第三話「日常」C
高校に入学してから桜井とは付き合いが無い海斗には解る。
彼女の勘の鋭さは度を超えている。
例えば放課後にトントン、と足踏みしながらリズムを取っている男子が居たとする。
普通の人、つまり海斗なら何の曲のリズムを取っているのか男子に尋ねるが、
比べて桜井はリズムを聞いただけでそれが何の曲なのかすぐに当ててしまう程、差があるのだ。
そして勘の鋭さだけじゃない。その着眼点や推察力を兼ね備えている。
そんな彼女を敵に回したくないと感じたのは数知れず。
「っていうか、何で転校生なんだよ。」
「飽くまで、そんな気がしただけだよ。」
と、桜井の視線が海斗からエリスの席へ。
周りには複数の人影が集まっている、さっきから教室がザワツいているのも丁度その辺りからだ。
恐らく謎の美少女転校生が来た言うことで男子共、いや女性陣も感極まっているんだろう。
「何処から来たの?」
「イギリスからですよ。」
「というか日本語うまくね? 何処で習ったの?」
「幼少の頃から日本に住んでた事がありましてね。日本語はその時に覚えたんですよ。」
「そうなんかぁ。なら、話は早い。スリーサイズ教えてください!」
「フフフ、内緒で。」
無数の質問に対し、エリスに返していた。
桜井は口元に手を添え微笑みながら、
「人気があるみたいだね。」
「そのようだね。というかあの中に連司も居るし……。」
よーく見てみればあの人混みの中に杉守連司も紛れ込んでいた。
十中八九ナンパしているんだろう。海斗は相変わらずの悪友に苦笑い、
「杉守君が行っているのに、青葉君は行かないんだ?」
「あぁ、ああいう中でギュウギュウ詰めされるのは息苦しいからね。」
「へぇ、そうなんだ……。けど、そんなんじゃ別の意味で卒業できないぞっ。」
桜井は揶揄うように笑っていた。
氷川が保健の授業に言った海斗の童貞疑惑。
あの授業以来、男子から女子からの目線が多少変わったような気がしたのは気のせいではない。
「……やめてくれ。」
「ごめんごめん。ただ笑わせようと思ってただけで、まさか気にしているとは思わなくて。」
「いや、大丈夫だよ。百歩譲ってそうだとしても、30歳まで貫けば魔法が使えるようになるらしいから。」
「魔法?」
「そう、30年間童貞のままで居ると魔法が使えるらしいよ。」
「え?ど、ど、どうて……ちょ、え?」
桜井は困惑したように言った。