第二話「異界人」B
「俺をからかっているのか?」
「いや、ありのままを言ったまでだ」
こりゃ手厳しいぜと、両手を広げる連司。
いつも三人でこうして他愛の無い会話で笑いあったりするのが海斗の知っている平穏だった。
「まぁ珍しいと言えば青葉君もそうだよね……。いつもならホームルーム20分前に来るけど今日は五分前くらい。というかギリギリじゃないの。」
「こうして珍しいことが重なると、台風でも吹りそうだね。」
愛海は口元に人指し指を添え、口を小さく尖らせた。
そんな言葉を聞けば海斗は苦笑いを浮かべるしか無かったのだ。
お馴染みの鐘の音が響くと、生徒一同は席に着く。
海斗の席は窓側の奥の方、教師に指定されにくい特等席の一つだ。そこに腰を掛け頬杖を付きながら外の景色を呆然と眺めた。
扉をゆっくりと引きずる音が一回した。前の扉はまだ開いている。茶色いスーツを来たネクタイを下げる男が入ってきた。
毎度恒例の挨拶を済ませるが、どうも今日のホームルームはいつもと違っていた。
「実は、転校生が来てるんだよなぁ。」
簡単そうに担任の教員 氷川 淳が苦笑いを浮かべて言うと、教室が一瞬ざわめいた。
随分前から予定が入ってたらしいが、今氷川の口から告げられるまでは誰も知らなかったのだ。
「まぁ良いや、入ってこいよ~」
軽い口振りで言う氷川。
扉を引きずる二回目の音が響くと、教壇に現れたのは……。
「皆さんとこれから同じ部屋でお世話になります。エリス・フォン・シュトレーゼと言います。私のことはエリスと読んでくださいね。」
と律儀にお辞儀をして微笑む女。当然の如くあのエリスだった。
しかし、流石と言うべきか桜井愛海。
彼女が予見した『台風』は本当に訪れたのだ。