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【書籍化】双子の妹に殺された姉、二度目の人生は初恋のイケおじ王弟にフルベットします!  作者: 黒猫ている
1章:運命に抗う者達

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24:王弟は苦悩する

ざっ、ざっ……と、土を踏む音を響かせて、アランは一歩ずつモニークに近付いていった。


ベンチから腰を浮かし掛けたモニーク。

彼女の傍らには破れた包み紙と、宝飾店の小箱がある。

本来指輪が収められているのだろう窪み部分には、何も嵌められていない。


ちらりと小箱に視線を送り、再びモニークに戻す。

その瞳には、静かな怒りさえ宿っていた。


「聞かせてもらおう。どうして俺に店主からの言葉を伝えなかった?」


決して荒ぶることのない、低く落ち着いた声。

その声音こそが、アランの状態を如実に表していた。

混乱するでも動揺するでもなく、あくまで冷静に、まるで罪人を問い詰める時のような声音。


「は……は、はは……」


モニークは全てを諦めきったような表情で、乾いた笑いを浮かべた。

浮かし掛けた腰を沈め、再びベンチに腰を下ろす。

彼女の両手は、ぐしゃぐしゃと自らの赤毛を掻き毟った。


「見られてしまったのね……」


その一言は、彼女の行動を全て肯定していた。


アランにわざと店主の言葉を伝えなかったこと。

アランに代わって、自らが指輪を受け取ったこと。

そして、その指輪を──手放したこと。


「指輪をどこにやった?」

「さぁ、私にも分からないわ」


モニークの言葉に、アランが低く身構える。

あふれ出る殺気に、たまらずモニークが両手を挙げた。


「本当に分からないの。名前も知らない子供達に、渡してしまったから……」


アランにとっては、正に予想外の言葉だった。

彼女の行動の意味も、その理由も、何もかもが理解出来ない。


「どうしてそんなことを?」


湧き上がる怒りを必死に抑え、努めて冷静に言葉を紡ぐ。

そうしなければ、今にも殴りかかってしまいそうだった。


「あの指輪がなければ……結婚式は延期されるかもしれない。そう思ったら、勝手に身体が動いていたわ……」


モニークの言葉を聞いてもなお、アランは砂粒ほども理解出来なかった。


どうしてモニークが、自分とディアナの婚姻を邪魔するのか。

どれだけ考えたところで、彼の思考は正しい答えに繋がる回路を構築出来てはいない。


「なぜ……」


かろうじて絞り出した言葉に、モニークの嘲笑が重なった。


「どうしてかって、それを貴方が言うのね。あんな小娘の求愛を受け入れておいて、私のことなんて一切見向きもしてくれない、貴方が!」


モニークの悲痛な声が、茜色に染まる公園に響く。

日が傾き、子供達は皆家路に就いたのだろう。

日中とは打って変わって、辺りは静まり返っていた。


「……どうしては、こちらの台詞よ」


俯くモニークの唇から零れた声は、奇妙にくぐもっていた。


「なんで……なんで、私じゃないの? あんなにも貴方の傍に居て、貴方の為に働いてきたというのに!!」


モニークの言葉にアランが一瞬呆気にとられ、その後ゆるりと首を振った。


「違うぞ、モニーク。俺達が働いてきたのは、俺の為ではない。騎士団の為、国の為、ひいては国民の為だ」

「はっ」


アランの馬鹿真面目な言葉に、モニークが笑い声を上げる。

ここまで言っても、なおアランはモニークを女性として意識しようとはしていない。

どこまでも仕事仲間であると、その態度が、言葉が、物語っていた。


「そんな言葉が聞きたいんじゃないわ。私はただ──」

「モニーク」


彼女の言葉を遮るように、アランが語気を強める。

武人としての佇まい。

物を言わせぬ気迫。

モニークが黙り込むと、再びアランは唇を開いた。


「俺は、ディアナ以外の人を女性として意識したことはない」

「────っっ」


彼女の想いを乗せた言葉さえ寄せ付けぬ、それは明確な拒絶の言葉だった。


「これまでも、そしてこれからも。俺にとって、愛する女性はディアナただ一人だ」


アランの言葉に、再びモニークが俯く。


「失恋すら、させてくれないのね……」


想いを告げることさえ許さない。

女性として意識されない、恋愛の対象にさえ入れてもらえない。

あまりに酷い言葉だが──それが期待を持たせない為のアランなりの優しさだということも、またモニークには分かっていた。


俯くモニークの顎に、一筋雫が伝う。

それを騎士服の袖で拭うと、モニークは公園のベンチから立ち上がった。

茜色だった公園は少しずつ影の濃さを増し、夜の色が混じりつつある。


「……私自身が盗人になるだなんて、考えたこともなかったわ」


ぽつりと零した言葉。

モニーク自身、自分が犯した罪を認めている。

あまりに衝動的で、あまりに浅はかな行為。

彼女がそれほどまでに追い詰められていたことを、アランは察してしまった。


だからこそ、強い態度でモニークとは線を引く。

その断固とした態度は、モニークにも伝わっていた。


「最初から分かってはいたのよ、いけないことだって。けど、少しだけ、夢を見てしまったの。まだ、貴方に振り向いて貰えるんじゃないかって……そんな可能性、最初っから無かったのにね……」


自嘲気味な笑い声は、涙に滲んでいた。


「……自分のしたことは、自分でけじめを付けるわ。もっとも、貴方の可愛いあの子の為に、わざわざ指輪を探してやる気にはなれないけれど」


そう皮肉げに言い残し、モニークが歩き出す。

向かう先は、己の勤め先である第三騎士団の詰所。

ただし、副団長として、女騎士としてではない。

一人の犯罪者として、重い足取りで詰所へと向かっていた──。




「はあぁぁ……」


モニークが立ち去った後、アランはすっかり日が沈んだ公園で、一人ベンチに座り頭を抱えていた。

モニークのこと、指輪の行方、そしてディアナのこと──様々な思考が所狭しと脳内を駆け巡るが、何一つ答えは導き出せないままだ。


こうしている時間はない。

急がなければ、もう指輪は見付からないかもしれない。


いっそ、新しい物を再度注文するか。

果たして、それで結婚式に間に合うのか。

自分一人であれこれ考えたところで、結論など出せるはずもない。


「……仕方ない」


今はまだ、日が沈みきった直後だ。

急げば、宝飾店の店主に再度新しい指輪を手配してもらうよう、頼めるかもしれない。


それでもし間に合わないと言われたら──別の指輪を選ぶか、あるいは指輪を探すか。

どちらにせよ、やるしかない。

既に結婚式の日取りは決まっている、それまでに間に合わせるしかないのだ。


アランの脳裏に、指輪を選んだ日のディアナの笑顔が浮かぶ。

少しでも、彼女の表情を曇らせたくないというのに──事実を知って、彼女はどう想うだろうか。


ズキリと、アランの胸が痛んだ。


「俺は……どうしようもない男だな……」

「そんなことはありませんわ」


暗がりの中響いてきたのは、思い人の声だった。

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― 新着の感想 ―
ごめんだけどモニークに全く同情できないわ。
真面目な話、骨董品(ヴィンテージやアンティーク)の指輪を使う、なんてのも有るらしいですね。
こ、拗らせたBBAの醜さ下品さ全開にドン引き…
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