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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
3章:策謀の王都

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50:双子の姉は手を差し伸べる

「なっ、何故、貴女がここに──!?」


予想だにしない人物の登場に、セオドアが目を見張る。

今では人妻となった、ガザード家の美人姉妹。

その片割れの美貌は、静かな笑みを湛えていた。


「優秀な人材が野に放たれたと聞いて、勧誘に参りました」

「は──?」


色濃い(くま)に彩られたセオドアの瞳が、数度瞬く。

その口元は言葉を綴ろうとして、数度はくはくと開閉した。


「……正気ですか?」

「ええ、勿論」


ディアナの理知的な瞳が、真っ直ぐにセオドアを見つめる。

向けられる眼差しに、迷いはない。


「私は──貴女を罠に嵌めようとした人間ですよ?」

「あら、素直にそれを証言してくださるのかしら」


くすくすと、軽やかな笑い声が響く。


「……申し訳ない、ガザード令嬢。貴女を罠に嵌めようとしたのは、私個人の罪だ。この身、如何様にもお裁きください」

「あら、あくまで貴方個人の罪であると?」

「どのような事情があろうとも──止められず、私自身が動いたならば、私の罪に他なりません」


頭を垂れるセオドアを、ディアナがじっと見つめる。

初めて会った時から、分別のある常識人と──そう感じていた。

その評価は、騒動を経た今でも変わってはいない。


ローレンスが彼を見限った時点で、彼等の関係は一方的な物だったのだと窺える。

理知的な美貌を湛えた、若き宰相──だがその頬は()け、落ち窪んだ目は就任当初とはまるで別人のようだ。


「それならば……私の元で働きませんか?」


静かな声は、まるで湖面に垂らす一筋の糸のようだった。

それを中心に、ゆっくりと波紋が広がっていく。


「どう……して、私を……」


答えるセオドアの声は、掠れていた。


「貴方ほどの人がこのまま職も無しに埋もれてしまうのは、勿体ないと思いまして」


先導するように、ディアナが一歩、また一歩と歩き出す。

重苦しい空気に満ちた王城から、彼を連れ出すかのように。


「それとも、どこか行く宛があるのですか?」

「いいえ……」


セオドアが手にしているのは、鞄一つだ。

サクソン侯爵家の屋敷も、爵位の継承と共にその所有権は弟に移った。

王城を出て、これからはどこかに部屋を借りるか、あるいは新たな家を探して移り住む必要があると、そう考えていた。


「でしたら、丁度良いではありませんか」


王城の門を出て、ディアナが振り返る。

美しい顔に浮かんだ笑みは、決して優しさだけではない。


「私の下で、働きなさい。罪を悔いているというのなら、これからの人生、私の為に生きてもらいます」


整った唇から紡がれたのは、セオドアを縛り付ける言葉だった。


ガザード家は、大貴族だ。

しかし、ディアナはいまだ爵位を継いではいない。

支配権は父ウェズリーにあり、ディアナはいまだ後継者という立場に過ぎないのだ。


ましてや、ディアナには敵が多い。

王家はガザード家を目の敵にしているし、血を分けた妹さえも、今となっては信用ならない。

アランという大事なパートナーを得た今でも、人材不足は深刻だった。


そんな中、突如罷免(ひめん)された人材を、ディアナは放っておくことなど出来なかった。

恨みが無いと言えば、嘘になる。

しかし──彼は元々律儀な人間だ。

根っからの悪人ではないし、ローレンスによって指示された数々の行いに、最も心を痛めているのは、きっと彼なのだろう。


「どうかしら」


返事を促すように、ディアナが小さく首を傾げる。

ふわりと、銀の髪が風に舞った。


もはや、セオドアに選択肢など無い。

あったとしても──己に手を差し伸べた女性に、彼は一瞬で魅入られてしまった。


「……私の一生を懸けて、償います」


誓うような言葉に、ディアナの表情がふわりと綻んだ。




こうしてセオドア・サクソンはフィデス商会で働く一員となった。

他の従業員達には驚きをもって迎えられ、彼を信用出来ないと声高に叫ぶ者も、少なくはない。

そんな声を宥め、重用したのは、全てディアナの判断であった。


(これでいいのよ)


ローレンスの命令で一時は卑怯な手段に出たとはいえ、セオドアは悪人ではない。

罪への意識が、彼の心を苛み続けている。

それは転じて、ディアナへの忠誠心となってくれるはず。


(それよりも、問題は──)


クールソン伯爵の死で被疑者死亡となり、エルドレッド公爵家は告訴を取り下げた。

事件は有耶無耶となり、これ以上の追求はなされないであろう。


つまりは、()()()()()()()()()()()──そこへの言及は、なされぬままだ。


(これ以上、放っておくことは出来ないわよね……)


ディアナを騙ることが出来る人間など、一人しか居ない。

双子の妹、コーデリア──彼女の関与は、もはや疑う迄もなかった。


前世で、ディアナを刺し殺したコーデリア──彼女と向かい合う日が、いよいよ近付いていた。

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