表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
2章:荒波を越えて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/42

37:双子の姉は、海上を制する

港町アンガスから遙か離れた沖合。

沿岸諸国へと通じる外洋を支配するのは、各国の海軍ではなく、国を股に掛けた略奪者──海賊の一味だった。


彼等は決して大きな組織ではない。

しかし、その狡猾さにおいて群を抜いていた。

国の窓口となる港町、そして各国の海軍本部に対して、強い影響力を持っている。


袖の下を渡された上層部は腐敗し、末端の人間達は海賊達から略取される。

そうして肥え太った海賊は、自分達が生き残る為に金を使う──一種の政治的な駆け引きが行われていた。


その体制を壊したのが、フィーラン王国の海軍提督──カーティス・マクブライドだ。

前世の彼は賄賂を嗅がされた上層部の言葉も聞かず、独断で海賊の本拠地に攻め入った。

そうして悪しき旧体質は一掃され、外洋は交易が盛んに行われる新たな時代を迎えたのだ。


「この船と海賊の船、大砲の射程はどちらが長いのですか?」


ディアナは甲板に立ち、腕を組んで海賊船の群れを睨め付けるカーティス・マクブライドを見上げた。


「こちらの船の方が遙かに長いに決まっているだろう」


返答は、彼女が予想した通りだった。

旧式の船を多く交えた海賊船と、フィーラン王国の技術を注ぎ込んだ最新鋭の軍艦では、比べるべくもない。


「でしたら、大丈夫そうですね」


ディアナの言葉に、カーティスが片眉を上げる。

前世でカーティスが海賊の本拠地を制圧した際には、フィーラン王国側の犠牲も少なからず出たという。

戦であれば、犠牲は付き物。

それ自体、なんら不思議なことはない。

だが──無駄な犠牲を出さずに済むならば、それに越したことはないと、ディアナは考えていた。


「打ってこないということは、今はまだ彼等の射程外ということでしょうか」

「ああ。こちらの射程内ではある」


カーティスの言葉に、ディアナは満足げに頷いた。


「でしたら、どうぞ意のままに」

「……どういう意味だ?」


カーティスの細く眇められた瞳が、ディアナを射貫く。


「彼等の船は、これ以上こちらに近付くことは出来ませんから」


その言葉に驚いたのは、カーティスだけではない。

甲板に居た船員達も、アランもまた、目を見張りディアナを見た。

次いで、人々の視線が海賊船へと向けられる。

海賊船の周囲だけ、波の白が硬質な光へと変わり、さざめきが“軋み”に変わった。


「あれは……」

「海賊船の周辺だけ、氷が張っている!?」


驚く船員達の声に、ディアナが妖艶な笑みを浮かべる。

海水を凍てつかせるほどの力──それが誰によるものなのか、船員達は怯えを孕んだ視線を甲板に立つ女性に向けた。


「恐ろしいことを考える……が、実に合理的だ」

「相手が海賊であれば、良心も痛みませんもの」


カーティスの声に、ディアナが笑う。

すぐさま砲撃が開始され、動けぬ的に向かって、砲弾が降り注いだ。

海賊船からも大砲やバリスタが放たれたが、射程の違いを埋められるはずもない。


海賊達のやり方は、船を乗り付けての強襲と略奪行為が主だ。

旧式の船で射程が短くとも、懐に潜り込んでしまえばなんら問題はない。

しかし、今行われているのは、既に戦闘行為ではない──一方的な虐殺だった。


旧式の大砲やバリスタが届かぬ距離では、海賊達の悲鳴が聞こえてくることもない。

ただ──一方的に砲弾を浴び続けている船上は、おそらく阿鼻叫喚の地獄と化していることだろう。

ディアナは、あえて海賊船から目を逸らしていた。


必要以上に長引かせる気はない。

“勝つ”のではなく、“終わらせる”──それがディアナの出した答えだった。


「大丈夫か?」

「あ……」


慣れぬ船上でふらつきがちなディアナの身体を、アランが抱き寄せる。

逞しい腕に抱かれて、ディアナの頬が僅かに赤らんだ。


「大分魔力を消耗しただろう、暫く寄り掛かっているといい」

「はい」


船員達の怯えた視線とは裏腹に、夫が向ける視線は、どこまでも甘い。

どれだけ膨大な魔力を保持しようと、恐ろしい魔法を繰り出そうと、ディアナは船酔いに苦しむ一人の女性なのだ。

そのことを、アランだけが知っていた。


「……ラトリッジ王国には手を出すなと昔から言われていたが、なるほど」


否、アラン以外にもう一人、そのことを知る人物が居た。

皮肉げに口元を歪め、じっと二人を見遣る。


「どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、そのままだ。沿岸諸国に昔から伝わる格言だよ。“ラトリッジの岸に近づくな。海より先に魔が牙を剥く”──と、そう言われてきた」


アランの言葉に、カーティスが素っ気なく返す。

フィーラン王国は元より、沿岸諸国とラトリッジ王国の関わりは、極めて薄い。

海を隔てた遠い国に、どのような話が伝わっているのか……じっとカーティスを見据えるアランの瞳には、警戒の色が滲んでいた。


「五大貴族だったか? 厄介な守り人が居ると聞いている」

「今ではもう、五大貴族とさえ言えません」


ディアナが小さく笑みを零す。

かつてラトリッジ王国を支えたと言われる、五大貴族──その半数は、既に没してしまった。

元のままで残っているのは、ガザード家とエルドレッド家のみ。


「ほう……少なくとも、ガザードという名には聞き覚えがあるのだが」

「古い家柄ではありますが、それだけで出来るなら、誰も苦労はしませんわ」


カーティスの追求をさらりと躱すディアナだが、内心では面白いはずもない。

五大貴族だから、名門の生まれだから──ディアナが優れた成績を残す度に、そう言われ続けてきた。


(確かに血筋もあるかもしれないけれど──ここまで魔術に習熟したのは、それだけの研鑽を重ねてきたからだというのに)


そんなディアナの心の内を知ってか知らずか、細い肩を抱き寄せるアランの腕に、力が籠められた。


「……待て、何かおかしいぞ」


不意に、船員の一人が声を上げる。

海賊船の様子を観察していた彼は、数歩後退り、目を見開いた。


「海賊船が──“何か”に襲われている!!」


哨戒が放つ声が、船上に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらで公開している短編小説「どうして私が出来損ないだとお思いで?」が、ツギクルブックス様より書籍化されることになりました!

どうして私が出来損ないだとお思いで? 販促用画像


また、現在ピッコマで掲載されている小説

【連載中】二股王太子との婚約を破棄して、子持ち貴族に嫁ぎました

【連載中】捨てられた公爵夫人は、護衛騎士になって溺愛される ~最低夫の腹いせに異国の騎士と一夜を共にした結果~

【完結済】魔族生まれの聖女様!?

こちらもどうぞよろしくお願いします!
どうして私が出来損ないだとお思いで? 表紙画像 二股王太子との婚約を破棄して、子持ち貴族に嫁ぎました 表紙画像 捨てられた公爵夫人は、護衛騎士になって溺愛される ~最低夫の腹いせに異国の騎士と一夜を共にした結果~ 表紙画像 魔族生まれの聖女様!? 表紙画像
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ