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【書籍化&コミカライズ】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
3章:策謀の王都

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49:双子の姉は迎えに行く

セオドアが向かったのは、王城の奥まった一室。

そこに、王太子ローレンスの居室がある。


「──殿下!!」

「どうした、騒がしい」


早朝から騒々しく現れた客人に、ローレンスは胡乱(うろん)な視線を投げかけた。

公務で密接に関わる宰相セオドアには、ローレンスの警護も常時対応する。

だが、それにしてもあまりに早いではないか……と、そのどこか霞んだ眼差しが告げていた。


「伯爵のことを、聞かれましたか?」

「伯爵? ……ああ、クールソンのことか」


なんだそんなことかとばかりに、ローレンスが欠伸を噛みしめる。

じわりと滲んだ涙は、悲しみによるものではない。


「お前が上手く立ち回らなかったせいで、随分と噂が出回っているようだな」

「は、申し訳ございません……」


ローレンスに睨まれ、セオドアが慌てて頭を下げる。

最初は王太子を問い詰めるつもりで来たはずが、いざ彼を前にすると、凄腕で知られる宰相とはいえ、勢いを失ってしまう。


「お前と伯爵の繋がりだけならばまだいいが、僕のことまで探られるようでは、困る」

「は──」


セオドアの額に、汗が滲む。

じっとセオドアを見据える、ローレンスの瞳。

その瞳に射竦められると、身が縮こまる思いがした。


「まぁ、あいつは口を滑らせたついでに、足まで滑らせたようだがな」


ハッハッハ──と声を上げて笑う王太子の声が響く。

頭を垂れたままのセオドアの瞳が、信じられないとばかりに大きく見開いた。


(起床なさったばかりの殿下が、どうしてそれを知っているんだ? 私よりも早くに報告を受けたか、あるいは──)


じっとりと、汗で衣服が張り付く。

不快な何かが全身に纏わり付くようだった。


(間違いない、殿下は──殿下が、あの男の口を封じたんだ……)


垂れた(こうべ)の下、(なび)く髪が、僅かに揺れている。

目端にそれを捉えたローレンスは、面白くなさそうに、チッと舌打ちをした。


「もういい、下がれ」

「は……」

「追って沙汰を出す」


振り払うようにローレンスの手が小さく動けば、退出の合図だ。

護衛の騎士が扉を開け、セオドアを促す。


「……失礼します」


もう一度頭を下げた宰相は、精彩を欠いた足取りで、王太子の居室を後にした。




閉まった扉に、王太子ローレンスは苦い視線を向けた。


「……あいつは、ダメだ」


客人が辞した部屋に、吐き捨てるような声が響く。


「宰相の首を、すげ替えろ」

「はっ」


ローレンスの言葉を聞いて、部屋に控えていた護衛騎士二名のうち、一人が部屋を出ていく。

もう一人は、静かにローレンスの傍らに立った。


「始末なさいますか?」


低く、押し殺した声だった。


「今は、いい。伯爵の死だけでも、様々な憶測を呼ぶだろうからな。それより──」


金糸の下、碧眼に軽薄な光が宿る。

社交界の令嬢達を魅惑する甘いマスクは、今は見る影もない。


「いざとなったら、全ての責任をあいつに取らせよう」


王太子の言葉を受けて、騎士が深々と頭を下げる。

国の重大ポストを動かした当人はと言えば、眠そうに大きな欠伸をして、再び寝室へと向かっていった。




宰相セオドアの罷免(ひめん)は、驚きよりも納得をもって人々に受け入れられた。

詐欺事件で訴えられたクールソン伯爵の死──それは事件をもみ消す為の宰相による仕業だったのだと、誰もが口にする噂だったからだ。

しかし、それ以上の事実は決して語られぬ。

まるで、誰かが意図的に噂を操作したかのような徹底ぶりであった。


宰相府に、既にセオドアの部屋はない。

執務室を後任に明け渡したセオドアは、宰相府を出て、一人王城の連なる建物を見上げた。


彼が失ったのは、宰相としての立場だけではない。

親から受け継いだサクソン侯爵の地位も、名声も、いまだ子を成さぬ妻も──全てが、彼の手を離れていった。

妻は離縁状を置いて実家に帰り、新たにサクソン侯爵に就任した弟が真っ先にしたことは、兄を家門から除籍することだった。

今ここに居るのは、宰相でも侯爵でもない──ただの平民だ。


通りがかる者達から、時折突き刺さるような視線が投げかけられる。

だが、彼を見送ろうとする者は、誰一人として居ない。


「……全ては、自業自得だな」


疲弊した顔に、自嘲気味な笑みが浮かぶ。

相手を貶めて罠に嵌めるなど、決して取ってはならぬ手段だと、分かっていた。

分かっていたはずなのに──王太子を前にすると、彼に逆らってはならないという強迫観念が芽生えてしまう。


どうしてあんな馬鹿な真似をしたのか……と、今なら思える。

だが、当時の彼にはローレンスの言葉に逆らうなど、とても出来なかったのだ。


小さく息を吐いて、王城に背を向ける。

どこか、行く宛がある訳でもない。

今はとにかく、この忌まわしい場所から離れようと、足を踏み出した時──、


「──あ、貴女は……!?」


セオドアの前に、静かな笑みを浮かべて立つ楚々とした姿があった。

彼が貶めたはずの、フィデス商会の会長──ディアナだった。

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