11:バッサリ大剣で
私は生贄だった。
生贄が魔王に捧げられる手順なんて……聞いていない。
でもまさかいきなり置き去りになるとは!
「こちら、お約束の生贄でございます」
「おう、もう百年経ったか。今年は早いな」
「はい。生きのいい奴が手に入りまして……」
とはいえ冷静に考えても、こんなやりとりがされるかというと……されるはずがない!
つまりよく考えればこうなるという方法で置き去りにされ、そして私はいきなり生贄としての役目を果たすことになった。
大勢の魔族の前で指揮官により、バッサリ大剣でまっぷたつにされた。
そう思い、目を閉じ、天国行きを願った。
「おおお、さすが!」
「一撃でしたね」
「素晴らしい」
「これは今宵のいい酒の肴になる」
「ああ、運ぼう」
「それで、こちらは……」
「城内に運ぶようにとおっしゃっていた」
「そうだったな」
聞こえてくる会話に私は「はて?」と思う。
次の瞬間、体を持ち上げられ、「!」と目を開けると――。
「ひいいいいいいいいっ!」
「おい、暴れるな」
「きゃあ」
簡易担架から転げ落ちると、べちゃっと水溜りに落ちた――と思ったら、違う。
「ち、血の沼――――――っ!」
「落ち着け。これはバジリスクの血だ」
「バジリスクって、あ、あ、あっ、あっ……」
目を開けて見てしまったもの。それは巨大な切り落とされた肉の断面。真ん中に骨がみえ、赤々とした巨大な肉片が見えたのだ。その大きさはまるでトンネルのようだった。
「ああ、あっちにな。あっちに首から上が転がっている」
見なければ良かったが、見てしまった。
見てしまった先には巨大な蛇の頭が転がっている――!
「さっき、お前さんはあれに喰われそうになった。それを殿下がバッサリ」
「一撃でバジリスクの首を落とされた」
「さすが殿下」
「バジリスクは久々に人間を見つけて『ご馳走だ~』と思っただろうに」
「まさか自分がご馳走になるとはな」
「「あははははは!」」
二人の騎士……魔族の騎士は爆笑しているが、私は全然笑えない。
(というか、全身、そのバジリスクの血まみれで、変な匂いもするし、最悪だわ!)
「おい、お前たち!」
「殿下!」
(えええ、魔王様っ!? いや、待って! 殿下……ということは魔王ではない。王子……?)
ガタブル状態で振り返ると、美しいグレーの毛並みの馬に騎乗したあの蒼みを帯びた甲冑姿の指揮官……魔族の王子がいる。
「なんでこんなに血まみれになっている!?」
「いや、それは……殿下がバジリスクの首を切り落とした時、真下にいたんですよ? こうなりますよね?」
「いや、ここまで血まみれではなかったぞ。何かしたのか!?」
「していませんよ! あ、担架から勝手に落ちました!」
王子にとっては部下であろう騎士の言葉を聞くと……。
馬から降りた王子の足が、ビチャッとバジリスクの血が広がる地面に着地した。
(脚が細くて長い……)
「怪我はないですか?」
「!」
「担架ではまた落ちるかもしれません。わたしが運ばせていただきます」
「!」
「失礼」
そう言うと王子は私を軽々と抱き上げ、馬にのせてしまう。
「甲冑やマントにバジリスクの血が……」
「君ほどではないです。気にする必要はないですよ」
耳を疑う言葉と行動だった。
魔王と魔族。それは人類の敵であり、生贄を求める恐ろしい種族――そう思っていたが、今、私はとても丁重扱われている気がする。
だって「運ばせていただきます」と言われ、「失礼」と言われた。バジリスクの血で汚れることも「気にする必要はないです」と言ってくれたのだ。
(これは……前世ラノベ風で言うなら、魔族なのに優し過ぎる件、だと思うわ!)
「グレイスのたてがみをしっかり掴んでください。速度はあまり出さないようにします。馬の動きに合わせると、体への負担が少ないです。……では出発します」
そう言ってグレイスという愛馬を魔族の王子は走らせるが……。ほぼ歩いている状態。そして私は公爵令嬢であり、乗馬の経験はある。
(ただ、こんな風に跨いで乗る方法ではないけれど。でも馬の高さや動きには慣れているから問題なし。……いや、結構高さがあるわ。王子が長身だから、馬も通常より大きいのかもしれない)
ということでしばらくは馬に乗る自分に集中したが、次第に余裕が出来てくる。キョロキョロと周囲を見渡すと――。
「ここから先が、人間たちが魔の国と言っているルミナリア王国です」
城門をくぐり、進む通路は白亜の壁。甲冑や馬は黒かったが、この壁を見ていると、おどろおどろしい魔族の国にいるとは思えない。
(それに魔の国にもちゃんと名前があったんだ……)
もう一つの門をくぐると――。
「わあ……」
「中央に見えるのが、城と時計塔。手前に広がるのが、商業区域です。右手は貴族たちの邸宅、左手は平民たちが暮らしています。奥は魔獣の森です」
見える街並みはこれまで暮らしていた王都と大差はない。
(馬車道と歩道の整備、街灯、排水溝もある。街路樹もあるし、道にゴミは少なく、とても整備されているわ)
正直、魔族と言えば野蛮で文明なんて前世でいうなら原始人ぐらいのイメージだったが、全然違う。
「城壁の外にいる魔獣は、同族を襲うような凶悪な者たち。勝手に国を出て、人間を襲うこともある。気付けば討伐をしますが、人間は……わたしたち魔族が国から出て来ることを嫌うので……。城壁の外にいる魔獣は野放しに近い状態です。なるべく人間のいるエリアに魔獣が出て行かないよう、注意はしているのですが……」
そして極めつけはやはりこれだろう。
魔族の王子は……蛮族の欠片もないぐらい、言葉遣いも丁寧で、落ち着いている。
しかも言葉の端々に感じられるのは、人間への気遣いだ。
こうなると私は聞かずにはいられない。
「あの、魔族と人間は対立しているんですよね? 人間を襲わないために、百年に一度、生贄を求めているんですよね?」
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