47:双子の姉は謝罪を受ける
「ぐ……そ、それは……」
クールソン伯爵の視線が、宙を泳ぐ。
助けを求めるように四方へと向けられた瞳は、だがどこにも縋る先はない。
そんな様子に、エルドレッド家の次期公爵となるクライドが、深くため息を吐いた。
「……貴方に手配を任せたのが、そもそもの誤りだった」
「な、何を言うんだクライド!」
この期に及んでも、まだクールソン伯爵は叔父としての威厳を保とうと、クライドに声を荒らげる。
そんな叔父に抗う素振りも見せず、若き令息は己が懐へと掌を差し入れた。
「叔父上──これが何か、分かりますか?」
「うん?」
甥が取り出した書簡を前に、クールソン伯爵が目を瞬かせる。
「なんだ、それは」
傍目には、ただの丸めた羊皮紙にしか見えない。
その内に何が描かれているか──クライドが、羊皮紙をポンと叩いた。
「これは、貴方が宰相閣下とやりとりをした──その書簡です」
「そんな馬鹿な、全て処分したはずだぞ!?」
言い終えるなり、クールソン伯爵がハッと口元を押さえる。
だが、時既に遅し。
「語るに落ちたとは、正にこのことか」
そのあまりの滑稽さに、アランが苦笑を浮かべた。
「違う、誤解なんです、私はただ──」
「もう、諦めてください叔父上」
弁解の言葉を並べようとする叔父に首を振り、クライドがため息を吐く。
「貴方が僕の就任を遅らせようとしていたこと──気付いていないとでもお思いか?」
年よりも幼く見える、クライドの美貌。
王太子ローレンスとはまた違った魅力で、社交界の女性達からも人気がある。
しかし、その甘いマスクに浮かんだ笑みは、背筋が凍るほどに冷ややかなものだった。
「それ、は……」
叔父に向けられた笑顔。
口元は確かに弧を描いてはいるが、目元は笑ってはいない。
ただ真っ直ぐに、クールソン伯爵を見据えている。
「次期公爵の座は、僕には荷が重い──こう言って不安を煽っていたのは、全て叔父上の配下の者でした」
沸々と、クライドの口元に笑みがこみ上げてくる。
それに反比例するようにして、目元には強い光が宿っていった。
「全ては、叔父上が扇動してのことでしょう?」
「待て、クライド──!」
年の離れた、叔父と甥。
その関係性が、今は見事に逆転していた。
叔父が甥の機嫌を伺い、許しを請うべく、猫撫で声を上げる。
「私はただ、家の為を思って──」
「僕は、この場で当家の恥を晒す気はありません」
ぴしゃりと、クライドの声が叔父の言葉を遮る。
「ですから、叔父上とは別途改めて話をさせていただきます──おい」
クライドが声を張り上げると、扉が開いて、数人の騎士達が姿を現す。
「叔父上を連れて行け」
「はっ」
次期公爵の声に従い、騎士達がクールソン伯爵の両腕を押さえ、彼を抱え込むように連行する。
「ま、待てっ、クライドお前──」
伯爵の声も虚しく、その喧騒も、やがて遠ざかっていった。
「この度は、当家の者が誠にご迷惑をおかけしました」
「いえ……」
エルドレッド家の兄妹が、ディアナに対し、深々と頭を下げる。
一方のディアナはと言えば、素直に彼等の謝罪を受け入れる気にはなれない。
(こればかりは、クールソン伯爵が一人で計画出来ることではないもの……)
ディアナの視線は、偽造された契約書類のサインに向けられていた。
ディアナと、良く似た筆跡。
ディアナの筆致を良く知る者でなければ、ここまで似せられはしない。
(それに──)
ディアナの視線が、ふと書類の隅に留まった。
契約書が書かれた日付。
小さな違和感が、ディアナの記憶に確かに刻まれていた。
(この日は──カーティスが、私と宰相が王城に居るのを見たと言っていた日だわ)
カチリ、カチリ……と、ピースが嵌まっていく。
浮かび上がった名に、ディアナは血が滲むほど唇を噛みしめた。









