第三話『日常』D
清純系と称された少女の限界。
海斗は童貞という言葉があまりにも聞き慣れて居ないことを悟った。
地雷を踏んでしまったと、右手で自分の頭を押さえ自虐する。
「そう、30年間の道程で魔法使いになるって事だよ。」
「あっ……ああ、そういう事ね!! 氷川先生に突っ込でても授業態度とかでなかなか進級できないって事だと思ったんだけど。そうよね……!! 勘違いだよね」
しかし、彼女の言った『別の意味』とはどういう意味なのか海斗は言及しない。
きっと、別の過程で卒業出来なくなると言いたかったのだろうと頭の中に留めるのだ。
それよりも、あれだけ勘が鋭いのにこの手の話になると頬を真っ赤に染める桜井はどこか異質だ。
そんな桜井が拭うように元の表情に取り戻すと、再び教室の男子生徒の声は歓喜に満ちていた。
「にしても、うるせぇな。」
「まぁシュトレーゼさんは美人だしね。きっと、アイドルの素質があるんだよ」
「そうか? 確かに賑やかになりそうなスペックは兼ね備えてるけどよ。どうも腑に落ちないんだよな」
海斗は腑に落ちないように腕を組んでいた。
エリスは確かに美人だが、男子生徒の殆どが注目する程の彼女が理解できないらしい。
飽くまで魔法諸事情に関わったエリスを知っているからだが、と海斗は思い返すと、
「フフフ……。」
「何が可笑しいんだよ」
と、考えてる最中に桜井の口が綻ぶと、その理由が見あたらなかった海斗は首を傾げるだけだった。
「まるで彼女を知っているような言い分ね。」
ギクリッ、なんて肝を抉れられたような気分だった。
思い当たる節があるからこそ海斗の胸中はクリーンヒットしたかの如く、瞬間的に鼓動が高まった。
これだから桜井は敵に回したくないんだ、と恐怖心を抱く頃、
「いやぁ、中々の美人でしたよ~。」
都合の良いタイミングで悪友の連司が乱入した。
空気が読めるというか読めないというか、しかしそのお陰で無駄な労力を使わずに話を誤魔化すに済む。
海斗は割って入る連司に素直に喜んだ。
「まるで、骨董品店の中から当たりを見つけたような様子だな。」
「お前のその比喩表現は強ち間違っていない! あの如何にもサラサラしてそうな金髪と吸い込まれそうな碧眼は中々見ないからな! 」
「美女への評は良いが、その評論も此くらいにしろよ。度が過ぎると女性陣に引かれるぞ。色んな意味で。」