第二話『異界人』C
だろうな。と呟く海斗はエリスがこの学校に来ることを事前に知らなかった。
しかし、彼女がここまで来た理由を聞かされれば大体の心当たりが出来てしまうからだ。
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それは数時間前、まだ夜だった頃に至る。
あの惨劇の場から彼女を自宅にまで持ち運ぶには、簡単な事だった。
単に海斗が力持ちだったというよりも、エリスの体があまりにも軽かった為、自宅まで運ぶには差ほど労力は掛からなくて。
「青葉海斗……ねぇ。聞いたこと無い名前だわ」
その頃、自己紹介を終えた二人が会話を交わしていた。
海斗はキッチンで晩ご飯を作り、エリスは卓袱台と煎餅布団が敷かれた狭い部屋で渋々と横になる。
最初は「男の臭いがするわ……」と怪訝な眼差しを向け、海斗の指示を拒み続けていたが、
それでも寒い風に当たって寝るのは嫌だったため、今は我慢するように顔をしかめ布団の中に潜り込んでいる。
「それで、あのヴェーシャって男が異界人なのか。」
彼女の方へ振り向かず、レタスを刻みながら海斗は言った。
「本当に貴方、魔術師にしては知識が拙いわね。ええ、貴方の言う通り、あれは異界人でもちょっと曲者の部類に入る者だわ」
「だから魔術師じゃないって言ってるんだが……」
「じゃあ、あの時言った『私と同じ立場』っていうのは何だったのかしら」
「あれは、あの状況から逃れる為に切羽詰まってついた嘘だ。」
「今貴方が嘘ついたと言う発言そのものが、切羽詰まってついた嘘でしか思えないわ」
はぁ、とため息を吐きながら。やっぱり海斗が何を言った所で無駄らしい。
海斗が魔術師であることは決定事項なんだろう。
「まぁ良いわ……身分を隠す魔術師なんて沢山居るからね。」
「それは当然だろう。自分は魔術師だ、なんて言ってる奴は頭の中にお花畑が咲いてる奴としか思われない。」
「御花畑が咲いてた方がある意味良かったのかもしれませんね……。」
意味深に言うエリス。現状をわからない海斗には何を言っているのかさっぱりだ。
「で……異界人って何なんだ。」
彼女の方へ近づき海斗は発した。
「読んで字の如く「異界の魔術師」ですわ。」
「異界の魔術師ねぇ……。要するに異世界の魔術師と? 」
「ええ簡単に言うなら、そうだわ。」
と、簡潔に答えた所で女の説明は続いた。
「知っての通り、異世界は二つ存在するわ。下界と上界……天国と地獄と言った方が正しいかしら。」