第四話「魔術」C
「まぁ良いや。」
桜井は追求しなかったことが不幸中の幸い。
連司は「出来てんのか!?」なんて声が響くが他の生徒も歩いていた為、桜井も含め他人を装った状態で進んだ。
しかし、この調子では魔法事情が公になってしまう為、海斗達は対応を改めなければならないだろう。
無論、連司なんかは眼中に無いみたいだ。
廊下の曲がり角に入ると、これから向かう部屋『理科室』について話が上がった。
「そういえば、理科室は氷川先生が鍵を持ってるんだよね」
「餅の論理、氷川から鍵借りてきたぜー 」
連司の右手から些細な金属音が聞こえる。
連司と氷川は仲が良い事は知っている。
例えるなら、最近流行っていると言う抱き枕カバーが解りやすいだろう。
抱き枕カバーとは文字通り、薄平べったい円筒上の150cm程の抱き枕にかけるカバー。カバーと言っても描写が施されたカバーだ。
その描写物の中でも人気なのは、アニメキャラクターを年齢指定ギリギリまで際どく描写した物。
要するに氷川と連司ならその需要と好み、また危ない使い方について一晩中語れる程、相性があると言うことだ。
そして、連司の右手には氷川が持つべき教員用の鍵がそこにある。
そんな同士の願いと美少女転校生の為ならばと、氷川も人肌脱いだみたいだ。
けど、エリスの着眼点は違う
「餅の論理って何ですか?」
鍵についてはどうでも良いらしく、極些細な事だった。
プッ、と海斗の息が小さく漏れると視線はエリスから連司へ
「馬鹿の造語だ。気にしない方が良い」
「馬鹿っつーなよ! 俺がいなかったら理科室にいけねぇんだぞ? 」
「此処は、お前にじゃなくて氷川に感謝しよう。」
そんな所で揶揄からう海斗に連司の手は上がったので、小走りしながら連司から逃げる。
そして、
「コラコラ、廊下は静かに歩きなさい。」
と、海斗の後ろからエリスでも桜井でも無い女性の声が響いた。
後ろを振り向きそこに居たのは。胸に届くか届かない程の茶髪のツインテールに赤と青のオッドアイ。
制服からでもラインが見えるスタイルの良い女性。
二年生の海斗達の上履きのライン色は青だが、彼女の上履きの場合は緑……即ち三年生である。