52:王太子の婚約者は囁く
本日、小説の発売日です!!
https://cnovel.bushiroad-works.com/novel/hatukoifullbet_1/
1巻には第一章のエピソードに加え、
・ディアナ&コーデリア幼少時の誘拐事件
・アラン青年期
・転生前の悪夢
上記を書き下ろしで収録しています。
憂先生の素敵な装画も、どうかお見逃しなく。
コミカライズ版とあわせ、どうぞよろしくお願いします!
「……どういう意味だ」
アランの声は低く、凄味を帯びていた。
華やかな庭園が、今だけ緊張感に包まれる。
歴戦の勇士の放つ圧を真っ正面から受け止め、なおもクライドはじっとアランを見据えていた。
「そのままの意味でございます」
「場合によっては、その発言は見過ごせぬぞ」
アランの言葉にも、クライドが怯む様子はない。
「ローレンス殿下は、自身に従わぬ者に圧力を掛けている。その最大の被害者が、王弟殿下──貴方だと思っておりましたが」
アランの端正な眉が、僅かに歪む。
王家の圧力によって、手足を封じられている──そんなことは、誰に言われるまでもなく、アランが一番よく理解していた。
「それを、貴殿が言うのか。将来の義弟になる相手ではないか」
「なればこそ」
ふ、とクライドの顔に自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「妹を託すに足る相手かどうかは、慎重に見極めねばなりません」
今度は、クライドの表情をアランが窺う。
「して、結論は出たのか?」
「その結論が同じものであるか、殿下にお尋ねした次第です」
本心は口にせぬままに、互いの出方を待つ。
どちらともなく、強張っていた表情が和らいだ。
「貴殿がそこまで妹思いとは、知らなかった」
「僕も、王弟殿下がそこまで夫人を大事になさっているとは、思いませんでした」
決して、否定はしない。
相手を不敬と問い詰めることもしない。
その事実こそが、二人の考えを如実に表していた。
一方、ディアナはケイリーに案内されて、色とりどりの花が咲き乱れる温室の中に居た。
「流石は、自慢の温室ですね」
「気に入っていただけたようで、なによりです」
噎せ返るような花の香りに包まれて、ディアナが瞳を閉じる。
二人に付き従った護衛騎士達は、温室の外に立っている。
二人だけの空間で、ケイリーが僅かに声を潜めた。
「時に、コーデリア様はお元気ですか?」
「え?」
ディアナが、一瞬呆気にとられる。
ケイリーの口からコーデリアの名が出てくるとは、予想外だった。
王太子ローレンスに付き纏うコーデリアは、婚約者のケイリーにとって、いわば邪魔者ではないか──そんな先入観に、彼女も囚われていた。
「最近は、私も別邸で過ごしておりますので……」
「そうですか……」
返答を濁しながらも、ディアナの紫色の瞳が、じっとケイリーの表情を観察する。
物憂げな眼差しは、本気でコーデリアの身を案じているように思えた。
未来の王妃となることを望まれたケイリー。
彼女は真に恋敵の身を案じているのか、それとも──。
不意にケイリーが顔を上げ、視線がディアナと真っ直ぐ交差する。
「ディアナ様……貴女は、もう、お目覚めなのですか?」
「……目覚め? とは、一体……」
ケイリーの言葉に戸惑い、ディアナが言葉を返す。
そんなディアナの反応に、ケイリーの美しい顔には、僅かな落胆の色が浮かんでいた。
「いえ、戯れを申しました。忘れてくださいませ」
次の瞬間には、にこやかな貴人の微笑みで彩られていた。
一瞬だけ見せた表情、それが何を意味するのか──今のディアナに、推し量る術はない。
エルドレッド家から、別邸に戻る馬車の中。
アラン、ディアナ共に言葉少なながら、抱えた不安をひた隠すように、静かに寄り添っていた──。









