さすがに血文字の手紙を誰かに書かせることはできなかったのだろう。


 この私の指摘は図星だったようで、ルルシャの表情は硬くなる。


(もしかしてこれは一発逆転のチャンスなの!?)


 婚約破棄は構わない。だが断罪は避けたかった。

 ならばここで――。


 私が口を開こうとした瞬間。ルルシャが不敵な笑みを浮かべた。


お読みいただき、ありがとうございます!

もう1話、夜に頑張ります~

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