第三話「日常」F
「はぁ?」
海斗は首を傾げ。
冷風ばかりが吹き込む屋上で二人の高校生が佇んでいる。
現在はまだ昼休み、教室にでた直後から遡る。
教室から屋上まで、海斗の襟元を強引に掴み階段を凸凹凸凹と引きずり回したエリスは、
目的地に到達すると真剣な表情を浮かべながら「貴方も感じない?」と言ってきたのだ。
「だから、感じてるのか?って聞いてるのよ」
「保健体育なら、もう終わってるぞ。」
勘違いの海斗にエリスの右手は振り上がった。
冷風で感覚を鈍らせた海斗の頬に、痛烈で心地の良い音が響きわたった。
頬には赤い平手打ちの痕。
「馬鹿! そっちの方じゃないわよ!」
「痛ってー……。勘違いするのも当然じゃないか」
「いいえ、そうやって邪な考えが働いてるのがいけないのよ。だから卒業できないのよ。いろんな意味で」
「いろんな意味って、邪な考えはお前もしてるじゃねーか。というかもう言わないでくれ……。三連続に言われると流石に堪える。」
苦言を混じらせた海斗にエリスは沈黙し、多少の間が生まれると
「で、その様子じゃ感じて無いみたいだね。尤も貴方のことだから、こっちの都合に関わらないように敢えて感じてない振りをしてるんでしょうけど。まあ良いわ、貴方に関係のある事だから聞いてほしいの。」
「スルーすんな!」
平手で突っ込みたい所だったが、そうもいかない。
エリスの表情は再び変わった、余程深刻な物なのか海斗もそれ以上の追求はない。
「少々厄介な事でね。この中に『魔術師』が居るらしいのよ」
「ちょっと待て、魔術師はアンタ達の仲間だろ」
「いえ、必ずしもそうとは言えないわ。例えば貴方のような無所属魔法使いの中にも、金で雇われればどの勢力にも荷担するならず者とかが居るからね。」
其れは究極者消失後の異界の対立によって一際立った存在。
本来なら無所属というのは独学で魔法に手を染めた魔女のような存在か、所属した魔法組織から破門された魔術師の事を指すのだが、
それとは別に、見返りを受け取り組織に雇われる傭兵のような魔術師が居る。
身分に束縛されず好きなように動かせる便利性から魔法組織による影の対立に使われる事がある。
しかし、今では戦闘要員として金さえ払えば異界勢力にも荷担する魔術師が居るらしい。
「魔法組織は愚か、金の為に異界勢力に荷担しこの世界の魔術師としての誇りを捨てた者を『堕術師』と呼ぶわ」