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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
3章:策謀の王都

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51:公爵は問いかける

元宰相セオドアを雇ったことで、悪評と共に停滞していたフィデス商会の業績は、再び上昇を始めた。

セオドアの手腕は、ディアナさえも舌を巻くほどだった。

一ヶ月もすれば、従業員達も皆セオドアに心酔し、彼に店を任せることが増えてきた。


そんな中、ディアナはアランと共に、エルドレッド公爵家を訪れた。


一度目の来訪はクールソン伯爵と共に応接間での対話となったが、今回は公爵邸の中庭に通された。

白いマグノリアが咲き乱れる中庭は、風がそよぐ度に花びらが舞う、エルドレッド家自慢の庭園だった。


「お待ちしておりました」


マグノリアと同じ白いドレスを纏ったケイリーが、ディアナとアランを出迎える。

庭園の中央に設けられた席には、既にクライドが座っていた。


「さぁ、どうぞ」

「お二人が来られるのを、心待ちにしておりました」


新たな公爵となったクライドが、深々と頭を垂れる。


「お二方並びにフィデス商会の皆様には、当家縁の者が、ご迷惑をおかけしました」

「そんな、顔を上げてください、公爵様」


ディアナとしても、エルドレッド家の二人に思うところはない。

むしろ、二人はクールソン伯爵に騙された被害者であり、彼等はディアナとフィデス商会を庇ってくれていた。


「それにしても、噂に違わぬディアナ様の聡明さ! 感服いたしました」

「まことに」


ケイリーの言葉に同意するように、クライドが頷く。

二人の手放しで褒める様子に、ディアナが頬を赤らめた。


「私の噂など……悪い噂ばかりだと思うのですが」

「あら、そのようなことはありません。男共のやっかみなど、無視すればよろしいのですわ」


キッパリと断じるケイリーは、これまでディアナが抱いていたイメージとは大きくかけ離れていた。


王太子のお飾り婚約者。

大人しく、人前にはなかなか出て来ない女性。

太陽のコーデリアの方が、王太子妃として相応しいのではないか。

影でそのように言われていたケイリーだが、あのローレンスの婚約者とは思えぬほどに、良識をわきまえている。

それだけではない、社交界の令嬢らしい堅苦しさとは無縁の、気風の良さをディアナはケイリーから感じていた。


(こんな方が、あの(・・)ローレンス殿下の婚約者だなんて)


二人の婚約は、幼い頃に結ばれた。

ケイリーは人生の半分以上を王太子妃教育に費やし、ローレンスと共に過ごしてきたはずだ。

それでいて庭を吹く風のような爽やかさと、風に舞うマグノリアのような可憐さを持ち合わせている──不思議な女性だった。


(立場が違えば、仲良くなれたかもしれないのに……)


今の二人は王太子の婚約者と、その王太子が敵視するガザード家の後継者だ。

ディアナと親しくすることなど、ローレンスは由とはしないだろう。


(少し、勿体ないわね……)


ティーカップを持ち上げ、物憂げに揺れる琥珀色に視線を落とすディアナ。

そのカップに、ふわりと白い花弁が舞い降りた。


「あら」


鼻を擽る甘い香りに、自然とディアナの表情が綻ぶ。

用意されたどんな甘味より、花の香りがもっとも彼女の心を揺れ動かした。


「素敵な庭園ですね」

「ありがとうございます」


ディアナの言葉に、ケイリーが笑みを浮かべる。


「我が家自慢の庭園ですわ……他に、温室もありますのよ」

「まぁ」


庭園でこれだけの花が咲き誇っているならば、温室はどれほどか。

興味をそそられた様子のディアナに、ケイリーがにこやかに笑いかけた。


「よければ、そちらにも案内させてはいただけませんか」

「ええ、喜んで」


先に立ち上がったケイリーに手を引かれ、ディアナが腰を上げる。

ちらりと視線を向けた先は、共にエルドレッド公爵家を訪れたアランの元。


「俺のことは気にせず、行ってくるといい」


アランが苦笑を浮かべる。

アランにとって、ディアナは自分よりも年下の妻だ。

アカデミーで才女と言われ、年よりも落ち着いて見えるディアナだが──いや、そんなディアナだからこそ、年相応の表情を見れば、止める気にはなれない。


年の近いケイリーを前に、ディアナの表情が輝いているのを、彼は見逃さなかった。


「それでは……」


ディアナがアランとクライドに一礼して、席を立つ。


庭園を歩く、二人の女性。

仲睦まじい様子は、未来の王太子妃と公爵家の次期当主にはとても見えず。

周囲の空気までが、澄んで華やいだものに見えていた。


「ガザード公爵令嬢も、実際に会ってみると、イメージとは大分違う雰囲気の御方でしたが……王弟殿下がそのような表情をなさるとは、思いませんでした」


ティーカップを手に、クライドがしみじみと呟く。


「そうか?」

「ええ、それだけお二人の結婚が良縁だったということなのでしょう」


言われて、アランの目が僅かに宙を泳ぐ。

そんな様子に、クライドが声もなく笑った。


「申し訳ございません、揶揄(からか)うつもりはなかったのですが」

「ならば、笑うな」


小さく咳払いするアランに、クライドの目元が柔和に綻ぶ。

しかし、その笑みは一瞬で掻き消えた。


「幸せの絶頂にある御方に、このようなことを聞くのは(はばか)られますが──」


それまでの和やかな空気が、一瞬で凍り付く。

白い花弁を運ぶ風も、今だけは氷のように凍てついて感じられた。


「王弟殿下は、現王政──いえ、ローレンス殿下を、どのように感じておられますか?」


ケイリーと同じヘーゼルの瞳が、じっとアランを見据えていた。

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