41:策謀の王都
ガタンゴトンと揺れる馬車の中、愛おしい新妻が隣に居るというのに、アランは唇を引き結んで腕を組んでいた。
それもそのはず、港町アンガスから王都までの馬車に、フィーラン王国の海軍提督カーティス・マクブライドが同乗を申し出てきたからだ。
「流石に大柄な男二人が乗り合わせては、狭いのではないかな」
「おや、ガザード家の馬車がそれほどこぢんまりした物とも思えんが」
アランの言葉を、カーティスがさらりと受け流す。
そんな二人の様子を、アランの隣に座るディアナは苦笑して眺めていた。
ラトリッジ王家からの呼び出し。
国交のないフィーラン王国の軍船がアンガス港に来たこと、そしてガザード家が交渉の席に着いたことは、既に王宮に連絡済みだ。
そのことで呼び出されたのだろうと、簡単に想像が付く。
既に、歴史は前世とは違う流れを歩み始めている。
この呼び出しで、王家がどう出るか──それを思い、ディアナは小さく息を吐いた。
「何も王都までご一緒せずとも良かったのに」
「なぁに、いずれは顔を通さねばならん相手だ」
海を通して国交を広げたいフィーラン王国としては、ガザード公爵家のみならず、ラトリッジ王家とも交流を深めるのが吉だろう。
それを分かっていてなお、ディアナの表情は冴えない。
「でしたらなおのこと……私達と一緒ではない方が良かった気がします」
「……ほう」
ディアナの言葉に、言外の何かをカーティスも感じ取ったようだ。
軽く片眉を上げ、仲睦まじく隣り合った二人をまじまじと見つめる。
「ガザード家といえば、建国からの名門と聞いているが」
「そのように持て囃されたのも、今は昔のことです」
「ふむ」
カーティスが、興味深げに顎を撫でる。
軍人であるカーティスにとって、王家とは絶対的な存在。
その王家の一員である王弟を婿に迎え入れたガザード家が、このように話すとは……遠くフィーラン王国にあり、ラトリッジ王国の内情を知らぬ身に、ディアナの話は好奇心をそそるに十分過ぎるほどだった。
「フィーラン王国には、このような話が言い伝えられている。“遠くラトリッジ王国には、王家と五人の護り手が居る”とな」
「五人の護り手……?」
「ああ、遙か昔から言われている話だ」
ディアナだけではない、王族であるアランにとっても、初めて聞く話だった。
「そんな話、初めて聞きました……」
「こちらにも、何か説話が残っているのではないかと思っていたのだが」
ディアナが問いかけるように、アランを見上げる。
アランはゆっくり首を左右に振るだけだった。
アランの母方もまた五大貴族の一つであったが、ペニントン公爵家は先王の子を身籠もったことで謀反を画策したとして、既に断絶済みだ。
ペニントン家に伝わる話を、アランが知る由もない。
「お父様なら、何か知っているかもしれませんが……」
次期当主となることが決まっていたとしても、ディアナはいまだ、爵位を継いではいない。
前世では父の死の前後、流行り病で国中が騒然としていた。
ディアナは慌ただしく当主の座に就き、それ以降、ずっと公爵家の政務に追われていた。
父が残してくれた書物を読み解く時間はなく、遺品の整理は、全て妹のコーデリアが行っていた。
「ま、単に沿岸諸国が内陸の国にちょっかいをかけようとして、痛い目を見たってだけかもしれないが」
そう言って、カーティスが笑う。
(王家と、五人の護り手──ラトリッジ王家と五大貴族に間違いはないのでしょうね)
内心でディアナが呟く。
どうして遙か遠方のフィーラン王国にまで、その名が伝わっていたのか。
そして、それが今にまで伝わっているのか──興味は尽きないが、今のディアナには、思案に暮れている余裕はない。
王城に到着後、カーティスはフィーラン王国特使として歓待を受け、王城に滞在することになった。
アランとディアナはカーティスと別れ、王城の長い廊下を歩く。
通されたのは、謁見の間ですらない奥まった一室。
「お待ちしておりました」
そこには、ラトリッジ王国の若き宰相──ローレンスの右腕とも言われるセオドア・サクソン侯爵が待ち構えていた。









