第五話「人為的魔力暴走」J
積み木で重ねられた塔で例えるなら、その為に必要な一定の数(量)が魔力。
月夜は特殊な方法で魔力の一部を振り落とすことにより、
積み木で重ねられた塔と言う名の魔法を崩したのだ。(ジェンガのような物を想像すると解りやすい。)
そして感じた違和感。
普通、攻撃で消える際は魔力毎消滅するかあるいは別の魔力攻撃に巻き込まれる。
しかし、一部の積み木(魔力)が一定量に振り払われたという違和感があったことで、エリスの現在の見解に至ったのだ。
淡々とエリスは語った
「ですが、私は気付かない振りをした。じゃなければ負けていましたから。」
「……?」
まるでエリスの勝ちが必然だったような物言いに、
月夜は首を傾げようとするが、動くことを許されない。
ただ、その眼差しは疑問に満ちているかのようだった。
「私の勝因は只一つ、『貴女の能力』そのものです。」
「私の……?」
「そう、魔術特化した私と補助魔法を駆使した私の速度、そして呆気なく破られた接近能力。」
「貴女は恐らく、相手は接近戦も歯が立たない、遠距離しか選択肢しかが無いと踏んで勝ちを確信していた筈。」
エリスは淡々と語った。
感覚的にも合理的にも納得のいく判断を的確にならべ
「そして私が貴女の能力に気付いた時、勝ちを確信しましたわ。」
「そう、私があの巨大な竜巻を発生した時、貴女は私が能力に気付いてないと悟ったのではありませんか?」
「……まさか。」
月夜の思考の中で此までの記憶と、視界が霞んだ瞬間が繋がった。
「私があの竜巻を発生したのは、攻撃の為じゃない……単純に砂や砂利が欲しかっただけなんですよ。」
エリスは竜巻が破られることを予見していた。
竜巻は決め手じゃなくて決め手に入る前の『下準備』
竜巻の強風を使い、砂をかき集めその砂を破られた後の風弾に込め、そして風刃刀を形成した後。
本番の一か罰かの賭、一瞬の不意を作ろうとした。
こんな偶然的な事をエリスはやってのけたのだが、此を100パーセントと言い切る理由はただ一つ
「貴女が不意を作ったのは貴女自身のもの、自分自身の能力に過信し尚も風弾を斬り続けた事が何よりの勝因だわ」
「……負けたわ。」
月夜は知った。
あの戦闘の中で此ほどの思考を巡らせ、そして偶発的でも筋の通った駆け引きに出るエリスの戦術性を。
技術を猛威に単調的に振るった月夜とは歴然の差、完全な敗北だ。