第一話「魔術師」I
「な、何だよ!?」
更に驚愕。耳元に響いた女の声に、素早く首を振り向いた。
「回復の魔術は使えないのかしら?」
「は?」
呆然としていたのか。僅かに女の質問に対して思考の機能が遅れた。
無論、エリスは海斗が魔法使いだと勘違いしている。
(此処はただの高校生だと話した方が良い……のか? )
「いや……俺は魔法使えないし。」
「あら、てっきり魔術師かと思ったのだけれど。”異術者”だったのね。」
「いや……そうでもなくて」
「じゃあ、何なのよ?」
「ただの高校生です」
海斗の勇断、きっぱりと断言した。
「高校生という名目で、本当は何の魔術師かしら?」
「はぁ?」
「見苦しいわね。白を切るつもりならそのままで良いけれど。」
一蹴するかのようにアッサリと答えた。
「それより、何処か休憩出来る場所は無いのかしら」
「解らない……」
「そうだ。貴方の家はどうかしら。」
一瞬、海斗の目が点になる。
(何を言ってるんだこいつは)
「あのな。敵か味方か解らない相手の家に泊まるつもりなのか? 」
「違うわよ。私もそこまで馬鹿じゃないわ」
「いいや、馬鹿だ! 」
海斗は一緒に泊まるという言葉を聞いて動揺を隠しきれない。
「それだったら、貴方も馬鹿よ。敵か味方かさえ解らない私を助けたんですから」
「くっ。」
舌打ち紛いに、悔しそうな表情を浮かべる。
彼女に口で圧倒されていた。
「だがな……。」
「勿論、ただとは言わないわ。貴方のルールには従うし、貴方の生活の邪魔をしたりはしない」
「……はぁ」
(結局何を言っても無駄そうだな。)
諦めがちにため息をはいた。
「それで答えは? 」
「迷惑を本当にかけないんだな……」
「ええ、当然でしょ? 」
食いつく海斗にエリスの壁眼が煌めく。
何を言っても無駄だと解れば、返事は一つしかなかったのだ。
「――……解った。」
「フフフ。交渉成立ね。まずは動けない私を動かして頂戴 」
「……はぁ。 」
エリスの前に立ち、海斗はしゃがんだ。
細い両腕が海斗の胸部を巻くと、太股を支え彼女を抱えあげた。
「所で……随分と荒れたがどうなるんだ」
「さぁ? 」
「さぁって……」
「フフフ、大丈夫よ。元の姿に戻るわ」
「それも魔法の力か」
「何言ってるのよ。知ってる癖に」
「知らん 」
「またトボケちゃって。」
「違うぅぅぅ!」
こうして 海斗の非日常的な生活の幕が開いた。
完
長くなりましたが、一話が終わりました!!