【コミカライズ連載開始&1巻発売記念SS】幕間:護衛騎士は辟易する
本日3/5より、コミックグロウルで本作のコミカライズが連載スタートします!
えぽしま先生による素晴らしい世界を、是非ご堪能ください!!
https://comic-growl.com/series/dc5ea3a3363f6
明日3/6は、小説の発売日でもあります。
https://cnovel.bushiroad-works.com/novel/hatukoifullbet_1/
という訳で、短いSSではありますが、お楽しみいただければ幸いです。
ガザード公爵家、別邸。
公爵家の跡取りと、その夫である元王族が住む屋敷は、厳重な警備によって守られていた。
その警備の指揮を執っているのが、ディアナの直属であり、ガザード騎士団の若き実力者──イアンその人である。
王都の街中でディアナを攫われて以来、イアンは寝る間も惜しんで鍛錬を続けていた。
どこか斜に構えたような態度は影を潜め、言葉少なに主君を守る、忠実な騎士の姿がそこにあった。
朝の走り込みを終えて、一人中庭で剣を振るう。
以前のイアンならば、朝稽古など真面目な騎士様のやることだと馬鹿にしただろう。
しかし、今は違う。
自分がもっと鍛えていたならば、あの時主君が攫われることもなかったのではないか。
自分がもっと誠実に仕えていたならば。
片時も傍を離れなかったならば。
様々な言葉が脳裏を過り、それを振り払うように、剣を振るう。
鍛錬の最中だけは、後悔の声が遠ざかる。
今の彼にとって、鍛錬は己の未熟さを忘れる為の唯一の方法であった。
「身体を痛めつけるだけでは、効果は出ないぞ」
そんなイアンにかかる、静かな声。
額から流れ落ちる汗を手の甲で拭い、イアンが相手を睨め付けた。
「別に、闇雲に痛めつけているつもりはないんですがねぇ」
イアンの態度に、相手──アランが苦笑を浮かべる。
ディアナとウェズリーにのみ忠誠を誓い、王弟である自分にさえ粗雑な物言いをするこの騎士を、アランは憎めずにいた。
いや、むしろ気に入っていると言っても良い。
彼の忠誠、その全てが愛する妻に向いたものだと知っているのだから。
「藁人形相手にどれだけ剣を振ったところで、鍛錬にはなるまい」
そう言って、アランが手にした二振りの木剣のうち、片方を投げる。
「取るがいい。稽古を付けてやる」
「……うす」
どこかふて腐れたようだったイアンの表情が、一瞬で引き締まる。
前に立つのは、かつての王国騎士団長。
この国の騎士達の頂点に立ち、前線で剣を振るってきた相手。
木剣を手にして対峙しただけで、プレッシャーが重くのしかかる。
穏やかな表情で佇むアラン。
そんな相手に、なぜ切り込めない?
どうして──隙が見付からない?
じりじりと懐に飛び込む機会を探るうちに、イアンは、自らが少しずつ後退していることに気付いてしまった。
「来ないのなら──こちらから行くぞ」
地面を蹴った音すら聞こえなかった。
一瞬で、肉薄される。
年上とは思えぬほどの、瞬発力。
襲い来る一刀は咄嗟に弾いたものの、その一撃を受けただけで、手に痺れが走った。
「くっそ──!」
汗で滑りそうになる木剣を握り直し、今度はこちらがとばかりに、先端を突き出す。
しかし、渾身の突きは、呆気なく躱されてしまった。
「まだまだっ」
アランの口元が、小さく弧を描く。
鍛え甲斐のある若者を見付けたのだから、楽しくない訳がない。
かくして、白熱した朝稽古は、朝とは呼べぬ時間にまで及ぶことになった。
「イアンばかり、ずるい」
「ずるいも何もってな話ですよ、お嬢」
遅い朝食の席、ディアナの表情は目の前にあるデザートのパンケーキの如く膨れていた。
「アラン様との稽古なら、私も参加したかったのに」
「そ、それは……」
ディアナの言葉に、アランの視線が宙を泳ぐ。
騎士団では無敵と言われるアランにとって、唯一の弱点──それは、可愛くて仕方の無い新妻の存在であった。
「アラン様、今度から私にも稽古を付けてください!」
「いや、ディアナは毎日忙しいし……」
「それくらいの時間は、工面します!!」
ディアナに詰め寄られ、辟易としたアランが、助けを求めるようにイアンに視線を投げかける。
その視線をわざと無視して、イアンは小さく口笛を吹いた。
「聞いてますか、アラン様!」
「勿論聞いている! 聞いているが……」
(ったく、最後は結局のろけ話になるんだから……)
パンケーキ以上に甘い空気に、イアンはうんざりと肩を竦めるのだった。









