第五話「人為的魔力暴発」C
エリスは体をビクリと震わせ、廊下中に声が響くと。
「ちょっとうるさいぞ。体育館は施錠されてるんだから保管されている職員室に行かなければ高い確率で宝くじを引くのと同じ事だぞ?」
「駄目だわ……!! 職員室は駄目!! 絶対駄目っ!!」
「けど体育館の鍵が。」
右足で地団太を踏むエリスは子供の我が儘のそれだ。
しかし、金属音がぶつかるチャリチャリした音が懐から響く。
エリスはそれを取り出した。
「馬鹿ねっ!!体育館の鍵は此処にあるわよ!!此を使いなさい!!」
「おい……それどうしたんだ? 」
「杉守君から盗んだのよっ!! 私が近づけば、あの人隙だらけだったからねっ……!!」
「へぇ……。じゃあ移動手段は万全だと。」
「そ、そうよ、全く馬鹿の事、い、言わないでほしいわ。」
「というか……何で、そんなにテンパってるの?」
「別に、テンパってなんか無いわよ!! ただ、暗くてこわ……」
「こわ……?」
「い、いいえ、暗くて見えないから警戒してただけよ……。ば、場所とかあまり慣れないから。」
それでも震えた声でエリスは言うが。
海斗はそうかいと、微妙な視線でエリスの表情を捉える。
「それで、要するにお前の事だから二手に別れるって案だろ?」
「へ?」
「い、いや……だって魔術書が転移して魔術式が完成する前に止めるんだから二手に別れないと止められないだろ?」
「そ、そ、そうよね。なら、私は屋上に行くからね……!!」
「ほぅ、屋上ねぇ……。」
怪訝な眼差しで海斗は見る。
「だって中の方が……!! いえっ!! 外の方が風魔法が使いやすいですし体育館だと色々能力を制限されますからねっ!! 」
「成る程な……ところで中の方がって?」
「い、い、言い間違いを深く追求しないでちょうだい!! 童貞っ」
「(だって、中が思った以上に真っ暗で怖いだもん……。)」
とても幽霊が出るとは口に出せない。
魔術を携わっているのにも関わらず、
いや寧ろ携わってるからこそ、幽霊への感知は鋭く唐突に驚かせるそれを恐れていたのだ。
サドティック、傲慢、有名魔術者というあらゆる面でも実力を発揮するエリスの唯一の弱点、そのプライドと心霊現象。
それに気がつかない海斗にホッと胸を撫で下ろすが、その時だ。
スタスタと背後から何か聞こえれば肩を小刻みに震わせた。
「……誰か居るのか?」
「(こわいこわいこわいこわいこわいこわい。)」