第四話「魔術」F
変も無い理科室で探りを入れている女子生徒を不自然がる者は多くなかった。故に周りは言及してこない。
異国生まれだからこの光景が奇妙に見えるんだろうと、という周りの藪睨みが物語る。
そんな事を言われても手段はあるのだが、とエリスは思考の中で算段を練っているが。
そこで動きが止まる。
「(此は……?)」
最初から薄々勘づいていたけれど。それは確信に変わった。
透明のガラスに守られた本棚から、エリスはそれを感じ取っていた。
黒く淀んだ……色合い、五感を通しては決して見えない物。
理科室の中にあったのは、見た事も無い文字でつづられた本の見出し。
「(魔術書……。)」
心の中で一言、それは間違いないと本に睨み付けると。
まさか……と脳裏に何かが遮る。
思い当たる節が一つだけ、と視線を本に戻した時
「(消えている……!?)」
目を見開くと動じ軽くため息を吐く。
魔力の気配察して、その言葉が事実だということに確信したのも数秒も満たない。
まるで舌を見せつけられた気分だと、エリスは憤りに思う。
しかし、此で手がかりが掴めたと解れば流れは傾いたも同然。
念入りに調べた結果、それ以外は何も無いと察知するとエリスは理科室を出る。
「どうだった?」
「少し不思議な所でしたね。特に人体模型。あれはちょっと怖かったわね」
少々脅えた表情を浮かべると、連司は溜まらん表情だ、と言わんばかりに囁かなガッツポーズを取る。
海斗は連司を小馬鹿にしながら笑い、桜井は不意に時計の針を見やる。
「用件が終わったようだし、そろそろ時間だね。戻ろうか。」
「もう、そんな時間か……。」
「うん、エリスちゃんが見るの長かったからねぇ。」
「あ、すいません……。」
頭を下げるエリスに、大丈夫だよ、とオーバーに桜井は手を動かす。
そして生徒会長はと言うと、エリスが見たガラスケースを遠目から凝視している。
海斗は彼女の様子を怪訝な目で見据え、
「……。」
「あの、せいと……」
キンコーンカーンコーン
窺おうと前足を踏み込んだ瞬間に、丁度良い所で鐘の音が遮ってくれた。
昼休みが終わったと同時に口うるさい五時間目の先生を二年一同は頭に思い浮かべる。
遅刻したら不味い、と焦り出して二年一同は猛ダッシュで廊下を突き抜ける。
結局、昼休みに見せた生徒会長の様子の意味を海斗が知ることは無かった