第四話「魔術」I
その一方で海斗は衣服を堂々と脱ぎ上半身裸に。
最初は頬を赤くして両手で塞いでいたエリスも流石に慣れたのか、呆れたように溜息を吐く。
「何でまた脱ぐのよ。」
「ベタベタするのは嫌だからね、今のうちに着替えておくんだよ。」
「本当……デリカシー無い人。」
「そこまで言うか……?お前はデリカシー所か、人のプライバシーも考えない奴だろ。勝手に人の家に住み込んで人の布団を占領して。おまけに所持金は50円。」
「了承したのは貴方よ。それに布団の件は仕方ないじゃないの。本当に50円しか無いんだから」
便乗した海斗に対し、溜息を吐きながらエリスは反論した。
こうして男女間の生活の違いに、お互い不便もあったみたいだが気持ちによる溝もたった一週間で埋まってしまう。
良い意味でも悪い意味でもイメージに纏めるなら、結婚から数十年を迎えた夫婦のそれと何ら変わらない。
仲の良い、仲の悪いようにも捉えられた曖昧な風景。
「こっちは住ませてるんだから、少しは感謝くらいはしてほしいさ……。」
「感謝してるから居るのよ。それ以上の強要は恩着せがましいわよ。」
「本当に感謝してると?」
「しつこいわね。それだと本当に卒業できないわよ。いろんな意味で。」
「卒業してないが何故前提になっている。それにしてなくても、今この瞬間目の前で卒業正賞を受け取る事くらいは出来るぞ。」
「あら、予想外の答えだわ。私という学校で卒業するつもりなのかしら、けどそれは東京大学より価値のある卒業よ。」
「次から次へと……以前までは男の上半身を見るのさえ恥ずかしがってた奴が、こういう話にはついていけるんだな。」
苦笑い、エリスの中途半端な人柄は桜井とほぼ似通っている。
桜井も、勘は切れるのにその手の話だと鈍感だと言うように、
エリスにもこういう下な話はいけても実際の下には耐性が無いという些細な矛盾を持っている。
「う、うるさいわねっ!!あんな汚い物を見たら目を押さえたくなるでしょうがっ!」
頬を真っ赤に染めながらエリスは言う。
しかし、なんだかんだ言って恥ずかしがる時は恥ずかしがる。曲線を通り越してギザギザな変わりように海斗は苦笑いを浮かべ。
「それに……あなたじゃ無理なのよっ! 私で卒業できないのは確実ですものっ!」
「何を根拠に。」
「一つは、私が強すぎるという事! 二つはそれを知っても尚、卒業試験を受けるという、覚悟が無いこと。」