第四話『魔術』A
教室の窓際で頬杖をついている男子高校生、青葉海斗は思っていた。
周りに聞こえる先生の声をシャットアウトしながら、黒板にかかれた数式も禄に見ないまま外の景色を眺める。
エリス・フォン・シュトレーゼが来てから一週間程が過ぎ、丁度協力を頼まれて五日ほど経過する。
学校内でもエリスと海斗の会話が増えてきた。
クラスメイトは仲の良いクラスメイトで通っているけど、飽くまで協力という名目で会話する機会が増えただけである。
「はぁ……」
悩ましげに重いため息。理由はある。
昼休みから魔力の気配について学校内を探索しても、変わった進展が無いのだ。
いつも同じ事を考え鐘の音色が思考を遮って、結局あやふやのまま話は放課後から夜へと引き継がれる。
それが何回も繰り返されるという疲労感。
しかし何も進展が無いって事じゃない。とても些細な進展だが。
海斗はタオルケット一枚の生活から逃れ、ようやく部屋にもう一つ布団が増えた事。
尤もエリスの所持金五十円は変動していない。
要するに海斗は「恐喝してお金を稼ぐわ」なんていう彼女の言葉に背筋を凍らせ、
大型ゲーム機に費やす予定だった貯金をもう一枚の布団へ費やした、それだけである。
この魔法諸事情が抜け出せない。
しかし抜け出さないと日常に戻れないと、解決策を思索した所でツンツンとボールペンの丸い先のような物が海斗の二の腕をつついた。
窓側に向けていた顔を振り変えすと、そこには心配そうに表情を眉を八の時の形にした桜井愛海が。
「(……大丈夫?)」
唯一の慰めが小声で気遣いをする桜井だ。当然、彼女は魔法諸事情について知らない。
しかし、海斗が悩んでいる事を見抜くのは勘の鋭い彼女には容易な事だ。
「(すまない……。大丈夫だよ。)」
自分を気遣ってくれる友人が居る。
その人達が救われるならエリスに協力するのも本望だ、と海斗は改めて言い聞かせ、
「青葉、この問題解いて見ろ。」
チョークが黒板を刻む囁かな音が止まった所で、教員はろくに授業を聞かてない海斗を指名した。
反応が無いところで窓際の席に視線が集まる。
「(青葉君……。)」
小声が聞こえた頃に、ツンツンと再びボールペンが海斗の二の腕をつつく。
二度も心配されるとは、と桜井の優しさに口元が綻ぶ海斗。
再び桜井に振り向いて、
「(さくら……)」
と、振り返った先に複数の視線。
この時間は大恥をかく羽目になった