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ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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4/12

4:公爵令嬢のはずが……

 気づけば私は……完璧なるドアマット悪役令嬢になっていた。


 十八歳になった頃の私は、公爵邸では完全に使用人の扱いだった。食事は家族の食べ残し、服は侍女たちと同じワンピース。妃教育を受けるため王宮に行く時以外は、宝飾品を身に着けることもない。その宝飾品も管理するのはルルシャだった。


「アマレットお姉様、このネックレス、私にくださる? ピンクサファイアは……お姉様には似合わないわ!」

「え、でもそれは……」


 そのネックスレスは、現状では悪役令嬢アマレットの婚約者である第二王子レイールからプレゼントされたものだった。もしこのネックレスをルルシャがつけ、レイールと会うことがあれば……。


(レイールは気分がよくないだろう。あ、でもこのネックレスは確か……)


 議会が始まり、王都のタウンハウスに貴族たちが戻って来て、舞踏会や晩餐会の開催が増えている。前世でのゲームの記憶では、ルルシャはこの時期に参加する舞踏会で、レイールと親密になっているが、そのきっかけがこのネックレスだった。


 ゲームで描かれていたのは、こんな感じのエピソードだ。


「ルルシャ! あなたどうしてそのネックレスをつけているの!?」


 宮殿で開催された舞踏会。悪役令嬢アマレットは婚約者であるレイールにエスコートされ、会場入りしていた。ルルシャは兄のエスコートで、アマレットとは別で行動。ゆえに会場に着いてから気づく。ルルシャがアマレットのレイールからのプレゼントのネックレスをつけていることに。


「! アマレットお姉様、ごめんなさい! このドレスにピッタリなネックレスを私、持っていなくて……」

「だからといって、勝手につけていいと思っているのかしら? 私は許可をしていないわ!」

「で、でも、お母様が、アマレットお姉様は優しいから、許して下さるわって……」

「ふざけないで! 人の物を勝手に身に着けて、何を言い訳しているのかしら!?」


 そこでアマレットはルルシャに掴みかかり、ネックレスを奪い返す。その行動はかなり強引なもので、ルルシャのドレスのレースは破れ、半べそ状態になる。そこにレイールが現れ「一体全体、どうしたの!?」となり、アマレットがルルシャに辛辣であることが明らかになるのだ。


(どのみち、ルルシャが身に着けるネックレス。ここでごちゃごちゃ言ってもどうせルルシャがつける流れは変えられない)


 諦めモードの私は、ルルシャにそのネックレスを渡す。するとそこへ母親が顔を出す。


「ルルシャ! 今日は宮殿の舞踏会よ。第三王子や騎士団長のご令息も参加するそうだから、たっぷり時間をかけて、オシャレにしなさい」

「わかりましたわ、お母様!」

「アマレット! ルルシャの準備をしっかりするのよ」


 私も今日の舞踏会はレイールの婚約者として招待されているが、完全に私を使用人のように見ている今の母親は、そんなこと全く気にしていない。それでいて舞踏会へ行かなければ、レイールに恥をかかせたと、後でお叱りを受けることになる。


(ルルシャを飾り立てつつ、自分のことも考えないといけないわ……)


 そうなるともう怒涛の勢いで時間が過ぎて行く。リリシャは「もっと香油を塗って!」だとか「やっぱり髪はいつも通りがいいわ!」とやり直しを命じ、やりたい放題。それでもなんとか支度を終え、私は自室へ戻る。そしてお金を渡し、メイドに手伝ってもらい、イブニングドレスへの着替えとなったが……。


 私への割り当てが減ったため、ドレスは新調できていない。今日のドレスは、昨年のこの時期にも着ていたロイヤルパープルのものになるが、仕方なかった。しかも宝飾品も目ぼしいものがなく、祖母の形見でもらったアンティークなデザインのパールのネックレスとイヤリングをつけることになる。


「あの」

「はい」

「髪は? もし髪もセットするのでしたら、追加でお金をいただきたいのですが……」


 公爵家のメイドが、公爵令嬢にお金を要求する。本来、あり得ないこと。ところが家族は使用人が私に不遜な態度をとっても一切何も言わない。それをいいことに、使用人もしっかり私に金銭の要求をするのだ。


(髪は自分でもできないことはないが、今日は宮殿の舞踏会なのだ。途中でセットが崩れることは許されない)


 そこで私はお金を追加で渡し、髪をセットしてもらう。


 公爵家での扱いが激変する前、割り当て金の一部をもしもの時に備え、貯金していた。それを崩しながら使っているけれど、そもそも私が現金で所持しているお金なんて、たいした額ではない。それでいてこの屋敷で侍女として働いても、給金が出るわけでもなかった。


(このままでは手持ちの現金も底をつく。でも……断罪は避けられない気がするし、私は……本当にお金が必要なのかしら……)


 頭の片隅には常に「死罪」という言葉が意識されてしまう。


(そんなに弱気になってはダメ! 「生存」を前提に日々を過ごさないと! 断罪は何としても回避し、私は生きるの! そのためにお金だって必要よ!)


 いっそ、断罪の場ではなく、今すぐにでも婚約破棄になれば……。


 屋敷を追い出されるが、住み込みメイドや侍女の職が見つかるかもしれない。今は第二王子の婚約者と公爵令嬢という肩書があるため、身動きがとれないが、それがなければ……自由だ……!


 ドアマット悪役令嬢な私は、現在公爵令嬢であり、第二王子の婚約者であるにも関わらず。断罪回避と同じぐらい、働くことを欲していた。


お読みいただき、ありがとうございます!

もう1話更新します~


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