48:宰相は驚愕する
エルドレッド公爵家は、詐欺と書類偽装でクールソン伯爵を提訴した。
近く裁判が開かれるとあって、噂は瞬く間に社交界に広がっていった。
それに伴い、フィデス商会とディアナの潔白も証明された。
民衆の態度とは安易なもので、真実が明らかになった途端に『最初からおかしいと思っていた』『話が出来すぎていた!』などと、さも“自分は分かっていた”風を装う人間が現れる。
彼等の掌返しを肌で感じながらも、ディアナは黙して語らず。
やがて開かれる裁判で、証言台に立つその時に備えていた。
一方、提訴された側のクールソン伯爵も、黙っている訳ではない。
彼は王城を訪れ、宰相であるセオドア・サクソン侯爵に面会を申し込んだ。
「どうか、どうか宰相閣下に会わせてください!」
宰相府の門前で、クールソン伯爵が大声を張り上げる。
その髪には白い物が増え、数日で一気に老け込んだかのようであった。
「何度言えば分かるんだ、宰相閣下は多忙につき、お前の相手などしてられん!」
「そこを何とか!!」
守衛にどれだけ振り払われても、その足下に縋り付く。
エルドレッド公爵家の一員として権勢を誇った姿は、もはや見る影も無い。
(哀れなものだな……)
執務室の壁に背をもたれさせるようにして、セオドアは窓の下から響く声に目を瞑った。
エルドレッド公爵家を敵に回したクールソン伯爵に、もはや勝機は無い。
それどころか、フィデス商会とディアナ・ガザードにしてやられる始末。
“使えぬ駒は、さっさと始末しろ──”常々、王太子はセオドアにそう言い聞かせてきた。
ズキリと、頭が痛む。
本当に、彼をこのまま放っておいて良いのか?
自分がしていることは、正しいことなのか?
そう理性が警鐘を鳴らす一方で、耳に纏わり付く声は、少しずつ大きくなっていく。
私は、一体──彼が己に問いかけた、その時だった。
「──私は知っているんだ! 宰相閣下の背後には、あの方がいらっしゃるということを!!」
窓の下から、クールソン伯爵の声が響く。
「あの方のご助力さえあれば、私はまだまだ返り咲ける! 公爵の座だって──」
「ええい、いい加減にしないか!!」
痺れを切らした守衛が、クールソン伯爵を突き飛ばした。
やがて到着した騎士達が伯爵の両脇を抱えて、引き摺るように連れて行く。
セオドアが最後に見たのは、少しずつ小さくなるクールソン伯爵の姿だった。
翌日──王都を流れる河川の畔で、溺死体となったクールソン伯爵が発見された。
近衛騎士の調べでは、宰相府を出たその足で繁華街の酒場に直行し、浴びるほどの酒を飲んで橋の上で足を滑らせたのだという。
「まさか──」
その報告を聞いたセオドアは青ざめ、すぐさま執務室を飛び出していった。









