第一話「魔術師」B
徐々に風音が広がる。
掌までの大きさが、胸が隠れるほどの大きさにまで膨れ上がる。
女の碧眼は力強く細められ、獲物を捉えんばかりに鋭かった。
「全く……一般人を装い不意を付こうとは、異界人は浅知恵しか働かないのかしら?」
右手を向けた儘、呆れたような声で言うもその表情は何処か愉しそうだった。
サド女……そんな言葉が海斗の頭から浮かぶ。
「何か言ったらどうかしら、異界人さん? 」
「い、異界人……な、何の事だ?」
女の言葉に動揺を見せる海斗。無論、自分が異界人だと思われているから動揺している。
けど、一般人なら思わず腰を抜かすが、海斗は充分すぎる程冷静。
彼女のみならず、とっさに自分でもつっこみたくなるほどに、
「とぼけたって無駄ですわ……。全くあんな低レベルの魔獣を出しといて、飄々と外の空間から現れてくるんですもの。いくら、敵とは言え馬鹿も大概にしてほしいです。」
「は、はぁ……?」
理解不能と、ため息を漏らす。
掌に集まる風音がそんなため息さえも遮ってくれた。
「あら、何か言いましたか? 」
「何も言っていない……」
「それにしても、貴方。こんな状況に立たされているというのにやけに冷静よね。」
女は怪訝な目を浮かべた。
無論、海斗は恐怖を感じてれば言ってる意味も理解してない。
けど、だからこそ現状を打破しなければ、と冷静に考えたのだ。
そして、現状から逃れる手を探ろうと思考を回す。
唯一つ解った事が一つだけ……極めて単純
「あんた……人違いしてないか?」
「足掻いたって無駄だわ。私が張り巡らせた結界に一般人が入ってくることはあり得ない。」
女は海斗が無実であるという証拠が無い為か一蹴した。
流石に海斗も脹ら脛を震わせながら思考を回しては回して。
本人を証拠と裏付ける物が複数思い浮かんだ。
「身分証明書を……」
「あら、それも変装の時に作ったんですか? 」
「学校に連絡して確認してくれれば……」
「なるほど他人に変装するのですか。で、本人は何処に隠したのよ!? 」
「友人に証言を……」
「他人を洗脳したのね!? やっぱり貴方は最低だわ!」
NOOOOOO!!と、心の中で何かが崩れた気がした。
女は「魔法」という都合の良い言葉ばかりを行使し、海斗の無実の訴えを蹴り飛ばしたのだ。
涙を出したいのに、風のせいで目が乾いていた。