12:人類を代表して
人間にとって魔族は敵。魔族も人間を敵視している――そう思っていた。
だが魔族であり、魔王の子どもである王子は、生贄である私に対し、とても丁寧で親切だった。これには驚きと共に尋ねてしまう。
「あの、魔族と人間は対立しているんですよね? 人間を襲わないために、百年に一度、生贄を求めているんですよね?」
私の言葉に王子はすぐに返事をしない。兜に甲冑なので、今、彼がどんな表情をしているかわからなかった。
(しまった! 親切にされ、つい聞かないでいいことを尋ねてしまったわ。お、怒っている……?)
まさか「生意気な人間め!」と馬車から突き落とされたらどうしよう……と不安になり、グレイスのたてがみをぎゅっと握りしめていると……。
「人間は誤解しています」
「?」
首を傾げると、王子は私に問う。
「人間は戦などなく、平和に暮らしているのですか?」
「えっ……」
「人間同士でも領土を巡り、戦争をしないのでしょうか?」
「それは……しています」
「人間と魔族の戦争も領土を巡り、過去に何度も争うことになりました」
これには「え、えーと……」と、とまどうと、王子は驚きの事実を口にする。
「何度も戦争をして、勝負はつかない。そこで国境を定め、和平を結ぶことになりました。その際、平和の証として、婚姻関係を結ぶことが提案されたのです。人間同士でもそういう盟約を締結するのでは? 同じです」
「えっと、そうなると……」
「生贄ではありません。人間が魔の国と呼ぶルミナリア王国では、百年に一度、人間たちから妻を娶っている認識です」
これには「えええっ」と驚き、言葉が続かない。
「魔族の寿命は長い。しかし人間の寿命はそれに比べると短命です。ですが魔族と婚姻することで、その寿命はある程度伸ばせます。それでも人間の命は有限だから新たなる妻を迎えるわけです。百年ごとに」
「そ、そうだったのですね。ではなぶり殺しにするための生贄ではないと」
「……なぶり殺し……。なんのためにそんなことを? 魔族……わたしたちが魔獣と呼ぶものの中には理性はなく、本能のみで生きているような奴らもいます。魔獣なら、人間をなぶり殺しにすることもあるでしょう。しかし魔族でもこうして人と変わらない姿の者には理性もあります。知恵や知識もあり、人間と変わりません」
これには「なるほど、そうだったのですね……!」と言うしかない。
魔族=野蛮、残忍、暴虐というイメージは幼い頃からすりこまれていたと思う。魔族=悪と勝手に思い込んでいた。
「魔獣のイメージが先行し、人間たちが魔族を恐れているのは……仕方ないのでしょう。平和のための婚姻が、生贄にすり替わって理解されているのは……残念だが仕方ないことです。百年という時は魔族では短いですが、人間にとっては長い時間。その百年の間に間違った考えが浸透してしまったのだと思います」
王子は……誤解されていることに激高することもなく、理解を示している。
(確かに理知的でそこは人間と変わらない。誤解。まさにそうだと思うわ!)
そこは人類を代表してお詫びするべきだろう。
「その……王子様、申し訳ありません。魔族やあなたに対して、私は誤解をしていました。生贄に選ばれた、殺される……そう思っていたのですが、違うのですね。私は……」
そこで気付く。生贄ではない。殺されることはない。だが……。
(婚姻。つまり嫁。えっ、私、魔王の嫁になるの!?)
生きられるのは嬉しいが、いきなり魔王の嫁になる事態にフリーズしてしまう。
「生贄にされたと思い、ここへやって来た。嫁入り道具も何もないのだから、それは真実でしょう。心の準備もできぬまま、嫁がされるなんて……到底、受け入れられることではありません。わたしは無理を強いるつもりはないので、安心してください」
「……? 私は魔王の嫁になるのでは?」
思わずそう口にすると、王子は落ち着いた声音で教えてくれる。
「魔王……父上は母上を深く愛しています。それに母上は父上の深い愛により今も若く健全です。そこで王太子であるわたしの妃に……ということになりました」
「! そうなのですね」
「ですが先程お伝えした通り、いきなり花嫁になると言われても困るでしょう。強引なことはしません。あなたの気持ちを尊重するので、怖がらないで大丈夫ですよ」
「な、なんて寛大な……!」
感動で胸を熱くする私に、王子……次期魔王の王太子はこんな気遣いまでしてくれる。
「ただ、あなたを元の国に戻したら『生贄が返却された、別の生贄を捧げる必要がある』『もしやこれは宣戦布告か』とならないか心配です」
これには激しく同意だった。ルルシャやレイールなら「逃げだして来たのか!」「この役立たず」となり、誰も私が王子と魔族の真実を解いても、信じてくれないだろう。
そこで私は、誤解され、戦争が始まってもおかしくない――と伝えるとことになる。
「やはりそうですよね」
そこで思案した様子の王子だったが、改めてこんな提案をする。
「家族が恋しいかもしれません。でもこのまま魔の国で、ルミナリア王国で暮らしませんか?」
恋しい家族なんていない。家族は私が帰還したら、喜ぶより、驚き怒り、「返品不可です!」になりそうだ。
「え、よろしいのですか……? このままルミナリア王国に残っても……」
「もともとあなたがこの国で暮らせるように準備をしていました。見ての通り、文化水準はあなたがいた国とは変わらないでしょう」
まだ早朝なので、街中に人……魔族はいないが、見える景色に違和感はない。
(大丈夫。私、この魔の国でもやっていけるはずよ!)
転生していると覚醒しても、何とかなった。ここでも生きていける!
「私に帰る場所はありません。こちらでお世話になりたいです!」
「喜んで。あなたを歓迎します。客人として迎えることを約束します……自己紹介がまだでしたね。わたしはセルジュ・ルーカス・ルミナリア。ルミナリア王国の王太子です。レディ、あなたのお名前は?」
セルジュから「レディ」と呼ばれることにドキッとしながら私は答えることになる。
「私はアマレット・ニキ・リプトンです。よろしくお願いいたします。王太子殿下」
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