第五話「人為的魔力暴走」F
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丁度その頃、戦いを知らない氷川と海斗は体育館の扉にかけられた施錠を解除したばかりだった。
風音が窓ガラスを叩くように廊下の方へと迫っても、最近風が強いなぁという氷川の独り言しか呟かれない。
無論、海斗もそれに便乗したかのようにエリスが敵と戦っているという考えは全く視野に入っていなかった。
「所で、あの転校生とは何時からつきあい始めたの?」
「だから付き合ってないって言ってるだろう。」
「あれか、もしかして主従関係って奴? おめぇ……っ超うらやましぃんだけど。俺でもそれは経験に無かったぞ。」
「だーかーらー、ちげぇって!!」
「あぁ、これから経験すんのか。すまんすまん。」
他愛の無い会話を繰り広げた所で、氷川の手が体育館へと伸びる。
施錠された所にエリスが入ってるなんて視野は教員の頭には無いのか、それとも敢えて黙っているのか。
最早警備員所か、侵入者の共犯行為をしていた。
金属の摩擦音、頭に直接来るほどの甲高い音が響くと二人とも力強く顔をしかめた。
「あぁぁぁ!! この音慣れないんだよなぁ……。」
「氷川先生、解るよ。この窓ガラスを引っかいたようにも近い音が時々来るん……」
「どうした? 青葉……?」
海斗の言葉が途中で止まると、その視線の先を氷川は見据えた。
その先に在るものとは……。
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エリスは苦戦していた。
月夜は手を翳し魔術を使ってきたかと思えば、彼女の肩幅の二倍以上の長さをした刀を取り出してきたのだ。
月光に同調したような鮮やかな色合いをした刃は小さな曲線を描き刀身はエリスを捉えんばかりに鋭く煌めいた。
エリスは手元から風を纏わせた風弾を複数放出、月夜は容赦なく突き進み風弾を難なく両断する。
月夜の速度は速い、エリスは迫られている。魔術式が相手の速度に間に合うか否か。
それが勝負の重要な分かれ目だと感覚的に察知した。
しかし、中距離、遠距離で風を駆使した空間制圧戦術がメインだが風を使い接近戦になれば話は別だ。
手段を切り替えようと、エリスの手元に異形の紋章。
風を集約すると再び、疑似的な風による刀身が現れた。
透明色で、見えにくい上に鎌鼬の殺傷性を利用して最大限まで殺傷力を引き上げる別名「風刃刀」。
それともう一つ。
そして自分の足に魔術式を展開させ、足が風に纏われると体が宙へと浮遊する。
風の補助を使って体を風船のように軽くし速度を高める補助魔法だ。