第四話「魔術」E
ゴムを弾くような音が、複数に響きわたった。
連司と海斗の追い駆けっこ。
連司は些細な金属音をチャラチャラ鳴らし、海斗は逃げ惑う民のように息を荒くする。
注意された矢先にこれだ。
「走るなって言ってるのにィィィ!!」
生徒会長の右足が子供のように地団太を踏んだ。
稚拙な追っ駆けっこ。同じ場所をグルグルと回りながらそれは続く。
逃げ手の海斗も、多少の思考は回せば良い物の。しかし連司も海斗の足に追いつかない。
「はぁ……。50歩100歩ね。」
エリスの拳が、二人の馬鹿を捉える。
鈍い音が二回響いた所で鬼ごっこは終了した。
「……作戦成功!!」
「何が作戦成功だよ……。」
女子生徒に殴られた男子高校生が二名。
その内一人は同じ女子に二回も殴られる羽目になり、もう一人は何故か喜んでいる。
呆れたような表情を浮かべるエリスと、苦笑いを浮かべる桜井と、顔を真っ赤に染めながら地団太を踏む生徒会長。
その中でもマドンナと呼ばれた女性、生徒会長は何処か子供地味ていて、そのギャップに連司のボルテージが高まりつつあるところ。
今度は海斗の拳が振り上がる。
……ようやく静かになったところで話は切り替わる。
生徒会長が加わり、廊下を弾くゴムの音が静かに響いた。
「で、理科室ねぇ。中を見る必要はあるのかしら?」
「まぁ氷川に鍵借りたんで、折角なので見ちゃいましょうよ。」
理科室が目と鼻の先にあるところで、連司は鍵を取り出しながら言った。
最後に感じた魔力の気配、その場所が理科室。この場所を調べて何もなければ、宛はなくなってしまう。
念入りに調査する必要があるわ、とエリスの目つきが変わる。
鍵穴に鍵を指すと、扉は連司の手でゆっくり開かれた。
そして海斗は見逃さなかった、その時の生徒会長の浮かない表情を。
「……」
青緑の床に、数人が使える程の机が複数。
透明ガラスで見えた灰色の棚の中には透明のフラスコや理科特有の実験用具が並んでいる。
そして隅の方で異様に佇んだ人体模型。特に変わった物は今のところ無い。
「エリスさん、折角だし中に入るか?」
「ええ。」
連司の誘いに遠慮無くと、エリスは理科室の中へ入る。
上から下、棚の隅から隅までと念入りに探った。エリスは堂々としている。